Categories: 実銃射撃

電子標的に隠された衝撃の真実

※煽ったタイトルになってますが、実は隠されてもいないしそれほど衝撃ってわけでもありません。

ようやく4段をゲットできた昨日の全国ピストルですが、実は最初に撃ち始めた時、正確に言うとプレパレーション&サイティングタイムで試射してたときは、「ああ、なんか今日はダメかもしれん」って感じでした。普通に真ん中に当たってるような感じなのに、ちょっと上の9.5とか9.8にばっかり集まります。高さだけに気をつけて撃つと、真横に当たったりするんでサイト調整はしたほうがよいのかよくないのか? 同じ大きさの的を、同じ距離から、同じ銃で同じ弾を撃ってるんだから、そうそう上下にズレたりするようなことはないはず、たんなる「撃ち方の感覚」で上下にズレてるのなら大きくサイトを動かすのも怖いし……(注:これ、伏線になります)。

とりあえず、「DOWN」の方に1クリックだけ、ほとんどおまじないな感じですね、サイトを動かして撃ち始めます。昨日のエントリーに書いたとおり、「今撃った一発と、これから撃つ1発以外は気にしない」を徹底していたので全体的な傾向はよく覚えていないんですが、上手く撃てればだいたい10点に入る、けれど上手く撃てたと思っても9に外れることもあるというようなペースで進みます。練習でも「だいたい上手く撃てた」と思ったのに9.8くらいに当たることは良くあるので、所詮はそこらへんが自分の実力なんだと割りきって、あまり9か10かに一喜一憂せずに撃ち進んでいきました。

他の人がほとんど撃ち終わった残り15分。弾数も残り10発かそこらになりました。ここで、いつも都の大会で一緒になるS氏が、審判団と何かモメてます。聞こうと思ってるわけじゃないんですが神経が高ぶってるせいか会話が耳に入ってきます。

S氏:「モニターには6.4と表示されている。本当に6.4を撃ってしまったのなら、白い外枠に穴が空いているはずだ。だがここから見る限り、外枠には穴が開いていないように見える」
審判:「10点は、必ずしも黒い円の中心ではない。いちおう定期検査で中心に来るように調整はしているが、確実に真ん中が10点になっているとは限らない。中心から少しズレたところが10点になっていることもある。仮に右方向に1cm中心がずれていたとしたら、左の6.4は外枠には当たらないことになる。そういうことはあり得る」

ここで、一般の方々は多分、何を言ってるのかわからない状態になってると思いますので、電子標的ってものがどういう仕組みになっているのかをご説明しましょう。

「電子」って名前が付いていますが、撃つのは普通の鉛弾です。弾を撃って、ターゲットとなる紙に当てて穴を開ける、そこまではこれまで使われてる普通の紙標的と同じです。違うのは、紙標的のように穴が開けられた標的を回収して「どこに弾が当たって穴が開けられたか」を判定するのではなく、穴が開いたその瞬間を、センサーを使って計測し(方法はいろいろあります)、弾がターゲットのどこらへんに当たったかを判定してモニターに表示、同時にプリンタ用紙に記録するという点です。

撃ってから点数が決定するまでの時間が、いちいち標的を回収するのに比べて桁違いに短くなるため、リアルタイムでの順位変動をモニターに表示するなんて離れ業まで可能になります。
 

これは50m射場の電子標的ですが、大きさ以外は10m射場のものと変わりません。中心に丸い穴が開けられた白い外枠の紙と、その後ろにある黒い背景紙という二重構造になっています。
黒い背景紙は、一発撃つたびに少しずつモーターで下方向に送られていきます。この黒い紙に弾が当たって穴が開く、その時の音をセンサーで捉えることで「どこらへんを弾が通ったか」を割り出し、それを射手の手元にあるモニターに表示するというのが電子標的の仕組みです。
※別の方法で計測する電子標的もあります。
ちなみに、こちらが普通の、というか今まで一般的に使われてきた紙製の標的です。7点までが黒丸、その外側は白くなっています。狙うときは細かい点数なんか見えませんから、黒丸とサイトを合わせて狙います。ちなみに左写真だと、10点にギリギリでカスらなかった9点(9.9)になります。

電子標的には、見ての通り普通のブルズアイターゲットにある「10点・9点・8点・7点……」といった点数を区切る線のたぐいは一切描かれていません。あるのは白い外枠の紙と、内側の黒い紙だけです。センサーで得られた測定結果から、弾がどこを通ったのかを判定し、最終的に得点を決めるのはコンピューターの仕事になるわけですね。
 

これは10m射場の、射手の手元にあるモニターと結果プリント用のプリンターです。撃った弾がどこに当たったのかが即座に小数点単位で計算され表示され記録されます。

細かい得点を区切る線こそ描かれていないものの、電子標的の黒丸は紙標的の黒丸と一致していて、その中心が10点、黒丸と白枠との境界線は7点と6点を分ける境界線である……と、ずっと思ってきました。しかし、実はそうじゃないらしいのです。一応、できるだけ黒丸の中心が10点になるように調整はしているが、若干ズレることはあり、射手はそれを前提にしてサイトを調整して撃たなければならないもの……それが電子標的というものだったのです。
 

左が、目で見たときの電子標的。標的上には描かれていないが、当然のことながら右のように黒丸にピッタリ重なる形で得点を区切る線が存在しているものだと思っていたのですが……
実はそうではなく、例えばこのように得点を判定する仮想線が黒丸から少し左にズレていたりする、電子標的というのはそういうことが「ありうる」ものだったのです。
そうするとどういうことが起きるか? この図のように、「ちょっと右にズレたけれどほとんど真ん中だし、確実に10点は取れただろう」と思ったのに、点数を見ると右に外れた9点になっている、なんてことが起こるわけです。
上で書いたS氏の例は、こんな感じだったと思われます(注:S氏は普段はこんなところ絶対に撃つわけない腕前の人です)。黒丸の中ギリギリに入る、紙標的だったら7点になるはずなのに、電子標的の判定エリアがずれているために6点になってしまった。紙標的だったら白い所だが、電子標的の外枠の白い紙には穴が開いていないという不思議な現象が起きたわけです。
左右だけじゃなく上下にずれていることだって起こりえます。「だいたい真ん中に当たってるハズなのに、ちょっとだけ上にずれたところに弾着が表示される……」という時は、もしかしたら電子標的の判定エリアが下にずれているのかもしれません。

4段を賭けた大事な大会、それも(計算こそしないように心がけてはいたものの)555点に届くか届かないかものすごく微妙という切羽詰まった状態、残り10分かそこらで10発近く残っているという土壇場において、こんなことを聞かされるというのは、けっこうなんというか、たまったものじゃありません。けれど、逆に言うとそんな状況でこんな衝撃の事実を聞かされたおかげで、残り点数がどうのこうのなんてのが頭から吹っ飛んでしまったのが、最後の最後でギリギリ555点に届いた最大の理由なのかもしれません。

ポジティブ思考大事。

それはそれとして。

「電子標的ってそんなオソマツなものなのか、それって欠陥じゃないのか?」

必ずしもそうとは言えません。標的の黒丸は、あくまで「照準をつけるための目安」でしかなく、狙うのはその中に描かれた(射手の目では見えない)10点である、という点は今までと変わらないわけです。その10点が黒丸の中心にあろうが、中心から外れたところにあろうが、サイトを調整してちゃんと撃てば弾がそこに当たるようにして、あとは60発をちゃんと撃てば問題ないということになります。

このことから得られる重要な教訓が一つ。「試射は、とても重要!」ということです。普段、紙標的しか撃っていなくて、サイト調整などしなくてもいつもだいたい真ん中に集まっているという人でも、電子標的を撃つ時にはサイトを調整しなおす必要があるかもしれません。「黒丸のど真ん中」に弾が当たっても、「電子標的が考える10点ど真ん中」ではないかもしれないからです。

それと、サイトのクリックをどのくらい動かしたら、弾着がどのくらい動くかということもキチンと知っておかないとならないですね。撃っては調整、撃っては調整を繰り返すなんてことをやっていたら、たった15分の試射時間ではとても間に合いませんから。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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