Categories: 実銃射撃

トップ選手が使っているエアピストル

これまでに書いてきたエアピストル関連の記事で、トップ選手が使っているエアピストルのシェアについては「試合で見渡した印象」だけで書いていたけれど、調べてみたらキチンと統計を取ってブログにグラフにしてUPしている人がいた。日本国内のローカルな割合じゃなく、世界大会での使用率なので「より信頼がおける」内容になっているんじゃないかと思う。

以降、グラフや数字の参照元:IGOR’S BLOG
http://toz35.blogspot.co.uk/
 

データは2014年の世界選手権、10mピストル男子。やっぱりシェアが一番大きいのはステイヤー。LP10とLP10Eで過半数を占めている。続いてモリーニCM162EIが2割程度、あとはワルサーLP300とパルディニーK12を使う人が少しいて、あとはもう「そんなの使ってる人がいるんだ」と思われちゃうくらいなレアケースって感じだ。
こちらは10mピストル女子。順位は基本的に変わらないけれど、ステイヤーのシェアが少し減って過半数に届かないくらい。モリーニCM162EIのシェアもそれほど大きくなく、かわりに(男子に比べると)使用率が大きいのがパルディニーK12という結果になっている。

これだけじゃ内容的に寂しいので、せっかくだから次ページではトップシェア3機種の特徴や比較などについて。……といっても私はモリーニ以外の銃は撃ったことがないので、実際の使用者や銃砲店の人に話を聞いた範囲での紹介になってしまうけれど、その点はご容赦。なお、価格については2016年2月現在でのライフルショップエニスのカタログ価格をそのまま掲載した。

なお専門用語っぽいものについては「※」マークを付けて、最後にまとめて解説を書いた。

ステイヤーLP10

形式:圧縮空気式(※1)・単発
トリガー:機械式
発売:2000年
価格:210,000円(税抜)
Photo:Steyr Sport

3次元的に調節する(※2)ことができるグリップ、スタビライザー(反動軽減装置・※3)のおかげでトリガーを引いた瞬間の銃のアバレが無いことなどの特徴から、現時点でも最大多数かそれに次ぐくらいの大きなシェアを誇るエアピストルだ。

銃身が円筒形ではなく角ばった形をしているが、これはエアソフトガン等と同じように内部に普通の円筒形のバレル(いわゆるインナーバレル)があり、四角いのはバレルシュラウド(エアガン的な言い方をすればアウターバレル)に相当する。バレルシュラウドの側面はレールになっていて、4つ付属する10gのウエイトを任意の場所に取り付けることで全体のバランスを調節することができる。バレルの先の方が重いのが好きな人は先端の方に、グリップに近い方が重いのが好みの人は手前にといった具合だ。

銃身の上に3つのミゾがある。まるでピカティニーレールのミゾみたいな感じだが、これはドットサイトやスコープを取り付けるためのものじゃなく、ここに穴が開いていて銃身内からエアを上方向に吹き出し、銃身のはねあがりを抑えるためのものだ。……とはいえ、この部分にドットサイトを取り付けて撃ってる写真とか見ることがあるので(もちろん公式の大会にはそれでは参加できない)、やってやれないことはないらしい。

発売当初は、「撃ってるうちに、なにもしてないのにトリガープル(※4)がどんどん軽くなっていく」という謎現象が起きることで知られていた。エアピストル競技はルールでトリガープルが500g以上と定められているため、大会終了後にランダムで行われる銃器検査において、もし規定以下の軽いトリガープルになってしまっていた場合、せっかく撃ったのに失格になるという悲惨な結果になってしまう。「LP10を使っていると、高確率でランダムチェックの対象になる(怪しいから)」なんて言われていた時代もあった。

ただし、銃砲店の人によれば今は改善されてそんな危ないこと(勝手にトリガープルが軽くなるようなこと)は起こらないとのことだ。
 

ステイヤーLP10E

形式:圧縮空気式・単発
トリガー:エレクトリックトリガー(※5)
発売:2009年
価格:242,000円(税抜)
Photo : Steyr Sport

トップシェアを誇るLP10に電磁トリガーが付いて、競技ピストルに必要とされる最新装備を全て盛り込んだ「全部盛り」な製品として鳴り物入りで登場したのがLP10E。LP10が持つ多くのシューターに愛されている機能をそのままに、ほぼ究極のトリガープルを実現するエレクトリックトリガーを搭載したということで、一気にシェアを塗り替えることは確実と思われたのだが……。

発売直後の評判は、「さんさんたるものだった」と言っても構わないと思う。とにかく、スグに壊れる、何もしてなくても撃てなくなる、なにか致命的な欠陥があるに違いない、改良されるまで購入するのは様子をみたほうがいい……。そんな風に言われていた。実際に所持者だったわけではないので原因はわからないのだが、少なくても故障が多かったのは事実らしい。

現在は改善され、十分な信頼性のある製品になっているという話だが、LP10、LP10Eと続いた「どこか信用ならない」的な印象というのはどうしても払拭できず、購入に二の足を踏ませてしまう原因になっている。
 

モリーニCM162EI

形式:圧縮空気式・単発
トリガー:エレクトリックトリガー
発売:1992年
価格:259,000円(税抜)
Photo : Morini

シェア1位・2位のステイヤーに比べると、明らかに発売年が古いモリーニCM162EI。最新型のLP10Eに比べると実に17年前、オリンピック4回分もの開きがある。他の、道具を使う系のスポーツだったら毎年新しいモデルが出てカタログを賑やかし、「前シーズンモデル」なんてのは専門ショップで投げ売りされるのが当たり前って感じだと思うのだが、20年近くも前に発売された製品が未だにシェアトップ3に君臨し続けているというのは、これも射撃競技の特色の一つなのかなーとか思ってしまう。

機能を見ていけば、さすがに古臭さを感じる。グリップは固定されていて、ステイヤーみたいな3D調整なんて芸当はできない。スタビライザー(反動軽減装置)も搭載されていない。銃身は円筒のままなのでウエイトを取り付けることもできない。スタビライザーの効果はどのくらいのものなのか? 両方を所持した経験がある人に、「まだモリーニ使ってんの? 反動凄いでしょソレ、バシーンって」なんて同情されてしまうくらいには違うらしい。

こんなにも「古い」エアピストルが、なぜ未だに大勢のトップシューターに使われ続けているのか? それはひとえに「トリガーが良いから」に尽きるとんじゃないだろうか。トリガーの引き味、キレの良さ、プルの安定、そして信頼性といった点が、この「何も最新の機能を持ってない旧型のエアピストル」を現役たらしめている大きな理由だろう。ピストル射撃において最も重要なのはトリガー。銃を安定して構えるだとか、サイトを正確に合わせるだとか、それももちろん重要ではあるのだけれど、優先順位を付けるとしたら圧倒的に、「トリガーを真っ直ぐ、銃を動かさないように引くこと」、それに尽きる。トリガーの良さこそが競技用ピストルに求められる必須要素なのだってことを、多くのピストルシューターは身にしみて知っていて、だからこそモリーニが選ばれ続けているのではないかと思う。
 

用語説明

※1: 圧縮空気式……プリチャージ、PCPとも呼ばれる。銃身下にある円筒形のタンクに空気を超高圧(200気圧)で詰め込み、その力を使って弾を撃つ。1回のチャージで撃てる弾数は、モリーニで200発、ステイヤーで180発程度とのこと。過去には液化二酸化炭素をタンク内に注入して使う「CO2式」や、一発ずつレバーをコッキングする「ポンプ式」もあったが、今ではほとんど使われていない。

※2: 3D調節グリップ……グリップの角度を、あらゆる方向に自由に調整できるシステム。人間の頭にたとえると、ターゲットを向いた時に「頷いたり上を見たり」「首をかしげたり」「左右をきょろきょろ向いたり」といった3方向の調整ができるものを指す。もちろん無制限に動かせるわけではなく制限はある。また、限界まで回転させると銃の左右サイズなどが規定をオーバーしてしまい、グリップをヤスリで削らなければならないなんてハメにもなったりする。

※3: 反動軽減装置……ステイヤーは「スタビライザー」、ワルサーは「アブソーバー」と呼んでいる。目的は同じで、弾が銃身内で加速する時の反動を、ウエイトを銃の内部で後方に向けて動かすことで打ち消し、発射時の銃の動きを抑制しようとするものだ。ステイヤーの「スタビライザー」はスプリングの力を使ったものだが、ワルサーの「アブソーバー」は磁石の力を使ったものという具合に、仕組みには違いがある。

※4: トリガープル……トリガーを引くときに必要になる力の大きさ。「トリガーの重さ」なんて呼び方をすることもある。ピストル射撃は、銃を保持している手と、トリガーを引く指が付いている手が同じ一つの手なので、「銃を動かさずにトリガーを引く」ことが非常に難しい。トリガープルは軽ければ軽いほど良いのだが、ルールで「500g以上」という定めがあり、それ以上軽くすることは許されていない。

※5: エレクトリックトリガー……空気銃でも装薬銃でも、発射のきっかけになるのは「パーツを動かしスプリングを変形させ、そのパーツを何かで引っ掛けて止めておく。その引っ掛かりを外すことでパーツがスプリングの力で勢い良く動き、何かを叩く」というメカニズムになる。電気的なスイッチを使ってソレノイド(電磁石)を作動させ、その力で「引っ掛かりを外す」のがエレクトリックトリガーだ。「引っ掛かりが外れ始めてから、外れ終わるまで」の擦れる動きがトリガーとは全く関わりがない部分で起こるため、極めてキレが良いトリガーを単純なシステムで実現できるという利点がある。

 

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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