Q:競技用エアピストルにある反動軽減装置ってどういう仕組み?
A:発射と同時に、カウンターウエイトを銃の内部で勢い良く動かすもの。
新しく発売される競技用エアピストルには、ほぼ必須装備となっているのが反動軽減装置。スタビライザーなんて呼ばれ方をしている。仕組みはメーカーによって様々だけれど、基本的には「弾が銃身内で加速する際の反動を、同時にウエイトを銃の内部で後方に向けて動かすことで打ち消す」という仕組みだ。
軍用のロケットランチャーなんかには「無反動砲」って呼ばれているものがあるけれど、物理的な原理は同じといえば同じ。ただ、あちらは銃の内部でウエイトをちょびっと動かす程度じゃどうともならない莫大な反動を打ち消さないとならないので、弾を撃つのと同時にウエイト(固体だったり気体だったり)を後方に勢い良く発射する(だから、発射時には前方だけじゃなく後方も危険区域になるし、部屋の中などの閉鎖された空間では撃てないという特徴がある)という点が異なる。
上のアニメーションで、オレンジ色で描いた部品(実際は円筒状の形をしている)がスタビライザー。その外側にある筒(緑色で描かれている)が弾を装填するときに動かすチャージングレバーと連動していて、その操作によってバネを押し付けるような形で前方に移動し、ツメで引っ掛けて留めてある形になる。
エレクトリックトリガーの仕組みはモリーニと基本的には同じで、「接点が離れた瞬間にソレノイドが作動して発射」というもの。モリーニと比べていろいろギミックがあるので、よりコンパクトなパーツ構成になっている。他に大きな違いといえば、モリーニのように「引きバネ」が使われておらず、全て「押しバネ」で構成されているという点が挙げられる。
縮んでいる状態のバネを引っ張って伸ばすことで機能させる引きバネは、伸びている状態のバネを押して縮めることで機能させる押しバネよりも「バネとしての性能」は高いとされる。より滑らかに、引っ掛かりなく、変形量に比例した力を発生する。ならばなぜ引きバネではなく押しバネを敢えて使うのかというと、信頼性を高めるためというのが理由として挙げられることが多い。引きバネは、バネが折れると完全に機能を失うが、押しバネは適切な設計をすればバネが折れたとしても機能は若干損なわれるものの失われることはないという点に違いがある。「万が一にも故障が許されない機械」に使う場合、引きバネは敬遠され押しバネがメインになる。銃なんてのはまさにそういう機械の代表格だ。
とはいえ、命のやり取りをしているわけじゃない、あくまでスポーツ射撃用の銃なのだから、万が一のリスクよりも性能を優先するというのは合理的な判断ではある。それに軍用に使われている銃でも、最近のものは平気で引きバネが使われていたりする(代表例がオーストリア製のグロック拳銃)。競技銃にも頑なに引きバネを使わず押しバネだけで設計しようとするのは、流儀というか意地みたいなものなのかもしれない。ステイヤーは軍用銃も作っているメーカーだし。
さて、肝心のスタビライザーの作動について。ストライカーがバルブを叩き高圧のエアがチャンバー内に吹きつけられるが、そのエアの一部がスタビライザーを引っ掛けて留めていたツメに吹きつけられ、ツメを吹き飛ばす形でスタビライザーから外す。するとスタビライザーは内蔵されたバネの力によって勢い良く後退する。弾が銃身内で加速するタイミングと、スタビライザーが後退するタイミングをピッタリ合わせることで、反動をほぼゼロにできるという仕組みだ。
スタビライザーが後退するスピードは、バネの長さを変えることで微調整できる。図では簡略化のためにスプリング単体で描いたが実際にはシャフトが片方の端(後ろ側)に取り付けられていて、その飛び出している長さを六角レンチを使って微調整できるようになっている。スタビライザーを銃から取り外すのは、グリップとネジを1本かそこら外すだけで簡単にできるので、ちょうど良い具合に反動を打ち消してくれるように調整するのはLP10の必須メンテナンスの一つになっているようだ。