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ノーベルアームズ・新型マウントリング

高品質で精度が高いが、そのせいで注意点も

この1月にノーベルアームズから新発売になった「DOUBLE NUT MOUNT(ダブルナットマウント)」。普及価格帯のマウントリングとして、従来のF-30シリーズを置き換える形で発売になったもので、実際に実売価格もほぼ同じなのだが、デザインだけでなく品質も大きく向上している。

スコープを銃に取り付けるには、まず銃にマウントベースを取り付ける必要と、そのマウントベースとスコープをつなぐマウントリングを用意する必要がある。きちんと規格が合ったマウントベース・マウントリングの2つが用意できて初めてスコープは銃に固定できる。

マウントベースについては銃ごとに専用品が必要な場合がほとんどなこともあって品質に気が配られることが多いが、マウントリングについては「マウントベースの幅と、スコープの径」に合っていれば、ほとんどの場合なんの問題もなく取り付けることができてしまうので、ついつい後回しになってしまいがちだ。……まあ、実際のところ、激しい反動がないエアガンの世界ならばちょっとくらい低品質なマウントリングを使ったところで撃つたびにスコープがズレるなんてことにはならないので、優先順位が低くなってしまうのは仕方のないことではあるのだが。

とはいえ、実際にスコープを締め付けて固定するなんていう、それなりに重要な役割を任される部品だけに、「どうでもいいもの」ってわけではない。ハイエンドなものとなると、例えばノーベルアームズの「トリプルナットマウント」なんかはリングの左右3つずつ、つまりリング一個につき6本ものボルトで締め付ける念の入った作りになっていて、値段も1つあたり2000円以上(スコープの取り付けには2つ必要なので、最低4000円以上することになる)と、けっこうなものである。

そこまで頑丈な取り付けは必要ないという場合は、普及価格帯のものを探すことになる。同じノーベルアームズ製だと、これまでは「F-30」という製品名が付けられたマウントリングが2つセットで実売価格2000円程度で販売されていた。リング1個に付き左右2つずつ合計4本のボルトでスコープを締め付けるタイプのマウントリングである。他メーカー製のマウントリングも、ある程度以上に「まともな」作りをしたものならば、どれもだいたいそのくらいの値段だ。使用者が一番多いのもその価格帯のものだろう。
 

かつて「普及価格帯のマウントベース」としてノーベルアームズから販売されていたF-30シリーズ(現在は絶版)。

ノーベルアームズはその普及価格帯のマウントリングに新製品を投入した。価格もほとんど変わらず2000円とちょっと。左右2本ずつ、合計4本のボルトでスコープを締め付けるという点も、30mm径スコープ専用というところも、高さ別にL/M/Hの3種類が用意されているところも従来のF-30と同じ。見た目の変化も、出っ張ったところが少なくなって曲線主体の引っかかりにくそうなデザインに変わった程度だ。
 

DOUBLE NUT MOUNT (Low)
30mm径スコープ対応。高さ11mm
定価:¥2,100(2個セット)
DOUBLE NUT MOUNT (Middle)
30mm径スコープ対応。高さ16mm
定価:¥2,200(2個セット)
DOUBLE NUT MOUNT (High)
30mm径スコープ対応。高さ25mm
定価:¥2,300(2個セット)

メーカーブログでの新製品紹介では、「デザインに優れ、品質が向上した」と書かれている。具体的にはどこらへんが変わったのか、実際に見ていこう。

マウントリングの「品質の高さ」とは?

形だけ真似した、あんまり品質が良くないマウントリングと、「ちゃんとした」品質のマウントリングとで最も顕著に違ってくるのが、上下パーツの組み合わせ精度だ。マウントリングは、半円のパーツ2つで円柱を締め付けることで固定するものだけれど、二つの半円がきちんと組めずにズレた状態になってしまうと、いくら締めてもスコープを固定できないばかりか、鏡胴を変形させてスコープの品質を落としてしまうことにつながりかねない。

上下の組み合わせ精度を簡単に確認するには、ボルトを軽く締めた状態で「触ってみる」ことだ。人間の指の感触というのは実はなかなか侮れないものがあって、かなり高額な本格的な計測機器に勝るとも劣らないものがあるそうだ。
 

マウントリングの、上下パーツの組み合わせ精度を確認する。ボルトを軽く締めた状態で、マウントリングの内側に指を入れて、内側と外側から挟むようにして触ってみる。ちゃんと、左右にズレがなく真っ直ぐになっているかどうか?
時間的余裕があるのなら、もっと確実にボルト取り付け穴位置の精度を確認できる方法がある。まず一度、すべてのボルトを外して……
上側マウントリングを反転(180°回転)させる。
そして再びボルトで締めていくわけだが、ここで定石に逆らってまず適当に選んだ3本のボルトだけを先に一杯まで締めてしまう。
※本来なら、すべてのボルトを均等に少しずつ締めていくもの。これは本当はやっちゃダメなことをあえてやっている。
そして、最後に残った1本のボルトを締めてみる。ボルト取り付け穴位置の精度に問題があるようだと、穴の位置がズレていくらボルトを回してもネジ穴に入っていかない。問題がなければ、他3本のボルトを先に締めた状態でも残り1本のボルトも締め付けることができる。

この「ひっくり返して、ボルトを再び締めてみせる」というテストについては、自分で言うのもなんだが大胆にもメーカーの人の目の前で実際にやらせてもらったのだけれど、全く問題なく4本目のボルトを締め付けることが出来たのは驚いた。普通は、締めることはできても少しシャリシャリと抵抗があったりすることが多いのだが、正確にボルト穴位置を合わせた上での作業と同じようにスルスルと入っていく様子は感動すら覚えた。

「このマウントリング、いままで作ってたところと、もしかして工場からして違うんじゃないですか?」
「やっぱりわかりますか! どこってことは言えませんが、アメリカやヨーロッパ製の物凄い値段が高いブランドの製品を作ってるのと同じところなんですよ」
 

ゆるやかなカーブを描いて面取りされ、上面だけは平らに削り取られている。そのため、上面には真ん丸の平面がある形になる。スコープ取り付けの際には、この平面に水準器を置くなどしてレティクルの垂直合わせをすることができる利点がある。
レールとの噛み合い部分の作りは実にしっかりしたもの。取り付けネジは指で回せるようになっているが、より強く締め付けたい場合はレンチを使うこともできる。
極太の四角い棒は、ピカティニーレールのミゾの部分と噛み合ってリコイルを受け止めるためのもの。
レールに取り付ける際に締め付けるネジの反対側には、「Picatinny」という刻印が小さく打たれており、ピカティニー規格のレールにきっちり合わせて作られたマウントリングだということが強調されている。

ボルトは六角じゃなくトルクス

 

上下マウントリングを締め付けるボルトは、一見すると普通の六角ボルトに見えるけれど、良く見ると星形のトルクス(電動ガンのメカボックスに使われているのと同系統のもの。ヘックスローブと呼ばれることも)のボルトになっている。
いわゆる「特殊ねじ」に該当するトルクスだが、ちゃんと専用のレンチが付属するので大丈夫。
とはいえ、小さいL型レンチを使うよりちゃんとしたドライバーを使う方が作業がし易いのは確かだ。「T15」という規格がピッタリと合う。

トルクスドライバー(Amazon)
 

デザイン上の特徴の一つが、ネジ穴の反対側が貫通していないこと。
こちらは一般的なマウントリング。製造時の作業工程でいったら、このように穴が下まで貫通している方が断然作りやすいはずだが、あえて非貫通にしているのはなぜだろう? ゴミが入りにくくするためとかそういう理由があるのだろうか? もしかしたら、単にデザイン上のものかもしれないが。

「ピカティニー規格」のレールじゃないと取り付けられないことも

現在では、かなり一般的となっている「ピカティニーレール」と呼ばれるレールの規格は、元々はアメリカ軍が定めたもの。遡れば、似たようなサイズ・形状のレールがあり、それを元にしてより軍用で使いやすいように汎用性を高めたのがピカティニー規格(MIL規格番号はMIL-STD-1913で、NATOではSTANAG 2324)だ。

「20mm幅レール」と呼ばれることもあるけれど、規格で定められているのはレールの幅だけではなく、レールの高さや形状、ミゾの間隔や幅、そして許容される製造誤差など多岐にわたる。「20mm幅レール」として販売されているレールの中には、レールの幅や形状はピカティニーレールの規格を満たしていても、レールの高さやミゾの幅や間隔は全く異なる仕様で作られているものもある。

この「ダブルナットマウント」は、ピカティニーレール規格に合わせて作られているものだということは再三書いたとおり。レール取り付け面にあるリコイルラグ(レールのミゾに入ってリコイルを受け止める役割をする四角い突起)のサイズも、ピカティニー規格で作られたレールにピッタリと合うように作られている。

ということは、逆に言うと、「20mm幅レール」であってもピカティニー規格から外れた仕様で作られているレールには、このマウントリングは取り付けられない場合があるということになる。
 

「ボルトアクション形式のスナイパーライフル」としては多くのサバイバルゲーマーに愛用されているであろう、東京マルイのVSR-10。純正として発売されているマウントベースには、ノーベルアームズのダブルナットマウントを取り付けることができない。
その理由は、ミゾの間隔や幅がピカティニー規格とは異なる仕様で作られているからだ。マウントリングの底部にあるリコイルラグが太すぎてミゾの中に入らない……正確には、ミゾの幅が狭すぎてリコイルラグが入らないのである。
これがピカティニーレールの規格(側面図)。ミゾの幅は0.206インチ(許容誤差は+0.008インチ)。文明人が使う単位に直すと、ミゾの幅は5.23mm(許容誤差+0.20mm)ということになる。
じゃあ、マルイVSR-10用の純正レールはどうなのか計測してみると……5.25mmどころか、大幅に狭い4.6mm程度しかない。ミゾの幅だけじゃなく間隔についてもピカティニー規格とはずいぶん異なり、ミゾの数が少ないことがわかる。このマウントベースは、「20mm幅レール」ではあっても、「ピカティニーレール」ではないということになる。
ちなみに、別のM4系電動ガンに付いているレールを計測してみると、まさに5.2mmとピカティニー規格にちゃんと合っていることが確認できた。

マウントリングの取り付け

まず、マウントリングの下だけをレールに取り付ける。
スコープを、マウントリング(下だけ)の上に載せて、実際に銃を構えて狙った時にスコープの前後位置が適切な場所にあるかどうかを確認する。前すぎる、あるいは後ろ過ぎるときはスコープとマウントリングを外し、リングの取り付けからやりなおす。
位置が決まったら、マウントリングの上側を取り付けてボルトを締め付ける。ボルトは片方だけをいきなり全部締め付けるのではなく、全体を均等に締めていく(締めたら、次は対角線上のボルトに移るようにする)のが鉄則だ。
M4系ライフルには、取り付け高さが違う3種類のうち「High」を選ぶとちょうどいい高さにマウントできる(LやMでは低すぎて物理的に狙えなくなる)。ボルトアクションライフルの場合はLかMが良いだろう。

丁寧に面取りされていて、引っ掛かりが少ない優れたデザイン。ボルトの締め付けにストレスがかからず、スコープに負担を与えずにしっかりと固定できる正確で精密な加工。それでいて、2つセットで2000円かそこら(実売価格)というお手頃価格。やけに自信たっぷりにオススメされただけある。確実に値段以上のクオリティを持っている。

ただしこの記事でも書いたとおり、「ピカティニー規格」にしっかりと則って作られているため、ピカティニー規格に合わない「20mm幅レール」の中にはこのマウントリングを取り付けられない製品もある、ということには留意が必要だろう。ノーベルアームズ側が悪いわけじゃなく、かといって「ピカティニー規格に沿わないレール」を作った側が悪いというわけでもなく(だって「これはピカティニー規格です」と嘘を付いて販売しているわけじゃないんだし)、ただ単純に、互換性がない規格同士は取り付けられないことがある、というだけの話ではあるのだけれど、マウントリングという製品ではこれまであまり発生してこなかった事例だけに販売側にも購入側にも「ちゃんとした知識」が必要とされることになるだろう。

この製品を販売しているショップが、「このリングはピカティニー規格で作られているので、レールのミゾの幅が狭いマウントベース(例えばマルイVSR-10用純正マウントなど)には取り付けられないことがある」ということをしっかりお客さんに伝えて販売しているようなら、そのショップは「スコープやマウントについて、ちゃんとした知識がある信頼おけるショップ」という判断材料の一つにできるかもしれない。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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