スコープを銃に取り付けるには、まず銃にマウントベースを取り付ける必要と、そのマウントベースとスコープをつなぐマウントリングを用意する必要がある。きちんと規格が合ったマウントベース・マウントリングの2つが用意できて初めてスコープは銃に固定できる。
マウントベースについては銃ごとに専用品が必要な場合がほとんどなこともあって品質に気が配られることが多いが、マウントリングについては「マウントベースの幅と、スコープの径」に合っていれば、ほとんどの場合なんの問題もなく取り付けることができてしまうので、ついつい後回しになってしまいがちだ。……まあ、実際のところ、激しい反動がないエアガンの世界ならばちょっとくらい低品質なマウントリングを使ったところで撃つたびにスコープがズレるなんてことにはならないので、優先順位が低くなってしまうのは仕方のないことではあるのだが。
とはいえ、実際にスコープを締め付けて固定するなんていう、それなりに重要な役割を任される部品だけに、「どうでもいいもの」ってわけではない。ハイエンドなものとなると、例えばノーベルアームズの「トリプルナットマウント」なんかはリングの左右3つずつ、つまりリング一個につき6本ものボルトで締め付ける念の入った作りになっていて、値段も1つあたり2000円以上(スコープの取り付けには2つ必要なので、最低4000円以上することになる)と、けっこうなものである。
そこまで頑丈な取り付けは必要ないという場合は、普及価格帯のものを探すことになる。同じノーベルアームズ製だと、これまでは「F-30」という製品名が付けられたマウントリングが2つセットで実売価格2000円程度で販売されていた。リング1個に付き左右2つずつ合計4本のボルトでスコープを締め付けるタイプのマウントリングである。他メーカー製のマウントリングも、ある程度以上に「まともな」作りをしたものならば、どれもだいたいそのくらいの値段だ。使用者が一番多いのもその価格帯のものだろう。
ノーベルアームズはその普及価格帯のマウントリングに新製品を投入した。価格もほとんど変わらず2000円とちょっと。左右2本ずつ、合計4本のボルトでスコープを締め付けるという点も、30mm径スコープ専用というところも、高さ別にL/M/Hの3種類が用意されているところも従来のF-30と同じ。見た目の変化も、出っ張ったところが少なくなって曲線主体の引っかかりにくそうなデザインに変わった程度だ。
メーカーブログでの新製品紹介では、「デザインに優れ、品質が向上した」と書かれている。具体的にはどこらへんが変わったのか、実際に見ていこう。
形だけ真似した、あんまり品質が良くないマウントリングと、「ちゃんとした」品質のマウントリングとで最も顕著に違ってくるのが、上下パーツの組み合わせ精度だ。マウントリングは、半円のパーツ2つで円柱を締め付けることで固定するものだけれど、二つの半円がきちんと組めずにズレた状態になってしまうと、いくら締めてもスコープを固定できないばかりか、鏡胴を変形させてスコープの品質を落としてしまうことにつながりかねない。
上下の組み合わせ精度を簡単に確認するには、ボルトを軽く締めた状態で「触ってみる」ことだ。人間の指の感触というのは実はなかなか侮れないものがあって、かなり高額な本格的な計測機器に勝るとも劣らないものがあるそうだ。
この「ひっくり返して、ボルトを再び締めてみせる」というテストについては、自分で言うのもなんだが大胆にもメーカーの人の目の前で実際にやらせてもらったのだけれど、全く問題なく4本目のボルトを締め付けることが出来たのは驚いた。普通は、締めることはできても少しシャリシャリと抵抗があったりすることが多いのだが、正確にボルト穴位置を合わせた上での作業と同じようにスルスルと入っていく様子は感動すら覚えた。
「このマウントリング、いままで作ってたところと、もしかして工場からして違うんじゃないですか?」
「やっぱりわかりますか! どこってことは言えませんが、アメリカやヨーロッパ製の物凄い値段が高いブランドの製品を作ってるのと同じところなんですよ」
現在では、かなり一般的となっている「ピカティニーレール」と呼ばれるレールの規格は、元々はアメリカ軍が定めたもの。遡れば、似たようなサイズ・形状のレールがあり、それを元にしてより軍用で使いやすいように汎用性を高めたのがピカティニー規格(MIL規格番号はMIL-STD-1913で、NATOではSTANAG 2324)だ。
「20mm幅レール」と呼ばれることもあるけれど、規格で定められているのはレールの幅だけではなく、レールの高さや形状、ミゾの間隔や幅、そして許容される製造誤差など多岐にわたる。「20mm幅レール」として販売されているレールの中には、レールの幅や形状はピカティニーレールの規格を満たしていても、レールの高さやミゾの幅や間隔は全く異なる仕様で作られているものもある。
この「ダブルナットマウント」は、ピカティニーレール規格に合わせて作られているものだということは再三書いたとおり。レール取り付け面にあるリコイルラグ(レールのミゾに入ってリコイルを受け止める役割をする四角い突起)のサイズも、ピカティニー規格で作られたレールにピッタリと合うように作られている。
ということは、逆に言うと、「20mm幅レール」であってもピカティニー規格から外れた仕様で作られているレールには、このマウントリングは取り付けられない場合があるということになる。
丁寧に面取りされていて、引っ掛かりが少ない優れたデザイン。ボルトの締め付けにストレスがかからず、スコープに負担を与えずにしっかりと固定できる正確で精密な加工。それでいて、2つセットで2000円かそこら(実売価格)というお手頃価格。やけに自信たっぷりにオススメされただけある。確実に値段以上のクオリティを持っている。
ただしこの記事でも書いたとおり、「ピカティニー規格」にしっかりと則って作られているため、ピカティニー規格に合わない「20mm幅レール」の中にはこのマウントリングを取り付けられない製品もある、ということには留意が必要だろう。ノーベルアームズ側が悪いわけじゃなく、かといって「ピカティニー規格に沿わないレール」を作った側が悪いというわけでもなく(だって「これはピカティニー規格です」と嘘を付いて販売しているわけじゃないんだし)、ただ単純に、互換性がない規格同士は取り付けられないことがある、というだけの話ではあるのだけれど、マウントリングという製品ではこれまであまり発生してこなかった事例だけに販売側にも購入側にも「ちゃんとした知識」が必要とされることになるだろう。
この製品を販売しているショップが、「このリングはピカティニー規格で作られているので、レールのミゾの幅が狭いマウントベース(例えばマルイVSR-10用純正マウントなど)には取り付けられないことがある」ということをしっかりお客さんに伝えて販売しているようなら、そのショップは「スコープやマウントについて、ちゃんとした知識がある信頼おけるショップ」という判断材料の一つにできるかもしれない。