【ガンマメ】競技用ピストルのトリガー

Q:競技銃のトリガーって、軍用や狩猟用とは違うの?
A:軽く、キレが良くなるようにいろいろ工夫されている。

自分が普段使っている機械が、どういう仕組みになっていてどういうふうに動いているのかを知りたくなるのは人として当たり前のこと……だとずっと思っていたのだけれど、実はそうでもないらしいということを知った時にはけっこうショックだった。構造図やパーツリストを見ているだけでいくらでも時間がつぶせたり、分解できるものならまず最初に分解できるだけしてしまって中身を見たくなったり、そういうのはごく一部の変人だけなんだそうだ。
 

競技銃のトリガーメカニズム。複雑で精密な機械や、その動きには独特の美しさがあり、見ているだけで幸せを感じるものだが、「そんなわけないじゃん」って人も少なくないらしい。ショックだ。

いくつもの部品が複雑に精密に組み合わさって、互いに影響を与えながら動いて目的を達成する、そういう様子を見ているだけで幸せを感じる「変人仲間」なら、競技銃のトリガーメカニズムなんてのは最高品質ネタの一つに違いない。これまで何度もお送りしてきたマルゼンAPS-3のトリガー&シアメカニズムなんかも良く考えられた優れモノだが、エアピストルやエアライフル、さらには装薬ライフルなんかのものともなると、値段が一桁二桁違うだけあって素材も調整箇所の多さもずっとレベルが高くなってくる。

トリガープルを軽く、そしてキレを良く(シアが切れ始めてから弾が発射されるまでにトリガーの動く量が少ないこと)することを追い求めて作られた競技用エアピストルのトリガーの動きを2種類、GIFアニメーションにてお届けする。

ステイヤーLP10

使用者の多さという点では、今のところ一位だと思われるのがステイヤーLP10。反動軽減装置やグリップ調整箇所の多さ、角形のバレルシュラウドにはいろいろな位置に好きにウエイトを追加できることなどユーザーフレンドリーな作りが売りだが、トリガー自体はオーソドックスなメカニカル式だ。(Photo Wikimedia Commons)
LP10のトリガー作動図。ストライカー(赤色)を支えるシアA(水色)とトリガー(オレンジ)の間を、シアB(緑色)が仲介している。トリガーを引くと、まずトリガーとシアBが当たり(ここまでが1stステージ)、そこから少しでもトリガーを引くとシアBが動いてシアAの支えを外し、ストライカーが前進してバルブを叩きエアが放出されて弾が発射される。トリガー位置やスプリングの重さ、各シア同士のかみ合わせなどは外部から微調整できるようになっている(調整ネジは上図では省略)。

前進しようとするストライカーを支えているシアとトリガーの間に、もう一つ部品を追加しているという点は、マルゼンAPS-3に良く似ている(とりあえず、前者をシアA、後者をシアBという呼ぶことにする)。なぜ直接トリガーでシアAを動かさないのかというと、トリガーを軽くするためというのが一番の理由だ。ストライカーを前進させようとしているスプリングは太くて強いもので、実際に前進しようとする力もかなり強い。その強い力を支えているシアを直接動かそうとすると、どうしても摩擦が強くなってしまいトリガーを軽くできないのだ。

シアAとシアBの噛み合いは、本当に針の先ほどのごく僅かなもの(上図だとわかりやすくするために大げさに噛み合う形にしてある)。その噛み合い部分が少なければ少ないほど、「キレが良い」トリガーになるわけだが、噛み合いをゼロにするわけにはいかない(そうしたら部品を支えられなくなってしまう)ので、どうしても「シアが切れ始めてから、ストライカーが前進するまで」の間、部品同士が擦れて動く状況が発生してしまう。それに、金属部品が「ほんのちょっとだけの噛み合い」で支えあっているという状況はどうしても不安定なものだ。金属が摩耗したり変形したりすれば、トリガーが重くなりすぎてしまったり、逆に軽くなりすぎて暴発の原因になってしまう危険性もある。

それがメカニカル式トリガーの限界とも言える。トリガーのキレを極限まで良くすることは、メカニカル式を使っている以上は不可能なのだ。

モリーニCM162EI

「二つのパーツを引っ掛けておいて、トリガーを引くことでそれを外す」という従来のメカニカル式トリガーとは全く違うシステムなのが、エレクトリック・トリガー(電子トリガーとも呼ぶ)のモリーニCM162EIだ。発売から随分経つけれど、いまだにトップレベルでの使用者は多い。
モリーニのトリガー作動図。メカニカル式に比べると極端にシンプルで、「くっついている接点が、トリガーを引くことによって離れるとソレノイド(電磁石)が作動し、バルブが叩かれて弾が発射される」というもの。バネが二つあるのは、1stステージの重さ(左)と2ndステージの重さ(右)を調節するためのもの。

「くっついていたものが離れる」瞬間をソレノイド作動のきっかけにするというアイデアにより、メカニカル式トリガーではどうしてもゼロにできなかった「シアが切れ始めてから、弾が発射されるまで」のトリガー移動量を事実上ゼロにすることが可能となった。厳密なことを言えば金属の変形量だとかそういうのがあるから本当の意味でのゼロではないが、およそ計測できる範囲内ではゼロと言って構わないレベルだ。

なにより、メカニカル式トリガーとは違い「引っ掛かって支えあっている部品同士を、擦って動かして引っ掛かりを外す」という過程が全く存在しないというのが極めて大きな利点になる。摩耗や変形、あるいはグリスや異物の影響でトリガーの引き味が全く変わってしまうという危険性もほとんど存在しない。電池交換さえしておけば、時々エアダスターでホコリを吹き飛ばしてやるだけでほぼノーメンテで10年以上もトラブル無しである。

モリーニのエレクトリック・トリガーで起こりうるトラブルは、まず電子部品に関係するもの。私自身は経験が無いが、基盤が壊れたとかコンデンサが不良だったとか、そういうトラブルの話を伝え聞くことがある。先日聞いたのは、2ndステージのバネを弱くしすぎることによる接点不良だ。「普段は接触している接点が、トリガーを引くことで離れる」ことによって作動するのがこのメカニズムのキモになっているのだが、その「普段の接触」は2ndステージの重さを調整するためのバネの力によって、接点同士が押し付けあう形になっている。トリガーを軽くしようとするばかりに、2ndステージ調整バネを極端に弱くしてしまうと、その「普段の接触」が弱くなり、やり過ぎるとほとんど接触していない状態になってしまう。そうなると、トリガーには触っていなくてもトリガーが絶え間なく引かれているような状態となり、誤作動したり電池があっというまに無くなったりトリガーを引いても弾が出ない状態になったりというトラブルが頻発してしまうらしい。

こういったトラブルも、「自分が使っている機械が、どういう仕組みになっていてどういうふうに動いているのか」をある程度把握していれば対処できるし、もしかしたらそもそもトラブルを起こさないで済むかもしれない。良く出来た機械は、それがどんな仕組みなのかを知らなくてもマニュアルどおりに操作すればちゃんとその性能を発揮できるものではあるけれど、それでも中身をある程度は知っておいた方がいろいろと良いことは多いし、なにより楽しいじゃないか……というのは、自分がメカニズムオタク寄りな人間だからそう思うだけなのかもしれないが。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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