エアピストルの改造

許可を受けて所持している銃を改造する、なんて書くと驚かれるかもしれない。「それってまずいんじゃないか」とか「銃の改造って特別な許可がいるんじゃないの?」とか。

装弾数を増やすだの、全長を切り詰めるだの、そういった所持許可証に書かれてる内容に変更が出るような改造をしたら確かに問題になる、っつーかやっちゃいけないことだけれど、競技に使う上で使いやすくするためにちょこちょこ手を入れる程度なら全く問題がない。実際、誰でもやってることだ。TMVさんなんかは金属加工を伴う改造(もちろん法的には問題がないレベルのもの)をちょくちょく行っていて銃が原型をとどめてなかったりするし。また、APS-3のような玩具銃(エアガン、エアソフトガン)だと法律による縛りが実銃に比べて格段に低いから、かなりやりたい放題できる。実際に玩具銃の改造を通して、「こういう風に改造することによって、こういう結果が出る」ということを感覚的に掴んでいる人は、実銃しか知らず改造のやり方に関する知識が全く無い人に比べて、競技生活を続けるにあたって大きなアドバンテージを持っていると感じることが多い。

とは言っても、エアピストルの場合はライフルに比べると手を入れられる部分がそれほど多くなく、せいぜいグリップを削ったり盛ったりする程度だ。そのグリップ加工も、手を覆うような(回り込む)形になるとルール違反になるので限界がある。他にはバランスを取るためにスタビライザーを取り付けるなんてのも有効な改造だけれど、基準箱からはみ出してしまう大きさだとルール違反になってしまう。

そんなわけであまり改造のしがいがないエアピストルだけれど、それでも試合場では面白い改造を見ることがある。先月の東京都選手権、私は結局5位になっちゃったけれど、そこで1位と1.3点差(本戦では1点差)で2位になったSさんの銃の写真を撮らせて貰った。公開許可もいただいたので掲載したい。

ベースになってるのはごく普通のモリーニ。エレクトリックトリガーを装備した日本で所持可能な唯一のエアピストルで、トリガーのキレと安定感の良さはピカイチだが、その代償としてグリップの調整範囲に大きな制限がある(グリップ内に電子部品が詰まっているため)という欠点を持つ銃だ。リアサイトがグリップ上部にあるスタンダードモデルと、銃身とエアシリンダーが短く、そのかわりにリアサイトがグリップ後部まで飛び出している「ジュニア」の2種類がある。写真はスタンダードの方だ。私が使ってるエアピストルと同じモデルである。

一見して分かるのは銃口部分。銃口の上から飛び出した板状の部品の上に、大きな集光アクリル製のフロントサイトはが取り付けられている。

シルエットだけを見るとまるでライフル用の延長フロントサイトベース(ハンマートゥースとか呼ばれてるやつ)に見えるけれど、経緯としては逆。もともとあるフロントサイトベースを兼ねたコンペンセイターの下部が大胆にカットされているのだ。もともと銃身はコンペンセイターの根元よりも奥まったところまでしかないので、銃身を切り詰めたわけではなく、法律違反にはならない(念のため)。

集光アクリル製のフロントサイトは一見すると自作品のように見えたけれど、確か専用品として販売されているものを付けていると聞いた。数年前に似たようなサイト(それは上から見るといびつな三角形をしていて、回転させることによって幅を変えられるというのがウリだった)を付けていたときに聞いた話では、「面白そうだったから買って付けてみたけれど、あんまり良いとは思えない」ということだったのだが、現在でも形こそ違え同様の「光るサイト」を付けているということは、結果的には気に入ってるのではないかと想像できる。

ターゲットは十分に明るく照らされているうえに、0.1秒を争うような素早いサイティングが必要なわけでもないエアピストル射撃に、なんで集光アクリルサイトが必要なのか? それは、「意識をフロントサイトに集中させる」ためだと言われている。光学サイトと異なりオープンサイトで照準するときには、目のピントはフロントサイトに合わせるのが絶対の基本だ。しかし、長丁場の試合で疲れてきたり、1点、あるいは0.1点を争うような状況になって「当てたい」という気持ちが強くなりすぎたりすると、ついターゲットに目のピントが合ってしまう。これはもう人間の心理的に当然のことで、強い意志でもって目のピントをターゲットから引きはがしフロントサイトに集中させるという難しいことをどれだけ徹底して行えるか、それがターゲットシューティングで射手に要求される、最も重要で最も難しいことの一つだ。

集光アクリルのフロントサイトは、目立つ。銃を構えて顔をターゲットに向けると、圧倒的な存在感を持って視界に入ってくる。そのことが、否応なしに意識をフロントサイトに集中させ、結果的に正しい照準を実現させてくれる……というのが、エアピストル用集光アクリルサイトのアピールポイントとなっている。

精密射撃用の集光サイトが、Hi-Vizサイトのような他の分野での集光サイトと大きく異なる点が、サイト全体がアクリルで出来ており、シルエットが四角いということ。サイトの中心部分に円筒形のアクリル棒が差し込まれている一般的な集光サイトの形状とはまるで違う。前後サイトの位置ではなく、サイトのシルエットを合わせることで照準を行う精密射撃だからこそだろう。その代わり、堅牢さが求められるフロントサイトが樹脂製となるわけで、取り扱いには注意が必要になるであろうと思われる。

もう一つの改造点が、トリガーガードのカットとスタビライザーの追加だ。

※上写真では銃に刻印されてるシリアルナンバーを画像処理で消してあります。

おそらくはコンペンセイターのカットと対になってる改造ではないかと思われる。重心をすこしでも下げようというコンセプトがうかがえる。一般的に銃の重心が先の方(銃口に近いところ)にあると、トリガーを引いたときの銃のブレが少なくなり、手元に近いところにあると、構えたときの安定感が増すと言われている。トリガーの引き方に自信がない人は銃口付近を重く、自信がある人はグリップ付近を重くするという理屈になるわけだ。

キレイにトリガーを引くのは実に難しい。正直、私だって「今のトリガーは実にうまく引けた」とほれぼれするようなのは試合中を通して10回あるかどうか。他は「なんでこんないーかげんな引き方してしまったんだ」と悔やむばかりの射だ。そのトリガーミスが点数低下に及ぼす影響を少しでも減らそうと思えば、銃口付近を重くするのが一番楽で手っ取り早い方法だ。逆に銃口を軽くして重心を手前に持ってくるなんて、恐ろしくてとても出来ない。つまり、この改造は「素人にはお勧めできない」ものなんじゃないかなと思う。安易に真似をすると泣きを見るだろう。トリガーに自信のあるSさんだからこその思い切った改造と言えるのではないだろうか。

ここしばらくピンポイントシューティングの告知と結果発表だけだったので、たまには銃オタクらしく銃に関して延々と語るのも面白いんじゃないかなーと思って書いてみたんだけれどどうだったでしょうか……。時々はこんな感じの記事も書いていきますので見捨てないでください。

池上ヒロシ

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