1987年に「プラモランドモリオカ」によって生み出されたエアガンのホップアップ技術は、1993年に東京マルイから発売された「FA-MASスーパーバージョン」によって完成の域に達した。それ以降も細かい改良はあるが、基本的にはこの「マルイ純正HOPUP」が現在のエアガン業界における「精度と飛距離を両立させるホップアップ」の標準になっている。
モリオカの「0.4Jシステム」から東京マルイの「HOPUP」の登場までの間にも、いろいろなホップアップが考案された。サードパーティーから、純正バレルと交換するだけでノンホップのエアガンをホップアップ仕様へと改造できるパーツが数多く発売された。前回の記事UP後にDNAのchakaさんからリツイートいただいた、シェリフの「LRB」もその一つだ。
今回は、0.4Jシステムをはじめとする様々なホップアップの仕組みをGIFアニメーションにて紹介していこうと思う。
「ホップアップ」というフレーズは使われていなかったが、紛れも無く現在のホップアップの元祖的存在と言えるのがモリオカ0.4Jシステム。ゴム製のチャンバーパッキンを、上側からネジで押さえつけることでBB弾の上部に引っ掛かりを作り回転を与えるという仕組みだった。
精度は、正直言うとそれほど良いものではなかったようだ。確かに他のエアガンと比べて飛距離は抜群に伸びたが、ネジで直接チャンバーパッキンに圧力を加える方式のため微調整が難しく、ホップが全然効かない状態→大空に舞い上がる鬼ホップの境界がほとんどなく、綺麗にまっすぐ飛ばせるのは至難のワザだったと聞く。当時は今ほどBB弾の精度も良くなかったため、同じように調整してある同じ銃から撃ってもちょっとしたBB弾の大きさの違いでホップの効き方が全然変わってしまうという問題もあった。
「箱出しノーマル」の状態ではホップがついてないエアガンを、後からホップ仕様にするために多くのユーザーがお世話になったのがサードパーティー製のカスタムパーツ。当時の組み込みホップの多くは、バレルの途中に穴が開いていて、その穴にゴムなどの摩擦が強いチップをはめ込んだものが多かった。ちょっと気が効いたものだと、外部からその穴部分をネジで押せるようになっていて、ホップのかかりの強さを調節できるようにもなっていた。その中で最も良くショップで見かけて、事実上の「組み込みホップ」のスタンダードとなっていたのがKM企画の「SCS(スピンコントロールシステム)」だ。
撃つ前にBB弾を保持しているチャンバーパッキンから離れた場所にホップ回転をかける部分(ホップパッキン)があるため、BB弾はいったん加速しはじめたところでホップパッキンに衝突する形になる。その動きから、現在主流のチャンバーパッキン部分でホップ回転をかけるものと区別するために「つまずきホップ」なんて呼ばれ方をすることもある。
その構造上、どうしてもBB弾は散りぎみになってしまうが、それでも飛距離は確実に伸びるし簡単に調整ができるため、多くのユーザーがSCSを組み込んでいた。バレル外側に目立つ赤いスリーブが付けられていたため、中を開けるとひと目で「カスタムされている」ということがわかるというのも嬉しい要素の一つだった記憶がある。
「よく理屈がわからない、オカルトめいたパーツ」というのは、今も昔もエアガン業界のお約束みたいなものだ。シェリフの「LRB」も、その仕組みや構造については図解入りでキチンと紹介されているものの、「で、なぜそれでそういう効果があるのか?」ということについては、広告でも記事でも微妙にぼかされていて、ユーザーとしては「よくわからない」としかいいようがなかった。
今になって改めて見れば、実のところは単純な仕組みだ。バレルが上側に偏芯されているため、チャンバーにセットされたBB弾がバレルに接するのはBB弾の下部分だけとなり、BB弾の上部分は通常通りラバー製のパッキンで保持される。その二つの摩擦係数の差によりホップ回転がかかるという仕組みだったのだろう。
現在主流のホップと同様、チャンバーパッキンでの保持時点でホップ回転をかける形になっているので、精度も「つまずきホップ」に比べればずいぶんと良かった。だが外部からのホップのかかり具合の調節ができないため、使いこなすにはけっこうな試行錯誤が必要だった。
東京マルイのホップの特徴は大きく分けて3つある。
これらの特徴が、マルイ純正ホップを「良く飛び、良く当たる」ものにしている。
これまで「BB弾に回転をかける」と表現してきたけれど、実際にはエアガンの中でBB弾をグルグル回転させてから撃ちだすような仕組みをもっているわけではない。バレル内でBB弾が加速する際に、BB弾の上側と下側で摩擦のかかり具合を変えることで、BB弾に回転を付けて発射する、というものだ。BB弾の上部分は摩擦の強いもの、たとえばゴムで保持し、下部分は摩擦の弱いもの、たとえば金属で保持する形にするというのが、マルイ純正をはじめとして現在主流となっているホップアップの仕組みである。
見逃しがちだけれど重要なのが、(2)の「テコの原理を使った微調整」だ。従来の調整可能なホップは、どれもホップパッキンを直接ネジで押さえつける方式だったため、微調整が難しかった。具体的には、ネジの頭に一般的な大きさの六角レンチを差し込んで、六角レンチの長い方の先をほんの数ミリ動かしただけで、「弱ホップ」→「鬼ホップ」に変わってしまう、といった具合だった。
東京マルイ純正ホップは、ホップパッキンを抑える部分のすぐ近くに「支点」があり、長く伸びたレバーの先を動かすことで調整する。レバーも直接動かすタイプのものもあるが、多くはダイヤルをグルグルと回すことでレバーの先がゆっくりと上下に動く構造になっている。そのため、ダイヤルを大きく回してもいきなりホップの効き具合が大きく変化したりすることがなく、簡単に細かい調整をすることができる。
硬いホップレバーとチャンバーパッキンの間に、「ぷにぷに」したゴム製のクッションが挟まっているのもアイデアの一つ。ホップを強くかけすぎた時に、BB弾がホップパッキン部分を抜け出せずに詰まってしまうというトラブルを防ぐという役割がある。
マルイ純正ホップが登場してもう10年以上になるが、この基本的な仕組みは今でも変わっていない。細かい部分――例えばノズルの形状だとか、クッションゴムやチャンバーパッキンの形などが少し改良された程度だ。他社製のエアガンのホップも、今では基本的な構造はだいたい同じようなものになっている。
1980年代末から1990年代のはじめにかけて、一気にエアガンの「飛距離」の概念を変えてしまったホップアップ。撃った弾が、まっすぐ飛んでいって最後にぽとりと落ちるという「理想のホップ弾道」で飛んで当たり前、という時代にエアガン趣味を始めた方には想像しづらいことかもしれないが、ホップアップ黎明期にエアガン趣味にどっぷり漬かっていた者にとっては、「昨日までの常識が、明日からはもう常識じゃない」という激動の時代をリアルタイムで体験できたわけで、どうしてもその時代を思い出してあれやこれやと話題にしたくなるものなのだ。
今回挙げたもの以外にも、過渡期にはいろいろなメーカーからいろいろなホップが発売されていた。中には凄いのもあった――記憶にしか残っていない(ソースを見つけられなかった)のだけれど、サイレンサーの先に「ベロ」が付いていて、発射されたBB弾がそのベロに当たることで回転が付けられるなんて製品まであった。
思えば、カオスな時代だった。