Q:ホップアップって何?
A:BB弾に上向きの回転を付けて発射することで、パワーを変えずに飛距離を伸ばすもの。
「エアガンの飛距離」というのはよく聞くフレーズだけれど、厳密にそれは何がどうなったときのどういう距離なのかという定義となると実に曖昧になってしまう。けれどそれでは話が進まないので、とりあえず本コラムでは「ターゲットを狙って撃った時に、だいたい当たって欲しい範囲内に弾が飛んでいてくれる距離」のことを飛距離と呼ぶことにしたいと思う。
より厳密な形で言い換えてみると――どんな銃でも、弾は発射された瞬間から重力に引かれて落下を始める(上昇している状態でも下向きの加速度がかかっているという点では同じ)。それによりBB弾の飛翔位置が、照準線とくらべて許容できないほどに下になってしまうまで、どれだけの距離をBB弾が飛翔できるか? これを「エアガンの飛距離」ということにしたい。まあ、一般的な方々の認識とくらべても、そう大きな違いはないんじゃないかと思う。
通常は、落下のスピードは地球上である限り変えられないから、「発射されてから落下するまでの時間」も変わらない。同じ時間でより遠くまで飛ばすためには、BB弾の飛翔スピードを上げるしかない、つまり「初速を上げる」のが唯一の方法ということになる。だが、初速(威力)には制限がある。過去にはゲームのレギュレーション、今はそれに加えて法規制もあるし。
だが、ここで落下のスピードを落とすことが可能ならば話が変わってくる。飛翔スピードが同じであっても、より長い時間BB弾が飛んでいることができるのだから、その分だけ遠くまでBB弾を飛ばすことができる。
落下スピードを下げるために使われるのが、BB弾の回転だ。「マグヌス効果(Wikipediaによる説明)」というものがある。流れの中に置かれた球体を回転させると、流体の粘性によって流れに対して垂直の力が発生するというものだ。
BB弾に上向きの回転をかけて水平に発射すると、重力に対抗する方向にマグヌス効果による力が発生する。力の大きさは回転速度と流れの速さ(BB弾のスピード)によって決まるから、空気抵抗によりスピードが落ちればマグヌス効果による力も小さくなり、最終的には普通に撃ったのと同じようにBB弾は下に落ちる。しかし、落下するスピードが遅くなるため、下に落ちるまでに飛ぶ距離はHOP回転を与えずに撃った時とくらべるとずっと長くなる。
さらに、BB弾の重さと与える回転の強さをうまい具合に調整すると、BB弾が「舞い上がりもせず落ちもせず、スーッとまっすぐに飛んでいって、最後にぽとりと落ちる」という、独特の弾道で飛んでくれる。放物線を描いて飛んで、遠距離を狙おうとすればターゲットまでの距離によって狙う場所を適切に変えないとかすりもしない通常の弾道よりも、ずっと狙いやすいし当てやすい。
威力(初速)はそのままに、飛距離を伸ばし、さらに弾の飛び方もまっすぐに近いものになってくれるおかげで、距離にかかわらず狙った場所に当てやすくなるという大きな利点から、サバイバルゲームに使うエアガンではHOPはほとんど必須になっている。交戦距離が長くなる屋外ゲームでは、HOP無しのエアガンではHOP付きエアガンにはまるで対抗できないといっていいほどだ。
だが精密射撃や競技射撃の世界では、「HOPは命中精度を落とす」という考えから、HOP無しのエアガンを使う人も多い。また、「そんなことはない、適切なHOPは弾道を安定させ命中精度を上げる」という考えから、精密射撃でもHOP付きエアガンを使う人もいる。ここらへんは流儀みたいなもので、どちらが正しいとか間違ってるとかいう話ではないんじゃないかと思う。
次回は、日本のエアガン界に「HOP」という概念が広まっていくまでの過程や歴史を振り返ってみたい。