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岩手のワインってどんなんだ~紫波ワイナリー

ちょっと残念ぽかったとはいえ、それなりに堪能した世界遺産・平泉を後に、今度は進路を一路北へ。東北観光フリーパスによる高速道路使い放題のメリットを最大限に活かし、南へ北へと行ったり来たりの贅沢旅行である。

目的地は、花巻より北、盛岡より南、ちょうどその中間点あたりにある紫波(しわ)というところ。古くからフルーツ類の産地としては知られたところだったそうだが、ここに本格的なワインを作るワイナリーができたのはそれほど昔のことじゃなく、ほんの10年前のこと。ワイナリーとしてはまだまだ新参というか、「できたてホヤホヤ」なところと言っていいかもしれない。
 

岩手県の紫波というところにあるワイナリー、「自園自醸ワイン 紫波」。自分でクルマを運転して行っても、飲酒運転にならずに試飲ができるという極めて特殊な条件が揃ったワイナリーということで、今回東北観光ルートに入れてみた。なぜそんなことができるのかという理由については後のほうで……。

ワイナリー巡りは私の趣味の一つで、そこそこいろんなワイナリーに訪れたことがあるが、そのほとんどは山梨県ばかり。JRの駅から徒歩圏内に数十件ものワイナリーが密集していること、年に数回、各ワイナリーを巡回するバスを走らせるイベントを行っていることが大きな理由だ。日本には他にも評価が高いワイナリーはたくさんあるのだけれど、クルマでないととても辿りつけない場所にあるワイナリーが多く、運転手でも雇わないかぎり試飲しに訪れるなんてのは難しい。

この紫波ワイナリーもご多分に漏れず、電車やバスで辿り着くのはとても無理なロケーション。普通だったら自分でクルマを運転していって試飲するなんてことはできないのだけれど、ここは特別だ。なぜなら、「道の駅」が徒歩圏内にあるからだ。試飲して酔っ払った後、クルマを止めておいた道の駅まで戻り、そこでクルマの中で6時間ばかり寝てしまえば、すっかりアルコールが抜けた状態で次の場所へ向かうことができる。
 

「道の駅 紫波」からワイナリーへ続く道。ちょっと距離はあるが大したことはなく、酔っ払って千鳥足になっていたって楽勝。

さて、ワイナリーの話を。このワイナリー、「自園自醸」という名前のとおり、他の畑のブドウとか、もちろん輸入果汁なんかを原料に使ったりすることはなく、基本的に全て自家農園のブドウでワインを作っている……というのが基本的方針なのだけれど、実際に話を聞いてみると100%自家農園ってわけじゃなく、契約した近隣の農家から購入したブドウも原料に使っているとのこと。まあ、ここらへんは勝沼にあるワイナリーもほとんどは同じようなもので、別におかしな話というわけでもない。

試飲できるワインは8本ほどあったが、そのうち半分くらいはほとんど発酵もしてないような状態で瓶詰めしちゃったんじゃないかと思えるような甘口のワイン、いわゆる「お土産ワイン」だった。「フルーツ農園目的で観光に来た団体客」みたいな、特にワインに思い入れとかあるわけじゃない普通の人向けにアピールする、ってのも観光向けワイナリーとしては王道の手段なわけで、ちょっとガッカリではあるけれどこれも別に非難するようなポイントでもない。実際、勝沼のワイナリーもマンズワインとかシャトー勝沼みたいな大手のところの無料試飲は、ほとんどがこういうジュースみたいなのばっかりだし。
 

でっかく二桁の数字だけがプリントされてるという異色のエチケットを持つこのワイン、紫波産のシャルドネで作ったワインをビンテージ毎に瓶詰めしてあるもの。「11」は2011年、「12」は2012年産というわけだ。「年度ごとに性格も味わいも全然違って面白いですよ」とはワイナリーの人のセールス文句。公式サイトの通販ページにも載っていない、どうやらここに来ないと買えないワインのようだ。ただしこのワイン、なんと試飲は不可。「年度ごとに違う味わい」というのなら、試飲させてもらえなければわからないじゃないか!

本格的な瓶内二次発酵をしているスパークリングなんかも販売しているのだけれど、こちらも試飲は不可。……まあ、普通は開けたら比較的短時間で飲んでしまわないとならないスパークリングは試飲で提供されるようなことはないのだけれど。ひっきりなしに試飲客がやってきて試飲ボトルが物凄い勢いで次々に空になっていくイベント時の勝沼が異常なだけであって。

ただ、その一部の「おみやげワイン」以外はけっこう美味しい。同じ品種のブドウから作られたワインでも、通常のラベルのものと、それに値段を「ちょっとだけ」足した「プレミアム」と2種類あったりするのだけれど、これが値段の差以上に味わいも香りも全然違ったりする。
 

今回、購入したワインのうちの1本、プレミアムメルロー2014(1800円)。「プレミアム」が付かない普通のメルロー(1500円)より300円高いだけだけれど、もう全く別物。安い方は、いっちゃ悪いけれどスーパーとかで300円くらいの格安外国ワインを買って「うーん、失敗したかなー」って思っちゃうような感じだけれど、こちらは奮発して3000円とか4000円くらいのワイン買って、「よっしゃ今回は当たりだ! ラベル覚えておこう!」って思うような、そんなワインだ。

「プレミアム」とついたワインが、それがつかないワインとくらべて違うのは何か? 説明書きを見ると、「紫波町内の特定畑から収穫されたブドウのみで醸造された」とか書いてあるけれど、絶対それだけのはずはないだろコレ!と思って聞いてみたら、案の定、大当たり。ブドウだけじゃなく、使ってる樽から醸造過程まで、何から何まで全く違うのだとのこと。

「それだけ違うのに、300円しか値段の差がないってのはダメでしょ、もっと値段を上げるとかしないと」と、思わず言ってしまった。後から思い返してみると、随分と上から目線、実に偉そうな物言いである。何様のつもりだこいつ。アルコールの力って人を大胆にさせるというか恥知らずにさせるというか。

そんな不遜な物言いにも、まったく気を悪くされた様子もなく答えてくれた。「この紫波――というか岩手には、ワインを楽しむという文化はまだまだ根付いているとはいえない。まずは普段の生活にワインを取り入れてもらうためにも、あまり高い値段ではなく、できるだけお求め安い値段になるようにしているんです」とのこと。瓶内二次発酵のスパークリングがたった2000円という破格値で売ってるのも同じ理由らしい。

購入したのは他に2本。「プレミアム」が付かない方のリースリングリオン(1500円)と、限定醸造の紫波ルージュ(1400円)。リースリングは、香りも酸味もちょうどいい感じで普通にリースリングとしてレベルが高かった。紫波ルージュというのはマスカットベイリーAとヤマソービニオンのブレンド。両方とも、ヘタな作り方すると嫌な感じのエグみというか喉に引っかかる感じが残ってしまう品種だけれど、これはまるで何年も寝かしたみたいなまろやかな感じに仕上がっててビックリ。これはなにが違うんだろう、ブレンドとか作り方とかが上手いんだろうか。
販売棚。通常よりも小さいサイズのビンで、その分だけ値段を下げた製品の品揃えが豊富なのも、「とにかくまずはワインを飲む文化を岩手に根付かせたい」って気持ちの現れなんじゃないかと思う。

試飲を終えたあと、道の駅まで歩いて戻って止めてあったクルマの後ろに潜り込む。もうすっかり暗くなってたのでそのまま爆睡。明日は、以前ネットニュースで読んでから、行ってみたいとずっと思ってた水族館まで行く予定。同じ「東北地方」でも、数百キロは離れていたりするのだけれど……。

自園自醸ワイン紫波 (www.shiwa-fruitspark.co.jp/winery)

池上ヒロシ

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