形も大きさも重さも、レバーやボタンなどの機能や扱い方もほとんど実銃そっくりのエアガンを普段から扱っているサバイバルゲーマーならば、それと同じ実銃を手にした時もプロなみに上手く扱えるんじゃないだろうか?
「銃の扱いが上手い」というのは具体的にはどういうことなのか、というところからちゃんと考えると、答はNOだ。「銃の扱い」を基礎から教えたとして、「モノになる」のはサバイバルゲーム経験者よりも、何も知らない素人さんのほうがずっと早い。これは断言できる。
確かにサバイバルゲーマーは、銃の操作方法や射撃してターゲットに当てる技術などについては、全く銃(の形をしたもの)に触ったことがない人に比べれば「上手い」といっていいだろう。けれどそんなことは、「銃の扱い」の中ではほんの一部分にすぎない。
銃を扱う上で、「操作方法」だとか「射撃技術」なんかよりも、はるかに大事で、ずっと重要なところにおいて、多くのサバイバルゲーマーは、やっかいな習慣を身につけてしまっている。だからサバイバルゲーマーに実銃の取り扱いを教えようとするならば、そのやっかいな習慣を根気強く時間と手間をかけて除去する必要がある。「上手い」とか「ヘタ」とか言い出すのは、それが終わってからの話だ。
サバイバルゲーマーは、確かに「銃の操作方法」には長けているだろう。マガジンを差したりボルトレバー(チャージングハンドル)を操作して初弾を装填したり、セフティをかけたり解除したりといった細かい操作なら、最近のリアルなエアガン・電動ガンを使い慣れた人なら、特に教えられずとも正しい操作ができるだろう。
また、サバイバルゲーマーは、狙って撃って当てる技術にも長けているだろう。撃った弾が飛んでいく様子が目で見えるエアガンで弾道を見ながら銃口を振ってターゲットまで誘導するような撃ち方しかしたことがない人なら別だが、ライフルを構えてサイトを見てターゲットに重ね合わせる撃ち方を日常的にしている人だったら、教えなければならないことの半分くらいは既に身につけているようなものだ。
しかし、そんなことはたいしたアドバンテージにはならない。レバーやボタン類の操作とか、狙って撃って当てる技術とかは、「銃の扱い」の中ではほんの一部分、言ってしまえば「取るに足らないほどの一要素」にすぎないからだ。
重要なのは、撃つべき時に正確に撃てることではなく、撃ってはいけない時には絶対に撃たないことだ。撃ってはいけないモノは絶対に撃たないことだ。そっちのほうが、はるかに、ずーっと、何十倍も重要なことだ。味方や自分自身を、手にしたその銃で間違えて撃ってしまうという事故を絶対に起こさない、そういう銃の扱い方を身に染み付いた習慣として身につけていることだ。
銃を取り扱う上での「基本的なルール」とされているもの。国や組織によって若干の違いはあるが、最も良く知られているのはジェフ・クーパーによる「4つの原則」だろう。
- All guns are always loaded.(全ての銃は装填されていると考えて扱え)
- Never let the muzzle cover anything you are not willing to destroy.(銃口は撃っても良いもの以外には絶対に向けるな)
- Keep your finger off the trigger until your sights are on the target.(サイトがターゲットに重なった時以外は指をトリガーをかけるな)
- Be sure of your target and what is beyond it.(常にターゲットの後ろに気を配れ)
もちろんこれは、「ごく基本的なルール」にすぎない。オープンな場所(具体的には、戦場など)で銃を扱うとなると、射撃場だけで銃を扱うのなら必要ないかもしれないルールがいくつか追加されてくる。例えば、銃を手から離す時には「安全な状態」にしなければならないとか、銃を手にとった時は(それがほんのついさっきまで自分が持っていたものだとしても)その銃が「安全な状態」にあるのかどうかを確認しなければならないとか、そういったことだ。
なのに、サバイバルゲーマーの多くは、その極めて基本的なルールですら守らない。守らなくても別にたいした事故にはならないからだ。もし万が一、「撃つつもりがなかったのに撃ってしまって、撃った弾が誰かに当たってしまった」という事故が起こったとしても、ほとんどの場合「痛え!」「ゴメン!」で済むエアガンだからそれでもなんとかなっているのだろう。そのため、「銃を手に取るなりトリガーに指をかける」とか、「その銃の銃口を人に向ける」といった、絶対にやってはいけないことを平気で行ってしまう。そういう習慣が身についてしまっている。
だから、サバイバルゲーマーに実銃の扱いを教えようとするときには、まずその「銃を扱う上での間違った習慣」を徹底的に取り除くところからはじめなければならない。一度身についてしまった習慣を除去するのは、手間も時間もかかる面倒な仕事だ。
サバイバルゲーマーの全てが危なっかしい銃の扱い方をしているというわけではない。ゲーム会で見ていると、サバイバルゲーマーの中にも銃口管理や安全対策が実に堂に入ってて、安心感のある銃の扱いをしている人がごくまれにいることはいる。
しかし話を聞いてみると、そういう人は実は本職さんだったり、実銃所持者でもあったり、あるいは海外などできちんとした実銃射撃のトレーニングを受けた経験があったりする。サバイバルゲームで初めてエアガンを触り、それ以来ずっとサバイバルゲームでしかエアガンを扱った経験がない人は、安全管理という点ではほぼ間違いなく「怖くてとても実銃なんか持たせられない」状態になっている。
「持っているのは実銃じゃなく、エアガンなんだから、それでもいいじゃないか?」
確かにその通りかもしれない。だから、自分が主催しているサバイバルゲーム定例会でも、実銃並みの安全管理を全ての参加者に求めるなんて無茶はしていない。とはいえ、例えば銃口で人を指さすとか、座ってる人の頭越しに試射を行うとか、あまりにも目に余る行為をしている人がいた場合は、「さすがにそれはちょっとやめてくれ」とお願いすることもあるが……。
「銃の扱い」を基礎から教えたとして、「モノになる」のはサバイバルゲーム経験者よりも、何も知らない素人さんのほうがずっと早い。そう断言した理由について、ここまで読んでくれた方ならだいたいわかってもらえたのではないかと思う。
銃に限らず、武器とか兵器とかに分類されるものに求められるのは、「必要なときにちゃんと使えること」と、「必要でないときには絶対に機能しないこと」の2つだ。そしてその2つのうちどちらが重要かといえば、圧倒的に後者である。それを取り扱う人間に求められる技術についても同じこと。「銃の取り扱いに長けている」というのは、操作方法に熟練していることでも、狙って当てる技術に優れていることでもない。どれだけ安全に手にした銃を扱うことができるか、そういった安全管理を無意識のうちにキチンとできるようになっているかどうか。それに尽きる。