「映画に出てくるヒーローみたいに、全身に防弾プロテクターを装備したり、もっとローテクで良いなら頑丈な金属製の盾を手に持てば、戦場の兵士はずいぶんと安心できるのではないだろうか?」
人間、なによりも自分の命が一番大事。戦場でも、できれば攻撃よりも防御に力を入れたいというのが本音だろう。だが現代の戦争においては、「盾」よりも「矛」の方がはるかに強くなってしまっており、少々防御に力を入れたところで気休めにしかならないというのが現実になっている。
もちろん、兵士達は昔に比べればずいぶんとハイテクな防弾装備を身に着けるようになっているが、それらはせいぜい砲弾の破片などから身を守り致命傷を防ぐためのもの。機関銃の弾をモロに食らっても生き延びることができるような防弾性能は持っていない。もしそんな性能を持った防弾プレートを身につけようとしたら、とんでもない重量になる。
拳銃弾程度なら、厚さ数ミリ程度の鉄板でもなんとか防ぐことはできる。小銃弾でも10mmもあれば充分だろう。だが三脚に備え付けて撃つ重機関銃の弾となると、厚さ30mmはないと防ぐのは無理なのだそうだ。一般的に「盾」と言われた時に想像されるものの大きさといったら、小さくても1メートル四方くらいは必要だろうか。厚さ30mmで1メートル四方の鉄板となると、重さはなんと236kgにもなってしまう。重量挙げの選手でも手に負えないレベルのシロモノだ。
「重くなるのなら、車輪を付けるなどして動かしやすくすれば良いのでは?」
良い考えだ。だが車輪を付けるだけでは動かすのに難儀する。
「ならば、エンジンを搭載して自力で動くようにすればいいのでは?」
良い考えだ。だが整地された土地だけではなくガレキや泥濘地、さらには人の手によって掘られた塹壕などがあちこちにある戦場では、ただの車輪ではすぐにスタックして動けなくなってしまう。
「ならば、キャタピラを付ければいい。少々の不整地でもへっちゃらだ」
良い考えだ。でも、攻撃するときはどうする? 盾から身体を出して撃つのか?
「盾に小さい穴を開けて銃だけ外に出して、盾の中から撃てるようにすればよい」
良い考えだ。それならいけるかもしれない……おや、敵も同じことを考えて同じように「エンジンが付いて移動できる、隠れたままで攻撃できる盾」を持ち出してきた。それを撃破するためのより強い武器を搭載しないとならない。
「なら盾も大きく分厚くして、エンジンも大きく大出力のものにして、搭載する銃も大威力の大砲にすればよい」
ここまで書けば皆さんにもお分かりだろう。現代において「戦車」と呼ばれているもの、それが戦場における実用的な「盾」なのだ。最初の質問、「戦場で盾が使われないのはなぜ?」というものに対する最も正解に近い回答は、実は「戦場で盾は既に使われています。『戦車』と呼ばれているものがそれです」というものだったのかもしれない。