「アメリカでは、誰も彼もが銃を持っていて、ちょっとしたことですぐに撃たれるんでしょう?」
これだけの情報化社会なのに、大真面目な顔してそんなことを言う人が時々いる。日本に対して、「チョンマゲしたサムライが道を歩いていて、無礼をしたら斬り捨て御免」みたいな印象を持ってるのと同じくらい、時代錯誤で偏ったイメージだと思うのだが……。
確かにアメリカは「個人による銃の所持率」でいったら、ワールドランキングで2位以下を大きく引き離すダントツの一位。1人あたり1挺以上の銃が民間で個人所有されている。といっても、これは「アメリカ国民全員が銃を持っている」というわけではない。「銃がある家庭の率」という数字が統計として公開されていて、それは2012年(最新)で34.4%とのこと。半分以上の家庭には銃が存在しないということになる(※Gunpolicy.org)。
アメリカは州によって別の国といっていいほど法律も風習も違うことにも注意が必要だ。ニューヨークとかイリノイとかワシントンDCなどはヘタすると日本より厳しいんじゃないかってくらいに厳格な銃規制がある。特にニューヨークの厳しさは良く話題にされる。弾が入ってない銃をカギのかかるケースに入れて車の中に積んでるだけでも場合によっては捕まることもあるそうな。
逆にアリゾナはアメリカでも随一の「銃規制が緩い州」として知られる。「銃で身を守る」というのが人として当然の権利という考え方が浸透しており、ほとんど「誰も彼もが」に近い感じで拳銃やらショットガンやらを車の中に常備している、なんて話も聞く。
当然、銃規制が緩い州のほうが、銃規制が厳しい州よりも、銃撃事件や乱射事件が多いんだろうな? 意外にもそうでもなかったりする。前ページで、厳しい銃規制がある州の例として出したイリノイ州にあるシカゴなんかは、全米でも最も犯罪件数が多い都市の一つとなっており、殺人件数に限っても全米平均の4倍も発生しているという。
しかも面白いことに――と書いてしまうと不謹慎極まりないが――イリノイ州において「拳銃所持を全面的に禁止する」という、思い切った厳しい銃規制を行った1982年からの10年間、殺人件数は41%増と激増している。そして逆に、許可を取れば銃を(撃てる状態で)持ち運ぶことを許可する制度を導入するという「銃規制の緩和」を2014年から行ったところ、犯罪件数が激減してしまったという。
やっぱり、銃を持ち歩いてる人がそこらじゅうにいるんだ、アメリカは危険な国なんだ!って思ってしまいそうになるけれど、実は犯罪の発生率を諸外国と比較してみると、アメリカはそれほど上位にいるわけじゃない。銃の所持率だけならダントツの一位なのに?
例えば「殺人の発生率」。件数を比べればそりゃもう物凄い数なんだけれど、それは人口が多いから。10万人あたりの件数にすると1年間で4.7人。ワールドランキングだと218の国・地域内で109位になる(グローバルノート)。
「銃による殺人」に限定した場合はどうなるか? 統計を見ると、10万人あたりだと2.8人程度、諸外国との比較は資料によっても異なるけれど、それでも20位とかそんな感じ。それも「上位グループにいる」というよりは、ダントツの上位グループが十数カ国くらいあって、その他大勢の「ぜんぜん少ない国」のなかの一つ、といった感じだ。
同じアメリカの中でも、地域によっての差がある。もちろん銃規制が厳しい州のほうが安全なんだろうな――と思ったら大間違いで、全然そんなことはない。「銃規制が厳しい州」として例に挙げたイリノイ州だけれど、人口あたりの銃器による殺人件数だと49州の中で19位。数字だけ比べれば、銃規制が緩くて「ガンフロンティア」みたいなイメージがあるテキサス州(23位)とほとんど変わらない。しかもこのイリノイ州、「殺人における銃器の使用割合」だと堂々たる1位になっていたりする。
※参考:アメリカ★地域ランキング
「銃規制が厳しくなると犯罪が増えて、銃規制が緩くなると犯罪が減るってことか?」
いやいや、そう単純なもんでもない。上に挙げたシカゴのようにそうなった例もあるけれど、そうならなかった例もある。銃の携帯を許可制で認めることにより、悪いことをしようとする犯罪者に二の足を踏ませる効果がある、というのはおそらく事実だろうけれど、携帯許可をとって銃を所持した人が、その銃を使ってなにか悪いことをしようとしたり、あるいは自殺するのにその銃を使ってしまったりということだってあるだろう。
そもそも因果関係が逆である可能性だってある。犯罪件数が多い、つまりは治安の悪い地域だからこそ銃規制を厳しくしようという動きが活発になり、そして結果的に銃規制が厳しくなっているということもあるし、その逆で治安が良い地域だからそれほど厳しく銃を規制しなくても大丈夫なので、結果的に規制が緩くなっているのかもしれない。
確実に言えること。まず、アメリカは個人による銃の所持率が世界一多く、ダントツの1位だということ。といっても誰も彼もが銃を持ってるというわけじゃなく、全体の比率でいっても半分未満、州によっては「銃を持ってる人のほうが珍しい」ところだってあるということ。そして、犯罪の発生率、言い換えると「治安の悪さ」については、アメリカは世界的に見ればそれほど悪い方でもないということだ。
日本は銃規制が極めて厳しく、そして同時に犯罪発生率も殺人件数も桁違いに少ない。日本と比べてしまえば、確かにアメリカは治安が悪い国ってことになってしまうだろう。私自身の数少ない渡米経験で話をすることを許してもらえれば、確かに銃は日本よりずっと身近だった。あちこちに大きな目立つ看板を出したガンショップがあるし、入ってみれば明るくて広いし、お金を払えば裏のレンジで銃を撃たせてくれたりもした。だが、こと治安の良さあるいは悪さってことで言えば、アメリカが異常に悪いのではない。統計を見れば、むしろ日本が極端に良いんだってことを改めて思い知らされる。