もし、本当に銃に変わる新しい武器が登場し、戦場において銃を代替する主役として使われるような時代がくるとしたら、それは単に「新しい武器」の登場というだけではなく、人類の社会構造そのものが大きく変革するような何かが起こったその結果として現れるものなのではないかと思う。
なぜそんなことが言えるのか? それは、ほかならぬ「銃」が、どのような形で弓矢に代わり戦争の主役となっていったのかを振り返ってみるとうかがい知ることができる。
銃という道具が人類の歴史に登場したのは500~800年以上も前のこと。だが銃が戦場の主役として使われるようになったのはせいぜい200年くらい前のことだ。なぜ発明されてからそんなに長い時間がかかったのか? 単なる技術的な問題だけではなく、人類の社会構造そのものが大きく変革したことが大きなきっかけとなっている。
「火薬を使って弾を飛ばす」道具というのは、弾と火薬を一発ずつ銃口から棒を使って押し込んで撃つ「前装銃」の時代が長かった。製造するのにそれほど特別な技術は必要ないが、1発撃つのに長い時間が必要だった。威力はそれなりに高かったが、今の銃ほど遠い距離まで正確に撃てる能力は持っていなかった。熟練した弓使いのほうがずっと遠距離を素早く攻撃できる。そういったことから、銃は人類の歴史に登場してから、長い間戦場においては攻城戦において城に立てこもる側など、あくまで一箇所に留まって用いる防衛用の武器であり、弓矢を補助する存在だった。
弓矢を戦場から駆逐し、銃が歩兵用のメインの攻撃用武器となるためには、現代使われているのと同じように弾薬を銃身の後ろから装填して閉鎖して撃つ「後装銃」が実用化される必要があった。弾や火薬を銃身の後ろから出し入れできるようにするためには、銃身の後ろを開け閉めできるような構造にする必要があるが、どれだけ精密に作っても必ず隙間は生じてしまう(隙間がなければ部品同士はガッチリくっついてしまって動かなくなる)。発砲時には、火薬が燃焼して発生する高圧ガスがその隙間から刃のようになって噴き出してきて射手を襲う。
それを防ぐために開発されたのが金属製の薬莢だ。発砲時にはガスの圧力で膨らんで隙間を塞ぎ、撃ち終わると元のサイズに戻って簡単に銃身の後ろから取り出すことができる。この薬莢と実際に飛んで行く弾、そして弾を銃身内で加速する火薬と、その火薬に点火するための火薬。この4つを一つにパッケージングしたものを「弾薬」あるいは「カートリッジ」と呼ぶ。
カートリッジは、銃身の後ろに(完全にではなくてもそれなりの精度で)ピッタリと収まる必要がある。大きすぎては入らないし、小さすぎては隙間からガスが吹き出して危険だからだ。だから金属製薬莢を使った後装銃を実用化するためには、ほぼ同じサイズ・形の銃をいくつも安定して製造する技術と、さらにそれに合致するサイズのカートリッジを大量に安定して(できれば安価に)製造する技術が必要になってくる。
それを可能にしたのが、18世紀から19世紀にかけての大きな社会構造の変革である「産業革命」だ。詳しいことは歴史の教科書に譲るが、ブルジョワジーと呼ばれる富裕層の出現、蒸気機関の発明による産業構造の変化などが複合して起こった大変革である。もし産業革命がなければ、今のような銃に対するニーズも生まれず、よって大量生産するための技術も生まれず、もっと長いあいだ銃は昔のままの姿で、戦場においてもあくまで補助的な役割しか果たさないままでいたことだろう。
銃が弓矢に変わって戦場の主役になるためには、人類がその社会構造そのものを大きく変革させる必要があった……。このことは、見方を変えれば銃に代わる新しい武器が戦場の主役になるためには、産業革命と同じ規模かそれ以上の大きな変革が人類の社会に訪れることが必要なのではないか、という予測にもつながる。
もっとも、それがどんな変革になるのか、それによって生まれる「新しい武器」がどんな形のものになるのかは全くわからない。今の技術ではまるで想像も付かない技術を使ったものかもしれないし、もしかしたらもう既に登場していて日常的に使われているが、「とてもこんなものは、戦場で銃を代替する武器になんかならない」と思われているありふれたものだったりするかもしれない。
「ガンマメ~銃の豆知識~」では、銃のメカニズムや歴史などについて、難しい言葉を使わずわかりやすく、けれどいいかげんなことは書かずにできるだけ詳しく書いていきたいと思っています。毎週火曜日、週に一回のペースを目標に新しい記事を投稿できればと思っていますので末永くよろしくです。