第35回APSラジオにて、視聴者さんからのお手紙ということで「リスキーさんはアゴを引いて安定させるのが良いと言っていて、自分もそれを試したところ安定したのでずっとそうしていたのだが、動画とか見るとアゴを出して構えている人がけっこう多い。試してみても安定するようには思えない。アレにはなにか意味があるのか?」という質問が紹介されていました。リスキーさん、マック堺さん、山中さんともに「分からん、お手上げ! 分かるかたいらっしゃったらお手紙ください」とのことでした。
私も完全に「それはね、こういうことなんですよ」と完全無欠の正解を書けるわけじゃないんですが、これまでの経験とか各方面から節操無く仕入れた知識から、「多分、こういうことなんじゃないかな」という仮説めいたものなら挙げられますので、少しでも助けになればと思い投稿します。
ウクライナ選手の撃ち方はアゴを引くとかそういうこと以前の問題として、この人いったいどういう骨格しているんだってレベルで首が真横向いた上に肩の中に沈み込んでます。子供のころからピストル射撃やってる人はこういう姿勢が可能になるそうです。ピストル射撃教本の著者である三野さんによると、「まるでフクロウみたいで驚くよ」とのこと。普通の人にマネできる姿勢ではないのではないかと思います。
日本でのピストル射撃大会でも海外の中継やYoutube動画でも、多いのは松田選手の姿勢に近い、「少しだけアゴを出した姿勢」だと思います。
どちらが正解なのか? 2人とも世界戦の金メダリストな選手ですから、どちらかが間違ってるとかどっちが絶対の正解だとか、そんなことはとても言えません。どちらも、その人にとっての正解です。ただ、一般に(というか、始めたばかりの人に)オススメできるのはどちらか、というのならば松田選手の姿勢に近い形だと思われます。
世界の射撃競技を総括しているISSFのWebサイトに、「ピストル射撃入門」みたいなコーナーがあります。
The ISSF Academy -The Fundamentals of Olympic Pistol Shooting-
いつかまとめて内容の紹介をしてみたいと思ってるのですが、今回はこの中の一部、「Head Position(頭の位置)」の部分にどんなことが書いてあるか見てみましょう。簡単に抜粋すると、
頭は傾いたり偏ったりしないように標的方向に回すが、その際には下記のことに気をつける。
頭を傾けたりしないように、ってのはピストル射撃にかぎらずライフルでも口うるさく言われることで、その理由は「傾けてると三半規管からの異常信号が発生してしまい、身体全体のバランスを取るのに悪影響があるから」というものです。前ページに抜粋したISSFの射撃入門でも、「頭は傾けるな」ってことは書いてありますが、左右に傾けるのはNGだってことはわかっても、じゃあ前後に、つまりアゴを引くのとアゴを突き出すのと、どちらが正しいのかってことは書かれていません。
バランスをより取りやすい、「前庭の機能にとって最適な状態」になるためには、アゴを引くのと突き出すのとどちらが良いのか?
射撃じゃなくて、古武術とかそっちのほうから引っ張ってきた知識になりますが……いや正直に書きますと、「ツマヌダ格闘街
ネタ元が格闘マンガだったので半信半疑でしたが、実際に試してみると確かに、バランスをとろうとすると頭の角度はそんな感じになります。目をつぶって片足を上げてどれだけ立っていられるか、みたいなことをやってみれば分かりますが、自然とアゴは引くのではなく少し前に突き出すような形になってくることが多いと思います。本能的に、そのほうがバランス保持機能が向上することを知っているからでしょう。
アゴを腕の中に埋もらせるようなフクロウめいた射撃フォームも、もちろんそれはそれで利点はあるのでしょう。利点が無いのなら世界トップレベルの射手がそれで撃ってるはずはありません。ただ、それこそ5才とか6才のころから毎日何百発も撃って練習してきたような人でもなければ、そんなポーズを「不必要な緊張を強いることなく」続けられるとは思えません。冒頭のAPSラジオでのリスキーさんも、「無理してアゴを引くのは良くない」という主旨の発言をされています。
筋肉などに無理をさせることなく、血流を十分に確保しつつ、バランスを取るための器官の機能を最大限に発揮できるようにするために、多くのシューターがたどり着くのが「鼻先と耳の穴が水平になる角度」、言い換えると「アゴを少しだけ突き出したような角度」なのではないかと思われます。