【ガンマメ】イナーシャ・ドリブン=慣性の法則を利用した作動

現代の銃に使われる銃弾は、実際に飛んで弾だけでなく弾を加速するための火薬、その火薬に点火するための火薬、そしてそれらをひとまとめにする真鍮製のケースによって成り立っている。発砲によって、それらのうち「弾」は飛んで行くし「火薬」は燃えてなくなるが、真鍮製のケース=薬莢は銃の中に残る。だから次の弾を撃つためにはその空薬莢を銃の外に排出し、次の弾の発射準備を行わなければならない。その「排莢と次弾の装填」を手動ではなく銃が自動で行ってくれるのが自動銃だ。

現在、世界中の様々な分野で使われている自動銃のほぼ全ては、発射した弾の反動や火薬燃焼ガスの圧力を利用して作動する、「自己完結型」のメカニズムを持っている。自動銃の代表格であるガス・オペレーションについては前回取り上げたが、今回はそれとはまた別のメカニズムであるイナーシャ・ドリブンについて説明しようと思う。

イタリアのベネリ社によって普及した自動銃のメカニズムの一つ、イナーシャ・ドリブン。これは比較的新型の自動銃「Vinci(ヴィンチ)」の紹介動画の一場面だ。(画像クリックで動画ページへリンク)

「ガス・オペレーションを片付けたなら、次はショートリコイルが来るのが筋じゃないのか?」

というツッコミが私の脳内読者から入ったが、それに関しては取り上げないことにする。なぜなら、本気で突っ込んで解析していこうとするとわからないことだらけになってしまうからだ。はっきり言うと、ショートリコイルは、「手を出したらヤバい」領域なのだ。

そりゃもちろん基本的な仕組みや各部品の役割についてはちゃんとわかっているし説明もできる。けれど、発砲の瞬間にそれらの部品類が物理的にどういった作用反作用を起こしてどういった運動をするのかということについては、人や文献によって言うこと書いてあることがバラバラで、けっこう信頼がおける情報ソースですら「いや、それはおかしいだろ物理的に」としか思えないことが平気で書いてあったりする。極めつけはWikipediaの「ショートリコイル」の項目だ。この偏執的な長さと記述の細かさ、そしてノートにおける終わりの見えない議論を見れば、このウンザリ感はわかってもらえるんじゃないだろうか……。

というわけで、それよりははるかに単純でわかりやすいイナーシャ・ドリブンについての話というわけ。

そもそも「慣性の法則」とは?

日常的に定型句っぽく使われることのある「慣性の法則」という言葉だけれど、実はちゃんと物理学での定義がある。「運動の第1法則」なんていういかにも物理の教科書に載ってそうな別名もある。わかりやすく書くと、「止まっている物は止まり続けようとする。動いているものはそのままのスピードで動き続けようとする」というものだ。当たり前のことを言ってるようだけれど、実はけっこう物理的には重要なことであり、また人類がこの「当たり前のこと」をきちんと認識したのもそれほど昔のことではない。古代ギリシャあたりだと、動いているものが動き続けるのはなぜか、例えば石を投げると、手から離れたあとも石が飛び続けるのはなぜか、外部からなにか目に見えない力が石に働き続けているからではないか、みたいなことが真面目に考えられてたりしたそうな。

この「慣性の法則」、特に「止まってるものは止まり続けようとする」という性質を利用して銃の作動に応用したのがイナーシャ・ドリブンである。イタリアのベネリという銃器メーカーが散弾銃のための作動システムとして考案し、ほぼベネリ独自のメカニズムとして熟成させてきたものだ。

そのメカニズムは、それを構成する部品だけを取り出してみれば単純そのもの。ボルト(ロッキングヘッド)とボルトキャリアーの中には、ただ「太いバネ」が一本入っているだけ。発射ガスを使うわけではないのでピストンもシリンダーもない。

ベネリM3のボルトキャリアーを分解したところ。部品同士を連結するピンや撃針を除けば、中には極太のバネ=イナーシャ・スプリングが一本入っているだけというシンプルな構造だ。
写真撮影協力:金子銃砲店

こちらは組み立てた状態。ボルトはファイアリング・ピンSPに押し出される形で前方に突き出した状態になっている。

ボルトを銃に装着しボルトキャリアーを前進させて閉鎖すれば、ロッキングヘッドは銃身後部に当たって引っ込む。そのときにボルトキャリアー上部にある斜めになった溝によってボルトは(後ろから見て)反時計回りに少しだけ回転し、ボルト先端の側面にある突起が銃身後部と噛み合ってロックされる。ちなみに、この時点ではイナーシャ・スプリングは全く縮んでいない。

このロックを解除するためにはボルトキャリアーを後退させる必要がある。だがガス・オペレーションの銃のように、銃身方向からボルトキャリアーに対して直接何らかの力を加えようとする部品は何一つ存在しない。どうやってボルトキャリアーを後退させるのか?

「慣性の法則」を応用してボルトキャリアーを後退させる

ここで「慣性の法則」の出番である。弾を発射すると反動により銃は勢い良く後退する。だがボルトキャリアーは「慣性の法則」により、その場に止まり続けようとする。後退する銃(具体的には銃身の後部)がロッキングヘッドをボルトキャリアーの中に押し込み、内部にあるイナーシャ・スプリングを圧縮する。その直後、イナーシャ・スプリングはバネの反発力によって伸張し、ボルトキャリアーを後方に「蹴りだす」形になる。ボルトキャリアーが後退するのでボルトのロッキングが外れ、そのあとはロッキングヘッドとボルトキャリアーが一緒になって後退するという仕組みだ。

ボルトキャリアーを後退させるのに発射ガスを持ってきたり複雑な部品の組み合わせを使ったりすることなく、「反動で後退する銃」そのもののエネルギーを一瞬だけ極太のスプリングに蓄えさせてから放出するという、まさに目からウロコのシステムである。

発射ガスの一部を持ってきたりしないので汚れる場所が少なく、ほぼメンテフリーで何百発も撃てること、構造が単純なため銃そのものが軽く作れること、それでいて作動は極めて速くおよそ人間の限界に近い超速連射も可能なことなど、利点は数多い。ただ、「反動によって後退する銃」そのものを作動のきっかけとするシステムである以上、威力の異なる様々な弾に対応するのが難しいことと、銃をどういうふうに構えるかによって作動の仕方が変わってきてしまうという欠点がある。

イナーシャ・ドリブンの説明で、「銃の保持が甘いと作動不良を起こしやすい」みたいなことが書いてあることが多いが、実はそうではなくむしろ逆だ。銃をあまりにもしっかりガッチリと保持してしまうとイナーシャ・ドリブンは「作動しない」のだということは、上の図を見れば分かると思う。もっとも人間が保持している以上、散弾を撃って全く銃が後退しないなんてことはないが、例えば軍用の機関銃などで三脚や銃架などに据え付けて撃つ場合など、もしその機関銃がイナーシャ・ドリブンだったら、「銃が後退しないために作動しない」ということになりかねない。

イナーシャ・ドリブンはあくまで「狩猟用のそれなりに威力がある弾を、狩猟用のそんなに重くない銃を使って、あまり変なやり方ではない形で手に保持して撃つ」という、ある程度限られた用途に使う場合にのみ有効なシステムということなのだろう。

池上ヒロシ

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