【ガンマメ】実はガスで作動してるわけじゃない「ガス・オペレーション」

少し検索エンジン受けを狙ってセンセーショナルなタイトルを付けはしたけれど、結論はガス圧で動いてるという点はなにも変わらない。ただ、銃身の上についてる小さいガスシリンダー&ピストンによる力だけで作動しているのではない、というのがこの記事の主旨だ。

目にしてわかる、あまりに細いロッド

銃身の先端近くに開けられた小さな穴から発射ガスの一部を導き出し、シリンダー内に吹き付けてピストンを作動させ、その力を使ってボルトを後退させて排莢・次弾の装填を行う……。軍用・民間用問わず、多くの自動ライフルで使われているガス・オペレーションの基本的な説明はこんなところだろう。ドイツのG36やロシアのAKシリーズのようにシリンダー&ピストンが銃身の上に直接固定されているコンベンショナル・ガスピストンと、M16/M4のようにボルトキャリア&ボルトがシリンダー&ピストンを兼ねているダイレクト・インピンジメント(リュングマン)という違いはあるが、「発射ガスでピストンを動かす」という基本的なところは同じだ。

とはいえ、初めて実際にそれらの銃を手にして操作してみると疑問に思ってしまう。「本当にこんなに小さいシリンダー&ピストンや細いオペレーション・ロッドで、こんなに強いリコイルスプリングで前方に押し付けられているクソ重いボルトを、あんな物凄い勢いで後退させているのだろうか?」

HK416のガスシリンダー&ピストン、そしてボルト。指先よりも小さいシリンダー、箸のように細いオペレーション・ロッド、こんなものだけで本当にボルト&ボルトキャリアーをリコイルバッファ&スプリングを縮めながら、目にも留まらぬスピードで後退させているのだろうか? photo:defensereview.com

例えば、同様に「物凄い勢いで往復運動をする機械」である自動車のエンジンのピストンとコンロッドの太さや、車体に対するサスペンションの太さなどを思い浮かべてみれば、自動銃におけるボルトの動きに対するピストンの小ささ、オペレーション・ロッドの細さは、あまりにも不自然すぎる。民間向けで数発~数十発を撃つ程度ならともかく、軍用の銃ならば何百発も連続して撃つことを前提にしているはずなのに、こんな頼りない細い棒に、目にも止まらない力強い作動のすべてを背負わせているなんて、常識的にありえない!

実は、それも当然の話である。小さなガスピストンと細いロッドによって、射撃時に物凄い勢いでボルトが前後動するそのエネルギーのすべてが伝達されているというその考え方そのものが間違いなのだ。ガスピストンの動きはあくまでボルトの閉鎖を解くだけ。ボルトを作動させているエネルギーの大半は別のところから供給されているのである。

「薬莢が抜けようとする力」が源になるブローバック

まず、ガス作動なんてややこしいメカニズムを持っていないブローバックの銃では、どうやって重いボルトが動いているのかを考えてみよう。

閉鎖時にボルトと薬室を噛みあわせてロックする機構を持っていない自動銃を「ブローバック」、あえて区別する意味で「シンプル・ブローバック」と呼んだりする。銃身の後部を閉鎖している部品は、ただスプリングの力で前方に押し付けられているだけだ。

シンプル・ブローバックの銃では、長い棒を使って銃口から薬莢を後方に押すと、そのまま銃身後部を閉鎖しているパーツ(イラストの場合はスライド)が後退する。スプリングの力で押さえつけられているだけだからだ。

引き金を引くことで撃発して火薬が燃焼し、銃弾が銃身内で加速されている時、銃身内では火薬の燃焼によって生じたガスの圧力が上下左右前後、全てに均等にかかっている。銃身は円筒形だから上下左右の圧力は互いに打ち消しあう。前方にかかる圧力が銃弾を加速している。そして後方にかかる圧力は、薬莢を後方に押すことになる。

圧力はすべての方向に均等にかかるが、上下左右は銃身内で打ち消し合う。銃弾を加速するのは前方への圧力だが、それと反対側、薬莢を抜きとろうとする向きにも圧力はかかっている。

シンプル・ブローバックの銃では薬莢を後ろから抑えているパーツは銃身と固定されていないので、薬莢がガスの圧力によって後方におされるとそのまま後ろに下がってしまう。だが、閉鎖しているパーツの質量とスプリングの力を足したものは銃弾の質量よりずっと大きいので、それらが後方に下がるスピードは銃弾が前方に向かって飛んで行くスピードよりもずっと小さいものになる。質量とスプリングの強さを大きいものにしておけば、特別にボルトを固定しておく仕組みがなくても後退速度は十分に小さいものになるというわけだ。

ただしこの方式で撃てるのは、ある程度以上に銃弾の質量が小さく初速も低い場合、つまり威力が小さい場合に限られる。威力が強い弾を撃とうとすると、それに対抗するためにボルトを重く大きく、さらにボルトを前方に向かって押すスプリングも強いものを使わなければならず、銃そのものがやたらと大きく重くなり、また初弾装填のためにボルトを操作するときも人力では操作できないほど重く硬いものになってしまう。人外の化物が使う設定のファンタジー作品に登場する銃ならともかく、普通の人が使う銃がそんなんでは、とても実用にならない。

そこで、そんなに大きくないボルトとそれほど強くないスプリングでも高い威力の弾を撃てるようにするために、撃発時にはボルトを銃身後部とガッチリ組み合わせてロックしておいて、銃身内で銃弾が加速しはじめる最も圧力が高いわずかな時間帯が過ぎてからそのロックを外すという仕組みが考えだされた。その一つがガス・オペレーションというわけだ。

ピストンの主な役割は「カギを外す」こと

コンベンショナル・ガスピストンでもダイレクト・インピンジメントでも、ボルト先端は銃身の後ろ(薬室部分)と噛み合っているので、シンプル・ブローバックの銃のように薬莢だけを装填して銃身内から押してもボルトはびくともしない。どんな仕組みで噛み合っているのかというと、この連載の第1回で書いた「モーゼルアクション」と基本的には同じやりかただ。円筒側面にいくつも突起が飛び出しており、それを薬室内に入れてから少しだけ回転させることで薬室内の溝と組み合わさってガッチリとロックされる。

ボルトを回転させる役割は、ボルトキャリアーが担っている。ボルトの側面に突起があり、それがボルトキャリアー内面にある溝を前後に動くようになっている。溝は真っ直ぐではなく斜めになっているので、ボルトが前後に動くときに同時に少しだけ回転する仕組みになっている。ボルトはボルトキャリアー内にある弱めのスプリングにより前方に押されているので通常は飛び出した状態になっているが、銃身の後ろに押し付けて後方から強いスプリング(リコイルスプリング)の力で押されることにより引っ込み、それに伴い回転して銃身後部と噛み合うという仕組みだ。

ボルト単体をいくら後方に押しても、銃身後部とガッチリ噛み合っているのでびくともしないのだが、ボルトキャリアーを後方に押せば、まずボルトキャリアーだけが後退し、それによってボルトがわずかに回転して銃身後部とのロックが外れ、そのあとはボルトキャリアー&ボルトが一緒になって後退する。この「ボルトキャリアーだけを後退させる」のが、ガス・オペレーションにおけるピストンの主な役割なのだ。

コンベンショナル・ガスピストンの場合は単純で、見た目どおりの動きなので説明はいらないだろう。ピストンが後退してオペレーション・ロッドを介してボルトキャリアーを後方に押す。それによりボルトが回転して銃身後部の噛み合いが解かれる。

ダイレクト・インピンジメント(リュングマン)の場合は少しややこしいが基本は同じ。発射ガスが細いチューブを通してボルトキャリアー内に吹きつけられ、ボルトとボルトキャリアーを「引き剥がす」ような形の圧力をかける。ボルトは前方に押されるがそこには銃身があるのでそれ以上前進はしない。その一方でボルトキャリアーは後方に押されて後退し、それによりボルトが回転して銃身後部との噛み合いが解ける。

ピストンの動きがボルトキャリアーを後退させているのは確かなので、「ボルトが勢い良く前後動するエネルギー」の一部がガスピストンや細いオペレーション・ロッドによって供給されているのは事実ではある。だが、メインとなっているのはロックが解かれたボルトが銃身内の圧力により後退する薬莢に押されて後退する力、つまりシンプル・ブローバックの時と同じだ。その力がある程度のレベルに弱まるまでロックをかけておき、調度良いタイミングでロックを外すのがガス・オペレーションにおけるピストンの役割である。

ボルトを後退させる力のうち、ピストンによって供給される力と銃身内の圧力(薬莢が後方に押される力)と、どちらがどのくらいの割合なのかは残念ながら資料がないので確かなところがわからない。だがおそらく、「大半」といっていい割合が銃身内の圧力によるものだと思われる。少なくても、「ガス・オペレーションの銃では、ピストンの力だけでボルトを作動させている」というのは明らかな間違いだということだけは確実に言える事実だ。

池上ヒロシ

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