ごく普通の日常生活において「ボルト」という言葉を使う場合、それはいわゆる「ネジ」のことを指して使われることがほとんどだろう。だが銃器の世界では、それはある特定の部品や形式を指す言葉として使われる。具体的には、銃身の後ろを閉鎖するための筒状のパーツが、銃器の世界における「ボルト」だ。
この「ボルト」、なんでボルトと呼ぶのだろうか? 何の事はない、元々は普通の意味で使うボルトとほとんど同じ形をした、文字通りの「ネジ」だったからだ。
銃が今のような形になる以前、銃口から火薬と弾を棒を使って押し込んで撃つ「前装銃」だった時代。日本だと火縄銃(マッチロック)が良く知られているが、世界的には火打ち石を使って火薬に点火するフリントロックが長く使われた。このタイプの銃では、銃身の後ろ側を頻繁に開け閉めする必要がないので、「ネジ」を使ってガッチリと閉鎖してあった。
金属製薬莢が発明されて主流が後装銃の世界になるにあたり、閉鎖されているネジを簡単に開け閉めできるような仕組みがいろいろと考えられた。トリガーガードの部分をグルグルと回してネジを開け閉めするものもあれば、ヒンジ式のフタを開け閉めするタイプ、後方から円筒をスライドさせてかぶせるタイプのものなど、前装銃から後装銃への過渡期には様々なメカニズムが考案されている。
グルグルとネジ込むタイプを別にすれば、フタを開け閉めするタイプにはどうしても避けられない欠点があった。発射時に発生する高圧のガスが、フタの隙間から噴き出してきて射手の顔面を襲うのである。フタをピッチリ閉めればいいじゃないか……と思われるかもしれないが、複数の金属部品を組み合わせて動かせるようにするためには、その部品同士にどうしても少しだけ隙間を作らなければならない。ピッチリとくっつけてしまうと動かなくなるからだ。できるだけ精度を高めて隙間を少なくしようとしても、例えば軍用として使う場合などは何百発・何千発と撃つことになるわけだが、何度も開け閉めしているうちに少しずつガタが出てきて隙間が広がってきてしまう。そうするとガスの吹き戻しもどんどん大きくなり、実用に耐えないレベルにまでなってしまう。
この「ガスの吹き戻し」問題を完全に解決したのが、19世紀の半ばにヴュルテンベルク王国(現在はドイツの一部になっている)のオーベンドルフ王立ライフル工場で働いていたモーゼル兄弟が考えだしたメカニズムである。銃身の後ろに差し込む円筒の側面に「ロッキングラグ」という出っ張りを設けて、それを銃身の後ろにある窪みに差し込んでから90度回転させるだけで、まるでネジをグルグルと何回転もさせてねじ込んだのと同じようにガッチリと銃身の後ろが閉鎖されるという仕組みだ。
この方式は「モーゼルアクション」と呼ばれている。それまで使われていたスライド式やヒンジ式のフタに比べて極めて信頼性・安全性が高く、現代のライフルの多くに受け継がれる大発明となった。手動式のいわゆる「ボルトアクションライフル」のほとんどは、モーゼルアクションのコピーあるいは亜流である。それどころか、軍用の自動銃、例えばM16/M4だとかAKシリーズなども「円筒側面のロッキングラグを銃身後部に差し込んで、回転させることで閉鎖する」という基本的な構造はまさにモーゼルアクションそのものだ。回転させるのが90度ではなくもっと少ない角度で済むようにロッキングラグの数を増やしている点や、回転を手動ではなくガス圧を使って自動で行うようにしている点に違いがあるが、言ってしまえば違いはそれだけということだ。
「ガンマメ~銃の豆知識~」では、銃のメカニズムや歴史などについて、難しい言葉を使わずわかりやすく、けれどいいかげんなことは書かずにできるだけ詳しく書いていきたいと思っています。基本的に週に一回くらいのペースで新しい記事を投稿できればと思っていますので末永くよろしくです。