APS-3・トリガーのカスタム(5)~実践編3~

セカンダリレバーを外した状態でトリガーのキレを良くするためには、シアBをあらかじめ噛み合いが切れるギリギリのところまで回転させておくのが最も妥当な方法だが、外部から微調整が可能な形でシアBを回転させるなど不可能だ……と思っていたところ、TMVさんから思いも寄らぬ方法が提案された、というところまで前回はお伝えした。

真横から見た図だけを見ているとシアBに外部から力を加えるのは無理にしか思えない。下からも、前からもネジを追加するような余裕はない。

だが、横からなら可能だ。

横から力を加えて、どうやってシアBを回転させるのか? ネジが当たる部分を斜めに削れば良い。ちょっと大がかりな改造になる。少なくても金属ヤスリとドリル、あとできれば万力とタップが必要だ。

まず、シアBの図の部分を削り落とす(注:これは後述の「ネジを左側面から入れる」方式の場合。右側面の場合は削る角が逆になる)。
そして、この斜めになった箇所に、横からネジが当たるように、フレームの側面に穴を開ける。
真横からではなく前から見た図で考えると、この追加したネジの働きが分かり易いと思う。

私はセカンダリレバーを外してしまったので、グリップを大幅に加工することを覚悟した上で、図・上の方式を採用した。TMVさんはグリップの加工が少ない図・下の方式を採用したようだ。上と下(左側面方式、右側面方式)とではシアBの加工方法も変わる。
黄色矢印で示したのが、グリップの加工部分だ。単にネジの部分だけ穴を開ければ済むわけではなく、グリップの取り付けの際にネジの頭の通り道も造ってやらないとならないため、こんな形になった。

この改造はシアBに削り加工を行うことになるが、シア同士の噛み合い部分には一切手を加える必要がないため、亜鉛ダイキャスト特有の問題からくる心配は少ない。また、外部から容易にシアの噛み合い量を微調整することが可能であるため、ギリギリまで追い込んだセッティングが実現できる。

一番難しいのは、フレーム側面に開ける穴の位置だ。トリガーやシアが入り組んだ場所なので、非常に微妙な位置調整が必要になる。わずかに位置がズレただけで目的を果たせなくなってしまう。上の写真でも、ほんの僅かに(数値にしたら1mmにも満たないほど)下に開けてしまったため、トリガーにネジが干渉してしまった。トリガー側を僅かに削ることで対処したが……。

以上の改造により、APS-3のトリガープルは劇的に良くなった。競技用の実銃と比べても遜色がないほどである。さらに各スプリングも交換すればもっと軽いトリガープルも実現できるだろう(私はスプリングの強さはノーマルのままで行くつもりだ。ある程度の抵抗があったほうがプルの感触が良いので)。

実銃のエアピストルでは、トリガープルには500g以上というルールがある。試合前にトリガープルを計測して基準値以上だった銃が、競技中にトリガープルが軽くなっていたことが判明した場合、それが故意であってもそうでなくても、即失格となり撃った成績は全て無効になってしまう。それだけ厳しいということは、逆に言えばプルを軽くすれば計り知れない大きなアドバンテージになる、ということの証拠だ。

理想を言えば、やはりシアの材質は亜鉛ダイキャストではなくスチール製であったほうが安心だ。だが現在、APS-3用のカスタムパーツとしてはPDIからシアA(当サイトでのローカルな呼び名)がリリースされているのみで、シアBは出ていない。予定もないようだ。シアAは鉄製になってもそれほど恩恵があるような部品ではない。なぜこちらのみが発売されたのだろうか? 昔の、エアコッキング式ボルトアクションライフルなどでハイレートのスプリングを入れてパワーアップをしていた時代などは、似たような位置にあった部品を真っ先にスチールに替えるのがお約束だった。そうしないとスプリングのパワーに耐えられないからだ。だがAPS-3は、ストライカーのスプリングを強くしようがパワーは変わらない。発射時の振動を抑えるという意味では、ギリギリまで弱くしたいくらいだ。PDIのカスタムパーツの企画方針は相変わらずハイパワーボルトアクションライフル時代のままなのだろうか? それとも……単にシアBよりシアAのほうが形状が簡単で作るのが楽だったから、だろうか?……そっちのほうがありそうな理由だ。

なんだかんだやってるうちに、本戦はもう明後日となってしまった。みなさん、ベストを尽くしましょう。

池上ヒロシ

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