APS-3・トリガーのカスタム(3)~実践編~

セカンダリレバーを外すとトリガープルは軽くなるが、トリガーのキレが格段に悪くなってしまう。そのキレの悪さは競技にはまったく不向きといっていいレベルだ。なぜそんなことになるのかというと、シアBとシアAのかみ合いが非常に深いから、というのがその理由だ。


なんとかこのかみ合いを浅くしたい。すぐに思いつくのは、シアBを加工することでかみ合いを浅くすることだ。方法としては、かみ合う部分を削る方法と、パテなどを盛る方法の2つが思いつく。

パテを盛る方法は真っ先に試してみたが、意外に強い力がかかる部分らしく、そんじょそこらのパテだといっぺんで削れて取れてしまった。ならば削るしかないか……となるのだが、ここでどうしても躊躇してしまう。シアが削り加工にはあまり向いていない材料で出来ているからだ。


そもそもかみ合いを深くしないとならないのも、このシアの材質が大きな理由になっているのだろう。APS-3のトリガーを構成する部品はコスト的なものか法律的なものか理由は定かではないが、亜鉛ダイキャストで作られている。ダイキャスト(ダイカスト)とは、金型に金属材料を溶かして圧力をかけて流し込むことで同じ形状の部品を大量生産する技術。生産数が多い場合は最もコストがかからず、それなりに精度が高い部品が作れて、後から削ったり磨いたりなどの仕上げをせずともそこそこ良質な表面が得られるなど数多い利点があるが、鉄や鋼を使うことが出来ないという大きなハンデがある。部品同士が、非常に狭い範囲で強く押し付けられ合う場合、変形や摩耗を起こさない限界点は亜鉛よりも鉄・鋼の方が遙かに大きい。できれば鉄・鋼を使いたい部品ではあるのだが……。参考:日本ダイカスト協会

余談だが、KSCのGP100/AP200はその点は手を抜いていなくて、おそらくは削り出しで作られたと思われる鉄製のシアをノーマルで備えている。シアのかみ合う量の微調整までユーザーが行うことが出来る機能が付いているのも、シアの材質に自信があるからだと思われる。
(8月3日補足……シア表面の風合いを見る限りでは、削り出しではなく焼結金属を使っていると思われる。MIMと呼ばれるこの製法は鉄・鋼が使用できるという大きな利点がありダイキャストよりも堅い部品を作れるが、表面と内部で材料特性が異なるという問題は残っているらしい。参考:日本粉末冶金工業会

ダイキャストの欠点として、内部品質の安定に欠けるということがある。溶けた金属を温度が低い型に流し入れるため、温度変化が表面と内部とで異なり、材料的特性が変わってしまうことがあるわけだ。この点では大きな金属のカタマリから削り出す機械加工法や、大まかな形からハンマーで何度も叩いて目的の形に整える鍛造法には流石に勝てない。

内部の品質なんか別にどうでもいいじゃないか……? ノーマルで使う分には確かにその通りだ。しかし、かみ合いを浅くしたくて削ったりすると話が変わってくる。強い面圧がかかる部分で、これまでは材料特性の良いダイキャスト表面が擦れ合っていたからなんとか保っていたところが、削ったことにより弱い部分が剥き出しになっってしまい、一気に削れたり変形してしまったり……。そういう危険性が一気に増してしまう。エアガンのトリガーを良くしようとシアを削ったところ、最初は良くてもすぐにシアがかからなくなったりフルオートになってしまったり……という例は多い。心当たりのある人も多いだろう。ダイキャストを使っている以上、それは避けられないことらしい。

だから、なんとか削る以外の方法でかみ合いを浅くする方法を考え出す必要がある。その方法については次回……。

次回更新は明日、木曜日の予定。

池上ヒロシ

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