著者:松本ひで吉
講談社コミックスなかよし
アニメ化が発表された「さばげぶっ!」というマンガがあります。名前のとおり、サバゲを題材にした作品です。連載誌はあの「なかよし」。いわずもがな、少女マンガ雑誌です。それも正統派の。
アニメについて詳しいことが発表されるのは、明日から東京ビッグサイトにて開催される「ANIMEJAPAN2014」になりますが、先行して現在5巻まで発売されているコミックを購入して読んでみたところ、これがまた予想以上に面白かった! 現時点での情報ではアニメ化に関わるスタッフもこれまで良作続きの期待が持てそうな布陣です。これはヒット作になる予感がします。
そんなわけで、一足速くどころか勇み足に近い形ではありますが、「さばげぶっ!」をイチオシしていく所存をここで発表する次第です。
著者:松本ひで吉
講談社コミックスなかよし
「ガールズ&パンツァー」のヒットで戦車趣味の世界が盛り上がり、「艦これ」のヒットで艦船趣味の世界が盛り上がっています。ならば銃火器の世界も!と願いたいところですが、こちらは残念ながら長らくヒットに恵まれてません。女の子達が撃ち合いをするアニメ……というだけならいくつかあるんですが、エアガン業界を巻き込むヒット作とはなってくれてないのが現状です。昨年、サバイバルゲームを題材にした「ステラ女学院高等科c3部」というアニメが始まることになった際にはエアガン業界挙げてプッシュしましたが、アニメ自体の人気が思ったより上がらず結果としては空振りに近い状態になってしまったのは記憶に新しいところです。
「エアガンでの撃ち合い」を題材にしたアニメなんて、所詮は無理なんじゃないか? 「さばげぶっ!」もどうせ同じような結果になってしまうのではないか? と危惧する空気が流れても仕方がないかもしれません。ですが原作コミックを読むとその不安は吹き飛びます。とにかく面白い!
主人公は、基本スタンスが「一般人」であり、なおかつツッコミキャラです。まあ、サバイバルゲームなんてやってる人間ってだいたいが変わり者ですからその行動が突っ込みどころ満載なのは当然といえば当然な話だったりするわけですが、「それが当たり前の世界」の中にどっぷり浸かってしまうと突っ込む人間がいなくなってしまい、画面内で繰り広げられるやりとりが「訳の分からない異常な世界において、意味のわからない異常なやりとりを、登場人物が平然と日常として行っている」という、わかっている人ならともかくその世界にあまり興味も知識もない一般の方々ではとてもついていけない状態となってしまいます。
そんな状態でも、その異常な世界観に視聴者を問答無用で引きずり込めるだけの描写力があれば作品としてはヒットします。女子高生が戦車を使って撃ち合いをするのが「武道」として受け入れられている世界を舞台にした「ガールズ&パンツァー」は成功した例といえるでしょう。ですが、「わかってる人だけついてこい」とばかりにその努力を放棄した作品ではなかなかヒットは難しいようです。登場する女性キャラがみんな「人として描かれている銃」だったりする「うぽって!!」なんかは、残念ながら成功したとは言いづらい作品ですね。
「さばげぶっ!」の主人公は、エアガンも実銃も見分けが付かない、それどころかそんなものを趣味として愛好するなんて感覚自体が理解できない、そういう「普通の人」です。そんな主人公が強引にサバゲの世界に引きずり込まれていくというのが「さばげぶっ!」の基本的な展開ですが、この主人公、周囲の状況に流されたり思い悩んだりはしません。それどころか、「いや、それおかしいだろ!」ってところに容赦なく全力でツッコミを入れていきます。そのおかげで、サバゲに詳しい人間でも、全く詳しくない人間でも、気兼ねなく大笑いできるやり取りが繰り広げられます。「詳しくなくても笑える」ってのはコメディとしては重要な要素でしょう。その点では「さばげぶっ!」は確実に成功しています。
著者:松本ひで吉
講談社コミックスなかよし
「さばげぶっ!」は、間違ってもスポーツものじゃありません。そもそも実際にサバゲをやってるシーンは、それほど多くありません。といっても、毎回なにかしらサバゲやエアガンに関連した要素は盛り込まれることが多いようです。……全く関係ない回もちらほらありますが。
一貫して、サバゲもエアガンも、エアガン趣味についても、「楽しいもの」として描かれます。勝っても負けても楽しくて笑える、というかそれ以前に、勝ち負けに執着するエピソードが最初っから殆ど無いんですね。サバゲ描写は豪快で、誇張しすぎどころか場合によってはあからさまに「大げさな嘘八百」が混じってたりします。
でも、それでいいんです。よく知られたスポーツを題材にするのなら、苦しいところとか嫌な部分とかをリアルに描写するというのもアリだとは思います――例えば「巨人の星」が血と汗と涙のど根性マンガとして成立していたのも、野球がすでに日本で広く知られたスポーツだったからです。それとは違い「キャプテン翼」が実際の競技とはまるでかけ離れたほとんどファンタジー同然の展開満載だったのは、サッカーが当時はあまり良く知られていないスポーツだったからです。「リアルさ」より「楽しさ・面白さ」を優先したのでしょう。現実離れした必殺技の数々、当然のことですがサッカーをわかってるひとからは総ツッコミですが、それを含めてあの作品の面白さになってるわけです。
「さばげぶっ!」のサバゲ描写は、まったく「リアル」ではありません。作者自身、それほどサバゲをやりこんでるわけではないってこともあるのでしょうが、それ以上に面白さを優先し、リアルな描写は二の次にするという明確なスタンスが伺えます。そりゃそうでしょう。サバゲのことをほとんど知らないであろう一般の読者に対して、勝敗のかかった大事なシーンでついゾンビをしてしまって後から苦悩する主人公なんか描いても、誰も喜びません。主人公は天才的な才能を発揮して初心者ながらベテランをなぎ倒してしまっても全然OK。ルールがどうとかツッコミ入れるのも馬鹿らしくなるくらいの超兵器を敵味方双方が持ち出してきても全然OK。「そんなヤツはいねえ!」ってくらいの常識はずれなキャラクターが登場するのも全然OK。
荒唐無稽であっても、面白いと思えれば勝ちってわけですね。
著者:松本ひで吉
講談社コミックスなかよし
女子高生を主人公にしてサバゲの話を書くとなると、エアガン業界の人間だと一番気になってくるのが「青少年育成条例はどうするんだ?」ってところでしょう。ほとんどの都道府県で導入されている、エアガンを18才未満に売ったり見せたり触らせたり使わせたりすることを罰則付きで禁じる条例です。いわゆるえげつないポルノだとか、不良が振り回している折りたたみ式のナイフだとかと同じように、エアガンも「子供に触らせるだけで、健全な成長を妨げてしまう有害なもの」であると一方的に決めつけて規制しているものです。
まあ、そういう条例を作らないとならない事情ってのがあることも理解できます。子供ってのは、決まりを守らない生き物です。人がいる所でエアガンを撃つな、人に向けてエアガンを撃つな、撃ち合いをするときはそれ専用の場所でやれ、ちゃんとゴーグルをつけろ。こういった当たり前のことを守らない、知らなくて守らないだけじゃなく知ってても「あえてルールを破る俺カッケー」とばかりにワザと守らない。目を離すとすぐにそういうことをやり始めるのが子供って生き物です。
地域のコミュニティがちゃんと機能していれば、例えば道端でエアガンの撃ち合いをしている子供がいても、「なにやっとんじゃコラ!」と怒鳴りつけてゲンコツの1個も食らわせて説教するオヤジの1人や2人はいるかもしれません。でも今の世の中、そんなことしたら訴えられて傷害だの暴行だのでとんでもないことになるのは叱った大人の方です。すべての遊びが子供だけの世界で完結してしまって「知らない大人」の出る幕なんかない状況では、ルールをまもる自浄努力なんてものは全く期待できません。そんなところに、一歩間違えば大怪我する可能性だってあるエアガンを「勝手に使え」と与えるなんてのは危険きわまりない。ならば全面的に禁止してしまうしかない……。
そんなわけで、子どもたち――18歳未満という年齢による枠組みがあるので実質的には高校生まで――は、エアガンを見ることも触ることも許されないというのが今の世の中です。こんな世の中で、「サバイバルゲームをする女子高生」を主人公にお話なんか作れるのだろうか、というのは誰もが心配するところでしょう。いちおう、パワーを下げることで18才未満でも購入したり撃ったりしてもいいエアガン、いわゆる「10才以上用」のエアガンというものも製造販売はされていますが、機種も限られますし、なにより当の子どもたちからは「パワーのショボいガキむけのオモチャ」というような目で見られてしまい、はっきり言うと不人気なのが現状です。
「さばげぶっ!」でも、主人公達が使用するエアガンは基本的に10才以上用のものというタテマエになっています。10才以上用だとか18才以上用だとか、そんなめんどくさい枠組みなんか最初っからなかったコトにして、当たり前のようにみんなが10才以上用「しか」使っていない、そんな話にするのかと、最初は思っていたのですが……。
なんと、真正面からストレートにその問題にぶつかっていくエピソードがいきなり1巻にあります。ちょっとしたことで勝負を行なうことになった相手が18才以上用のエアガンを手にしている、高校生なのにそれは違反だ、だからお前ら失格だと。普通なら、「ああ、高校生は18才以上用のエアガンを使っちゃダメなのね、ルールは守りましょう」というような結論で終わりそうなものですが、「さばげぶっ!」の凄いところはそこからのどんでん返しです。主人公をサバゲの世界に引きずり込んだ部長である先輩が、実は堂々と18才以上用を使用しているのです。なぜ彼女だけはソレが許されるのか?
アリなのか、それアリなのか!? エアガン業界をここ何年も悩ませ続けている大問題を、こうまであっけなく笑い飛ばしてしまってもいいのか!? マンガだからなんでもあり。そう、マンガだからなんでもありなんです。ヘタに、現実だとこういう決まりになっているんだから描写はこうじゃなきゃダメだとか、現実的にそんなのありえないからこういう展開はダメだとか、そういう口出しをする人がいたらこの作品は成り立ちません。ファンタジーOK、現実ばなれ上等、それで面白くなるんだったら大歓迎ということです。
著者:松本ひで吉
講談社コミックスなかよし
マニアックなものをマニアックなまま、素人さんお断り同然の状態で作品にして、それはそれで十分に面白くなる例というのも、世の中には存在します。よほどその分野に詳しければともかく、大多数の視聴者には全く理解できない細かいネタが次から次へと登場し、分かれば分かったで面白い、分かれなければ調べて理解して面白い、そのつもりがなければわからないままなんとなく面白い。
そういうのが受けたからといって、ならば初心者お断りでむつかしいネタを遠慮なしに満載にすれば受けるのかというと、決してそんな単純な話じゃないってことは誰でも分かることだと思います。一般人お断りの細かいネタ満載でもなおかつ面白い作品を作るには、作り手自身がちょっとした専門家以上にその分野に詳しいマニアの集まりである必要と、一般人の視点で見ても面白い作品に仕立て上げる絶妙なバランス感覚が必要とされます。
一般にはあまり知られていない分野を題材にした作品を作ろうとするなら、難しい部分をわかりやすくすること、いわゆる「敷居を下げる」のがまっとうで王道な方法です。しかし、その「下げ方」が中途半端だと、マニアにも一般人にも受けない、単なるつまらない作品にしかなりません。下げるなら、おもいっきり下げないとダメです。
「あまり銃とかに詳しくない普通の人に、わかりやすく説明する」ってのは、私にとってはまさに本業に等しい仕事でして、一年間のほとんどの日数をそれに費やしているといっても過言ではありません。だからこそ自信を持って言えるのですが、「さばげぶっ!」における「敷居の下げ方」は、私がいままで一般人向けだと思っていたものが、マニア向けのわかりづらい説明にしか見えなくなるくらいの見事なものです。
例えば。
「サバイバルゲームに使うエアガンには、どんな種類がありますか?」という王道の質問があります。どんなふうに答えますか?
「弾を発射するのに何のパワーを使うかによって、電動ガンとガスガンとエアコッキングの3種類があって……」みたいな説明でしょうか。それとも、「大きさや使用用途によって、ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフルがあります」みたいな説明でしょうか。
「さばげぶっ!」では、割りきってます。こんな感じです。
目からウロコといいますか、やられたっと頭を抱えたといいますか。「一般の方向けに、簡単に説明する」ってのは、このくらいじゃなきゃダメなのかもしれません。
現時点(3月21日)では、まだ監督とシリーズ構成のタッグ、それと制作会社が発表になっているだけです。放映時期やキャストなど詳しいことは、明日からビッグサイトで開催されるANIMEJAPAN2014にて発表されます。
監督は太田雅彦、シリーズ構成はあおしまたかし。この組み合わせは既に「ゆるゆり(第1期:2011年/第2期:2012年放送)」、「恋愛ラボ(2013年放送)」という作品で知られているタッグです。私はこの両方ともアニメ化決定前から原作コミックを読んでいて、「面白いけれど、アニメ化されるなんてことは十中八九無いだろうなあ」と思っていたところがまさかのアニメ化、しかもアニメになってみればけっこう面白くて意表をつかれたという、「良い印象」のある作品です。
両方とも、たいして大きなドラマがある作品ではありません。「恋愛ラボ」については思春期の女の子たちのバカみたいな大騒ぎが題材ですし、「ゆるゆり」にいたっては大騒ぎになることすら滅多になく、なんてことない気の抜けたような日常がダラダラと描かれていくだけという、言葉では実に評価に困る作風のマンガです。
そんな作品を、アニメスタッフは妙にドラマチックな内容を新規に盛り込むようなことはせず、くだらなくて面白い部分は、くだらないままより面白く映像作品に仕立てあげてしまいました。市場での評価も決して悪くないようで、BDやDVDの売上枚数も中堅どころといっていい実績を残しているようです。「ゆるゆり」は2期まで作られ、さらにOVAの制作も決定しているそうです。「恋愛ラボ」も原作のストックがありますから2期はあるんじゃないでしょうか。
制作会社がそれら二作(動画工房)とは異なり、「studioぴえろ+」になるとのことで、全く同じ雰囲気になるとは限らないわけですが……。「さばげぶっ!」も、とりたてて大きなドラマがあるわけでもなく、くだらない日常のやりとりが基本スタンスとなっている作風です。「ゆるゆり」「恋愛ラボ」と同じ感じで、という仕事のやり方で十分に面白いものが出来上がるはずという安心感があります。
つい先日、アニメ公式サイトがOPENしました。キービジュアルは、お菓子や風船やクッションに囲まれて女子高生たちがお茶しているという、実に少女漫画チックでメルヘンなもの。銃は部長さんが手に持っているハンドガンくらいしかありません。煽り文句も「楽しく!可愛く!ガールズコメディ!!」と、サバイバルゲームもエアガンも微塵も登場しません。よく見ないと「エアガンが登場するアニメ」だということすらわからないレベルです。……実は手前にあるケーキに大量の小さなアサルトライフルがぶっ刺さってたりするわけですが。
現時点では「2014年、TVアニメ放送スタート」ということ以外には放送局も放送開始時期も時間帯も発表されていないわけですが、ここまでやるからにはおそらく夏あたりにはスタートするのではないかと思われます。
このアニメはすげー面白くなる……たぶん。「あきゅらぼ」ではそう信じつつ、「さばげぶっ!」を勝手に応援していく所存です!