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勝浦宇宙通信所・一般公開日

勝浦に、衛星からデータを受信したり、衛星にコマンドを送信したりするためのJAXA(宇宙航空研究開発機構)の施設がある。パラボラアンテナが3つといくつかの研究棟からなる施設だ。普段は簡単なパネル展示やスイッチを押して模型を動かしたりする見学施設が公開されているだけなのだけれど、このたび4つめとなる大きなアンテナが完成したので、そのアンテナが特別に一般公開されるというニュースをネットで見つけた。これはぜひ見ておこうとクルマを飛ばして行ってきた。

以前、長野県にある臼田宇宙空間観測所を見に行った時のことを書いたことがある。あっちのアンテナは直径64m、こっちのアンテナは新しく出来た一番でっかいやつでも直径20mと、大きさだけでいったらはるかに小さい。けれど小さいから規模も小さいというわけではない。アンテナの目的そのものが違うのだ。

ここらへん、話がけっこうややこしくなってくる。日本の宇宙開発関連は、今でこそJAXAという組織に統合されているが、じつはけっこう最近(2003年)までISAS(宇宙科学研究所)、NAL(航空宇宙技術研究所)・NASDA(宇宙開発事業団)という3つの組織に分かれていた。この3つのうちで一番規模が大きいのはNASDAで、H1ロケットやH2ロケットといった大型のロケットを開発し、気象衛星や通信衛星などのいわゆる「実用衛星」を打ち上げ運用するという、いわば「カネになる宇宙開発」を担当。ISAS、通称「宇宙研」は、高性能だが小型の固体ロケットのみを開発、それを使って惑星探査やら工学実験機やらを打ち上げるという、いわば「ロマンはあるがすぐにカネにはならない宇宙開発」を担当しているという違いがある。統合したあとも予算の分捕りあいやらなんやらがあるわけで、「旧NASDAと旧宇宙研の連中は仲が悪い」なんて話も聞いたり聞かなかったり。

話が長くなったが、臼田の方はISAS、勝浦はNASDAの施設というのが一番の大きな違い。遥か彼方の惑星軌道まで飛ばして半分見失いかけた(それどころかガチで見失ったりした)衛星にコマンドを送って復旧させるなんていう離れ業を演じるには直径64mの巨大なパラボラアンテナが必要だけれど、地球のすぐ近くを飛び回っているいくつもの衛星に次々に複雑なコマンドを送り、詳細なデータを受信したりするには小回りの効く小型アンテナがいくつもあったほうが効率がいいということなのだと思われる。

展示室にある地形模型。山の中に研究棟とアンテナが林立している。まるでSFに出てくる秘密基地みたいだ。山の斜面の断面のところに、ご丁寧にも地層がきちんと再現してあるあたり、科学畑の人間の仕事だなあと感心するやら呆れるやら。
同じく展示室にあるロケットの模型。身長よりも高いくらいの大きな模型だ。基本的にH-1、H-2、H-2Bなど、NASDA開発のロケットだけが展示してある。開発が宇宙研のM-Vロケットについては、あることはあるのだけれどちっこい模型が端っこのほうに申し訳程度に展示してあるだけだったり、もうすぐ(今年の8月22日)打ち上げ予定ってことで見学者も興味しんしんのイプシロンロケットについては模型どころか写真すら影も形もなかったりと、けっこう露骨。

それにしてもこうしてH-2AとH-2Bを見比べると、かなり形が違うよね。これだけ違うなら、もうH3ロケットと呼んじゃってもいいんじゃないかと思うほど。実際のところ、もうすぐ完成するH3ロケットはH2よりも小型になってコストも大幅にカット、けれど打ち上げ能力はほとんど変わらないよ!ってのがウリになるらしい。

この衛星の模型、パネルにもタグにも「ALOS」としか書かれていないけれど、一般には「地球観測衛星・だいち」という名前で良く知られているんじゃないだろうか。片翼の太陽光パネルが実に特徴的でひと目みたらもう忘れられない形をしている。大きなセンサを3つも備え、地図作成の他に環境破壊の調査や資源探査、震災のときには災害状況の把握など多方面で活躍して大きな成果を挙げ、2011年5月に運用を終了した。

現在、二号機にあたるALOS-2(打ち上げに成功すれば「だいち2」という名前になるはず)が開発中で、もうすぐ打ち上げられる。このたび公開された第4送受信アンテナは、そのALOS-2の運用で活躍する予定とのことだ。

実際にボタンを操作して、衛星の模型にコマンドを送ってみよう……という展示物。これ、なかなか人を選ぶというか、対象年齢が高めというか……。

まず真ん中のボタンを押してパラボラで衛星を補足する。次にダイヤルを回して3ケタの数字を指定されたコマンドの数字に合わせ、最後にコマンド送信ボタンを押すと、設定したコマンドの通りに衛星(の模型)が動くというもの。コマンドは065(スピンアップ)と、086(スラスタ右)と、028(スラスタ左)の3つが用意されているので、小さい数字のダイヤルをその数字に合わせてコマンド送信ボタンを押す必要がある(数字が合っていると、衛星が回ったり右や左に動いたりする)。この説明、読んで理解してその通りにダイヤルの数字を合わせて……ってところまでやってくれる見学者はどれだけいるんだろうか。私はやったけど。

第二展示室においてあった、様々な記録機械や計測機械の数々。80年代デザインというか、ちょっとレトロな感じの、物々しくてゴツい機械がズラッと並んでいると、もうなんか年甲斐もなくワクワクしてしまう。こりゃもう原体験みたいなものなのだろう。
建物の外に設置されたテントでは、若い職員の方が「パラボラアンテナのしくみ」を分かりやすく教える公開講座というかデモンストレーションみたいなものをやっていた。左は、パラボラアンテナの曲面が放物線を回転させたものになっていて、受けた電波を一点に集中する仕組みになっているということを、パラボラアンテナの上からボールを落とすとどこから落としても同じ場所に当たるということで説明しているもの。右は、衛星放送を市販のアンテナと、中華鍋を使った自作のアンテナで受信してみせているものだ。
さて、いよいよ今回の本命、第4送受信アンテナの見学だ。

普段の一般公開では、ここらへんまでしか近づけないのだが、今日だけは特別にすぐそばまで近づいてOKで、さらに写真もいくらでも撮りまくってOKとのこと。「勝浦宇宙通信所」でネット検索して出てくるブログの中には、アンテナの写真を撮っていたら怖い顔した警備員が駆け寄ってきて、「ダメだ! すぐに今撮った写真を消せ」ってかなり強い口調で怒られた、なんてことが書いてあったりする。時期的に隣国と一触即発だったからかも……と書かれていたが、それを言うなら今だってそれなりなもんだし、基準が分からん。

上に書いたようにこの第4アンテナはALOS-2の運用をメインで担当する予定とのこと。ALOS-2はALOS-1(だいち)をより高性能にしたもの。「だいち」のレーダーセンサー「PALSAR」の分解能は10m程度が限界だったのが、ALOS-2のレーダー合成センサー「PALSAR-2」は1~3mの分解能を目指すとのことだ。具体的にいうと「車両や船舶の判別が可能」になるわけで、まあ神経質になるところが出てきてもある意味当然なのかなという気もする。

これまで勝浦にあった3つのアンテナは比較的小型だったのでギヤで直接動かしていたが、直径20mにもなるとさすがにそれじゃ無理になるので、円形のレールを敷いてその上に載せて回す形になる。このレール、ミリタリー系に馴染みが深い人間だとつい「ターレット」と呼んでしまいそうになるんだけれど、実際のところそう呼んでも普通に通じる。一般的な呼称だったらしい。
このアンテナ、ちょっと変わった形をしている。いったん大きなパラボラで電波を集めた後、焦点のところにある小さなパラボラでさらにそれを中心部分にある受信機に集約するというものなのだそうだ。

脇のほうについてる小さいアンテナは補助的に使用して照準をつけるためのもの。周りに付いてるトゲトゲは避雷針だ。
ほかにも3つ、大小のアンテナが山の中に林立している。新緑と真っ白なアンテナの対比がなかなかにシュールである。

いろいろとおみやげになるものを貰ってきたので、そのうちのいくつかは明日のピンポイントシューティングの賞品として出します。お役立ちグッズもありますのでお楽しみに。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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