今回は、エア射場は電子標的を使用した。都の大会としては初になるのかな? これまでは、なんか横にカバーがかけられた機材があるなあとか思いつつ、今までどおりの標的交換器を使っての大会だった。なにか事情があるんだろう。競技者としては、いちいち標的交換しなくてもいい上に、1発撃つたびに手前に引き寄せなくても(普及大会は2発撃ちこみ)着弾や点数が手元で分かる電子標的のほうが、ずっと楽なのは確かだ。
せっかくなので写真を何枚か撮ってきたので掲載する。まずは全体像(上写真)から。正面にあるターゲットのうち、射座番号の真下にある斜め下を向いた金属板が、これまで使ってた標的交換器用のバックプレート。紐が手前に延びていて射座にある標的交換器とつながっているが、今回は使用しないので紐はたるんでいる。バックプレートの左にある、中央に黒い丸が付いている白い箱が電子標的だ。黒い丸は穴になっていて、その後ろに真っ黒な紙リボンがある。リボンは1発撃つたびに少しずつ下に移動し、標的の下に吐き捨てられる。一番左に見えているのがディスプレイ、その右にあるのがプリンターだ。
この写真はまだ1発も撃ってない状態の時のものなので、ディスプレイには着弾表示はひとつもないし、プリンターからも何も出てきていない。1発撃つたびにディスプレイに着弾場所の表示が積み重ねられていき、点数も表示され、プリンターからは点数がプリントされたロールシート(レジのレシートみたいなやつ)がジーコ、ジーコと少しずつ吐き出されてくる。
ボタンは大きくて重い。けっこう力をいれて押し込んではじめて「カ…チッ」と音を立てて反応する。
左写真の一番上が、倍率を最小にして標的全体を写したもの。0点エリアまで表示されている。実際には黒丸の外を撃つことなんてまずありえないし、このモードで表示する必要というのはあまりないんじゃないかと思う。上から2つ目(真ん中)が、4点エリアくらいまで表示したもの。普及大会くらいだと、このモードで撃ってる人が一番多いんじゃないかと思う。そして一番下が最大倍率だ。大会で勝ち負けするレベルだと「8点を撃ってしまったら頭を抱える」という感じになるので、この大きさが一番しっくりくる……といっても私の場合、ここしばらく頭を抱えっぱなしになる状況だったりするのだけれど。
標的の右上が、斜めに黒く切欠きが入るような表示になっているが、これは「試射中なので、今撃った結果は試合のスコアとしては記録されない」という意味。試射が終わって本射に入るときには、コードの先にある「MATCH」ボタンをカチッと押し込むと、この黒三角が消えて本射記録モードに切り替わる。なお、「ZOOM」ボタンによる表示倍率切り替えは本射に入ってからも行うことはできる。
個々の射座にある電子標的のシステムはオンラインでデータを集約することもできる。今回は使われなかったが射場の片隅に巨大な液晶ディスプレイがあり、「現在の点数」をリアルタイムで表示することもできるはずだ。団体戦や、国同士の対抗戦になったりすれば、それこそ射手が1発撃つたびに観客席で歓声やどよめきが起こるような、そんな大会になるかもしれない。「電子標的」の導入が、円滑でスピーディーな競技進行のためという目的の他に、「見ていてエキサイトできる、面白い射撃スポーツ」の実現であるということが良く分かる。
先日、レスリングが五輪種目から外されるというニュースが大きな話題になった。古代オリンピックの時代から行われてきた、それこそ世界最古のスポーツといっていいレスリングが、「視聴率が取れない」という理由でオリンピックから除外されるというのだ。射撃スポーツは日本でこそ法律的な問題から極めてマイナーではあるが世界的に見れば歴史が長く競技人口も多いスポーツで、そう簡単にオリンピックから除外されるなんて話になるとは思えない。しかし、おそらくレスリングの関係者だって、「まさかレスリングが外されるなんて…」と同じように思っていただろう。
射撃の関係者も、オリンピックで生き残るためにそれなりに危機感を持ってさまざまな取り組みをしているようだ。「どれだけ静止できるか」を競うスポーツである射撃に、「ダイナミックな動きがあって見ていて面白いと思える要素」を組み込むという、どう考えてもムチャな要求に応えようといろいろと知恵を絞る、その試行錯誤の様子は半ば滑稽であり、半ば悲壮感を漂わせている。この電子標的もそうだし、2013年の大規模なルール改訂もそうだ。「これまで使ってきた用具、まるっきり買い直しだよ……」と多くの競技者を嘆かせることになったルール改訂だけれど、これもまた生き残りのために必要なことなんだと言われたら、協力するしかないんだろうな…という気持ちにならざるをえない。