「みんな、手をかけすぎる。ブドウの栽培なんてものは、そもそも簡単なものなんだ。自分のところは基本的にほったらかしだ」
「今年のシラーは面白いぞ。発酵時に30度くらいに温度を上げてみたら、粗雑な感じになった。動物の革みたいなにおいがする」
「この桃の100%ジュースは、千疋屋で売ってる。不二家のネクターなんてどうってことない」
基本スタンスは、「収量をムリして上げようとしなくてもいい。ブドウなんてもんは基本的にほったらかしにしておけば勝手になるんだからそれでいい。みんな、難しく考えすぎなんだ」というようなものだと考えると間違いないようです。だから、本来は日本の気候には合わないということで他のワイナリーだと避ける傾向にある品種をどんどん試しています。
……なぜ、収量の上がらない品種をあえて作付するのですか? 反対はないんですか?
「作りたいワインがあれば作りたい。お願いすればやってくれるものだ」
「同じシラーでも2010年は上品。例えるなら、才能のある人が技術を磨いて一流選手になったような感じ。今年は下品。圧倒的な天賦の才を持った人が選手になって大暴れしている感じだ」
……という話題が出た後に、2010のシラーを奥から出してきてくれました。早速開けて皆で飲んでみたのですが、社長曰く、「これじゃダメ。タンニンと糖が分かれている。あと少し熟成させればフラットになる」とのこと。
話題はさらに他のワインに移ります。「プチ・ヴェルドーの2009(2100円)があるが、これはさすがに試飲に出すと娘に怒られてしまう」
そう聞いては黙っていられません。
……じゃあ俺、1000円出します。
と発言して1000円札を机の上に置いた所、次々に賛同者が現れます。
「なら私は500円」
「俺も500円」
「よし、じゃあ自分は奮発して600円出しましょう!」
……えっと、500円余りましたが、お釣りとしてもらってもいいでしょうか?
「「「いいよー。」」」
てな具合で、みんなでお金を出し合って買ったワインを早速開けて飲んでみます。おお、これはまた、濃い!
プチ・ヴェルドーはタンニンがやたらと強く、どっしりとした味わいのある品種です。タンニンが足りない品種で作ったワインに少し混ぜることで味を補う目的で使われることが多く、これ単体で使われることはあまりない……という風にいわゆる教科書みたいな本には書いてあるのですが、勝沼のあちこちのワイナリーを飲み歩いていると、丸藤葡萄酒やマルサン葡萄酒などで「プチ・ヴェルドー単体のワイン」というのを飲んだ経験があり、それほど珍しい存在というわけでもありません。日本の気候には適しているんじゃないか、という話を聞いた記憶もあります。
なんだかんだやってるうちに妙な連帯感みたいなものが生まれてきます。社長も(表情が変わらないんでわかりづらいんですが)気をよくしてくれたのかどうだか、10月25日に仕込んだばかりでまだ全然発酵していない、ワインになりかけ以前の状態のカベルネ・ソーヴィニヨンを1杯だけごちそうしてくれました。少し飲んだだけではただのブドウジュースなのですが、余韻の凄く遠くの方にカベルネ・ソーヴィニヨンな雰囲気を感じます。面白いですね!
スズラン酒造
http://www.suzuran-w.co.jp/
所在地:〒405-0059 山梨県 笛吹市 一宮町上矢作 866
TEL:0553-47-0221
大きな地図で見る
あとで知ったのですが、甲府ではいくつかの店が集まって「ワインストリート」とか名付けて夜通しでイベントをやっていたそうです。真夜中12:00にもまだやっていたかどうかわかりませんが、行くだけ行ってみればよかったとちょっと後悔です。