待ちに待たされたマルゼンのAPS-3がようやく発売された。これは法律上は、特別な許可なく所持し使用することが出来る「玩具銃」のカテゴリーに入る製品であるにも関わらず、本格的な片手射撃競技スポーツに使えるものとなっている。
そのAPSカップは、長い間マルゼンのグランドマスターという製品のワンメイクに近い様相を呈していた。他に競技ピストルとして作られた製品が無いというのが最大の理由だ。5~10mの距離で片手で持って撃って正確に的に当てるという用途において、グランドマスターは玩具銃としては抜群に高い性能を持っており、他の選択肢は無いのが現実だった。とはいえ、グランドマスターが精密射撃用の競技ピストルとして文句の無い出来だったかというとそんなことはない。グリップもトリガーもバランスも、実銃(空気銃)のエアピストルと比べてしまえば不満だらけだった。
最大の不満点は、スプリング式だということだ。圧縮した空気を一瞬で吐き出させたエネルギーを使って弾を発射する(現在の)一般的な競技用エアピストルと異なり、玩具銃という制約のもとで作られたグランドマスターは縮めたスプリングを開放するエネルギーを間接的に使って弾を発射する。トリガーを引いた後、スプリングが伸びる力によってシリンダー内のピストンが空気を圧縮し、その圧縮した空気の力を発射に使うという2段階を経るわけで、トリガーを引いてから弾が発射されるまでに一瞬だけ「タメ」が出来るという欠点と、もう一つは発射の直前にピストンが勢いよく前進し始める時に発生する振動が銃全体を震わせ、命中精度に悪影響を及ぼすという問題があった。
あらかじめ空気を圧縮しておいて、トリガーを引くことで弁を開けてその空気の力を一瞬で解放する方法は、空気銃(実銃)の世界では「ポンプ式」と呼ばれている。一昔前までの競技用空気銃の主流といって良い方法だ。この方式を玩具銃の世界でも採用できないものだろうか……。と考えるだけならずっと昔から考えた人はいるだろうが、実際には作るメーカーは無かった。ポンプ式はスプリング式に比べ、発射するのに要した力が同じ場合は弾速が低くなる(威力が弱くなる)傾向がある。同じ威力を出すためには力が余計に要るということだ。良く売れる製品は威力の高い製品、という事実があった玩具銃の世界で、「威力が弱くなる」というデメリットは多少命中精度がアップした程度では覆せないものだったろう。
もう一つのポンプ式の問題は、違法改造に対する対策だったと思われる。1回のポンプ作業において必要なパワーが得られるように設計したとする。それでは、その状態で2回目のポンプ作業をしたらどうなるか? 3回目を行ったら……? 無限に、とはいかないが相当高いレベルにまで容易に高威力の弾を発射できることなってしまう。狩猟用の空気銃(実銃)の場合は、このマルチポンプにより、小型で高威力を出せることをセールスポイントとしている製品もあるほどだ。しかし玩具銃ではそういうわけにはいかない。マルチポンプが不可能か、もしくは可能なように改造することが極めて困難な構造にする必要がある。