先日の赤羽PPSでは、いつも使われていた青いストックのものとは別に、スコープを乗せた銀色ストックの銃を使用されていたので、PPSが終わってからAPS記録会が始まるまでの開いた時間を使っていろいろお話を聞きながら撮影させてもらいました。ですので、今回は久々に「PPS参加者のカスタムガン拝見」をお送りします。
APSカップのライフル部門に使えるのは事実上APS-2か、APS-2 Type96のどちらかに限られるというのが現状ですが、その両方ともストック形状は軍用ライフルをベースにしているため、競技射撃的な撃ち方をするのには、正直あまり向いてません。グリップの角度は寝過ぎているし、左手で銃を支える場所(フォアエンド)は前過ぎるし、バットプレートの位置は高すぎます。基本、伏射でしか撃たない軍用ないし狩猟用ライフルならそれでもいいのですが、立射で10m先を狙い撃つというAPSカップ(に限らず、ライフルによる本格的な競技射撃)で使おうとするといろいろと不具合、というかポジションが合わないところが出てくるのですね。
ほとんどの人はノーマル形状のまま姿勢とか構え方を工夫してなんとかしようとします。そうでなく銃の方に手を入れてなんとかしようとする人でも、多くはもともとのストックを削ったり盛ったりしてポジションを合わせようと頑張ります。さらにごく一部の(たいていは実銃での競技射撃の経験がある人)だと、ノーマルのストックは捨ててしまって、実銃用のストックを流用したり他のエアガンのストックの一部を使ったりアングル材を駆使して自作したりして、細かい調整が可能なストックを作ろうとします。タケダさんのようにアングル材を使ってストックを自作する、ということ自体は精密射撃(特にAPSカップに参加してる人たち)の間では、少数派ではありますがそれほど珍しい事例というわけではありません。
ただ、ここまでキレイに仕上げられてる人というのは、正直他に例を知りません。実銃用のストック(何十万円もします)を流用してその上にエアガンを乗せるのならともかく、アングル材などを使った自作ストックというのは「ポジションさえ合えば見た目なんか気にしない」とばかりに、切った貼った盛ったの繰り返しで、悪い言い方をすると「見るもおぞましい」見た目になっちゃってる銃のほうが多いくらいです。パッと見には実銃ストック流用じゃないかと思えるくらいの仕上がりで、話を聞いてみると実はほとんどがホームセンターで売ってる素材で自作したもの、なんてのは相当の腕と経験がないと作れないんじゃないかと思います。
それでは各部分の細かいところを見ていきましょう。
まずはバットプレートです。精密射撃競技で銃を構える時、もっとも「強く」人の身体に直接触れる場所の一つになります。それだけ重要な箇所ということですね。エアガンのライフルのバットプレートは、「強い反動のある大口径ライフルで、衝撃を緩和するため」のデザインを真似したものになっているものが多いので精密射撃競技にはあまり向いておらず、競技射撃に使おうとする場合に「実銃用のパーツ」に交換することを真っ先に考えたくなる部分です。APSカップでも、ストックはAPS-2のものをそのまま使っていても、バットプレートだけは実銃の競技射撃用のものに交換しているひとはけっこう多いですね。
タケダさんライフルでも、バットプレートとその台座の部分は実銃(アンシュッツ製)のものに交換してあります。上下位置をスライドさせて微調整できるタイプのものです。ただ、台座の取り付け部分は汎用のアングル材を流用しているようです。下部から前方に向かって突き出しているカウンターウエイトに見える物体、これは実はウエイトとしての役割はほとんど持っていないとのこと。取り付けている理由や役割があるということで話を聞いたはずなのですが思い出せません……。
実銃用のパーツが流用されているのは、ほぼこの「バットプレートだけ」といっても過言ではなく、これ以外のほとんどは身の回りにある日用品から流用したものだそうです。チークピースやバットプレートの固定に使っているネジと、それを手で直接回せるようにしているダイヤルなんかも、色合いといい大きさといい競技銃から取っ払ってきたのかとおもいきや、100円ショップだかで売ってる棚や飾り台のようなものから外して持ってきたものなんだそうです。
ストックにしろチークピースにしろ、表面がシボシボになったいかにも銃のストックっぽい仕上げになっているのですが、ベースになっている のはアルミのアングル材から切り出したものなど、身の回りで普通に手に入るものの組み合わせです。塗装はアサヒペンの「ストーン調スプレー」によるものだとか。これは実はエアガンの 塗装用としてはかなりポピュラーなものらしく、Googleで画像検索すると塗装後の銃の写真がズラッと並んでいたりします。
このカスタムガンで一番のアイデア部分は、ストックが前後に分割できる構造になっていることでしょう。エアガン用のサイトのマウントで「QDマウント」みたいな名前で販売されているものがあります。ダットサイトなどのマウントで、レバーを90度動かすだけで簡単に着脱ができるヤツですね。ストック部分の固定にはそれを流用してあります。
バレルドアクションが付いている方にそのQDマウント、グリップやバットストックが付いている方には20mmレールを固定し、位置を合わせてQDマウント のレバーを動かすだけで簡単にストックを前後に分割できます。最初はガタが出てしまったりとかいろいろと苦労されたそうですが、改良の結果、現在の仕様で はレバーを倒す(締め込む)と全くガタなくガッチリと結合されるようになったとのこと。
前後が分割できるので、持ち運びのときは長くて大きなライフルケースを持ち歩く必要がなくなるという大きな利点があります。自動車じゃなく、自転車やバイクや電車で射撃場まで移動する人にとってはこれはありがたいことです。
前後のストックを結合させてレバーを締めると、完全に一体となって「これが前後に分割できる」なんてことは言われないと分からないようになります。グリップの上部から前方に向けて伸びているトリガーガードが、フォアエンドレイサー(立射時に左手で支える部分)の後端とぴったりと位置が合っているあたり、相当に位置合わせなどには苦労したんじゃないかと思いますが、そんな様子は微塵も見えません。
グリップは、赤羽フロンティアのジャンク市みたいなやつで、電動ガン用として格安で販売されていたものを流用し、アルミアングル材で作られたストックにネジ留めしてあるものだとのことです。
バレルやピストン&シリンダー、トリガー&シアといったBB弾を撃つためのメカニズム部分は、APS-2のもの。内部にもカスタムはされているのでしょうけれど、今回はそちらの方は全く話を聞きませんでした。
アクションとバレルの結合部分には、有名なドイツ車メーカーのシールが貼ってあります。タケダさん自身の愛車がこのメーカー製のものだから、というのが理由だとのこと。銃器趣味を持ってる人ってドイツ車好きだったりそのオーナーだったりする率が高かったりするんでしょうか?
ストックの前端の側面には、長円形に切りだされた黒いシールが貼ってあります。これは、ホンモノの競技銃の雰囲気を再現したもの。実際にこういった長円形の穴を開けるとなるといろいろと作業が大変なので、黒いシールで見た目の感じだけ再現したのだとのことです。全体写真を見ると、意外にこんなシールだけでも、あるとないとでは全然「競技銃っぽさ」が違うのがわかりますね。
このライフルはフリークラス仕様(スコープが載っているもの)になっているので必要はないパーツになっていますが、オープンサイト仕様にするときに必要なのがフロントサイトをどうやって取り付けるかということです。多くのAPSライフルシューター(オープンサイト部門に参加する人)が使っているのが左写真のパーツです。オリジナルのAPS-2のアウターバレルにかぶせるだけで、競技銃用のサイトを簡単に載せられるようになるという、まるで専用パーツのようなこの筒、実はその正体は屋根に乗っけるアンテナ取り付け部品の一部なのだとか。
あまりにもAPS-2におあつらえむきなパーツなので、一部のホームセンターではこのパーツだけが売り切れ品切れになり次期入荷未定になったりしているのだそうです。
バイポッド本体となる針金部分とその先のゴム製のガードは、ハンガーみたいな日用品から流用したもの。取り付け基部になる黒い金属製部品は、「何かのエアガンのマウントベースから切り出したもの」なのだそうです。アンシュッツのロゴが入っていますが、もちろんアンシュッツ製ではなくシールが貼ってあるだけです。
いかがでしたでしょうか。タケダさんライフルのすごいところは、必要とされる機能を創意工夫で実現しているというところだけでなく、デザイン的にちゃんとまとまっていて「美しい」ライフルに仕上がっているというところです。こういうカスタムガンって雑誌記事で紹介すると営業さんが嫌がることが多いので、あまり誌面などで見ることはないかもしれません(カスタムパーツを使っていない=カスタムパーツを作ってるメーカーが喜ばない=広告主が機嫌を損ねる、という理由で)。
出来合いの「○○用」として売られてるエアガン用パーツを、その「○○」に説明書どおりに組み付けることが「カスタム」だと思われてる昨今、本当の 意味でのカスタム、知恵と工夫でパーツを創りあげて必要とされる性能のエアガンを作り上げるということがどういうことなのかを、タケダさんライフルを見ると本当に思い知らされます。