Categories: 実銃射撃

ロンドン・オリンピック射撃全日程終了

正確には近代五種のコンバインド(3000m走とピストル射撃の複合競技)が残ってるけれど、「Shooting」に分類される競技は先日の男子トラップで全日程が終了した。ライフル射撃(止まった的を撃つ射撃)では前々から書いてるとおり、10mピストルと50mピストルに出場する松田知幸選手が世界大会で何度も優勝しておりメダル候補と期待していたのだけれど、結果だけ見れば「両方で予選落ち」という残念な形になってしまった。

報道だと「予選落ち」としか書かれない。全く箸にも棒にもかからず大差をつけられての予選落ち、ほんのちょっとの差、優勝の可能性すらあるくらいのわずかな差でファイナル出場ラインにかからなかった予選落ち、その両方をほとんど区別せずに「予選落ち」としか書かれない。たった8人のファイナル枠を目指して熾烈な争いが繰り広げられる予選の様子は、映像はおろか口頭で伝えられることすら滅多にない。

今回のロンドン・オリンピックにおいて、10mピストルのファイナル出場ラインは583点だった。ファイナル出場ができなかった9位以降は、582点が3人、581点が2人いる。松田選手はその中にいる。あと2点があればファイナル出場枠を争うシュートオフ、3点があればファイナル出場という、ほんのわずかな差だった。トップ通過は588点、7点差は難しくても4点差だったらファイナルで逆転だって夢じゃなかった。

2点足りなかったのはなぜか。複雑な事情はわからないのでスコアだけを見て書くが、序盤となる第2シリーズで94点を撃ってしまったから…ということになる。予選通過は97点平均にすこしプラス、優勝を目指すには98点平均目標という状況で94点は辛い…98点平均に戻すには100点満射を2回続けないとならない。「この先、全部10点を撃ち続けなきゃ敗ける」という状況で、第3シリーズ以降は97・97・97・98と十分に高レベルといっていい点数をキープした。最終シリーズの最後は10点を連発していた。文字通り「あきらめたらそこで試合終了だよ」精神で、最後の最後まであきらめなかった…が、届かなかった。これが10mピストルの「予選落ち」の中身だ。

50mピストルはもっと凄い。「予選通過を確実とするには94平均が必要」という状態で、それには5点足りない559で他の選手よりかなり早めに本射終了した。10mに続いて50mでも予選落ちかと思われたその時、高い平均点で撃ち続けていた他国の選手が最終シリーズに入って突如崩れた。1~5シリーズと比べて極端に低い点数で第6シリーズを終える選手が続出、終わってみれば同率8位に559点で6人もの選手が並ぶという驚きの結果になった。

オリンピックのルールでは、「メダルの色」「ファイナルの出場」といった重要な順位を決めるときには、X差でもなく最終シリーズ得点差でもなく、5発勝負のシュートオフを行うことになっている。ファイナルと同じように75秒の制限時間で1発ずつ0.1点差で採点されるターゲットを撃つ。1人2人程度ならともかく、6人もシュートオフに並ぶなんてことはめったに起こることではない。

そのシュートオフで、松田選手はわずか0.6点差でファイナル出場を逃すことになった。たった0.6点である。シュートオフで5発撃ったそのうち1発だけでも(特に2発目の8.1)ちょっとだけ内側に入っていたら。いやそれ以前に、予選で60発撃ったそのうち1発だけでも内側の得点にカスっていれば。タラレバを言いたくなる場所がこれでもかというくらいに山ほど見つかる。ほんとうに「あとちょっと」の差での11位、これが報道では「予選落ち」の一言で済まされてしまう50mピストル予選の中身である。

どんなに嘆いても結果は変わらない。撃ってしまった弾はどれだけ嘆いても薬室に戻ってくることはないのが射撃だ。けれど、報道ではたった一言のアナウンスと一行のテロップで済まされてしまう「予選落ち」のその実体が、ギリギリのところで1点を争う熾烈な戦いだったということは忘れずに覚えておきたい。これはきっと射撃以外の他の競技でも同じなんじゃないかな。

NHKでは今回、TVで放送しない種目の多くをネット上でライブストリーミング配信していた。射撃についても、予選も本戦も配信予定に入っていた。だが当日になってなぜか予選は配信予定から突然消えてしまった。理由はわからない。カメラが入らないことになって映像配信がそもそも不可能になったのか? 需要がないと判断して打ち切ったのだろうか?

射撃競技の「ファイナル」は、開始から終了まで長い時間がかかり順位がわかりづらい射撃競技をなんとかTV放送向きになるように考えだされた制度だ。見ていて面白さが少しでも伝わるようにいろいろな工夫がされている。けれど、それでも射撃の本質はファイナルではなくて「予選」にあると思う。射座の中にある、自分とターゲットと銃と弾だけの世界で、たった一人で1発、そしてその次の1発、自分ができる最高の射をし続ける、最後の最後まであきらめずに撃ち続ける、その様子を伝えてくれなかったNHKには少し恨み言を言いたい。特に50mピストルの最後、たった一つのファイナル出場枠を6人で争うなんていう超ドラマチックな展開を完全スルーすることになってしまったのは大チョンボと言っていいんじゃないだろうか。

池上ヒロシ

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