上に書いた内容からうっすらと窺い知られてしまうかとは思うが、正直なところを書くと、被災地ってどんな感じなのかな見てみたいという「物見遊山」な感情が全く無かったと言うと嘘になる。3.11からもうすぐ1年が過ぎようとしている。ニュースを見ても、どこそこが営業再開したとか、イベントが開催されたとか、復興が進んでいる様子を伝えるものが数多い。とはいえ完全に元通りではないってことはさすがに分かる。少しくらいは災害の痕跡みたいなものも残っているだろうし、そういったものの写真でも撮らせてもらおう…みたいなことを考えていた。
甘かった。少しくらいなんて騒ぎじゃなかった。「昨日、大地震がありました」と言われても不思議じゃない風景がそこに広がっていた。街の中心街には、ショッピングモールが営業していたりと完全に「いつもどおり」な雰囲気ではあるのだけれど、少しでもそこから離れると、広がっているのは3.11直後にニュースで見た風景そのまま。ありえない位置にある看板がありえないひしゃげ方をしている。穴だらけになった壁、高いフェンスの上に引っかかったままになっている小型のボート。ガレキを撤去して、そのままになった泥だらけの土地が続く。たまに綺麗な姿のまま建っている家があるかと思うと、近づいてみればその一階は柱しか残っていない、なんてことは珍しくない。
だから今回は、被災地の写真は一つもない。とてもじゃないけれど、写真を撮ろうなんて気持ちにはなれなかった。怖かったからだ。大勢の人が死んだ場所を撮るのが怖いとか、そんな理由じゃない。もっと直接的な理由だ。その場で作業をしている人たち、近くを車などで通りかかる人たち、その人達の横で、のんきにその風景の写真なんか撮っていたら、どんなふうに思われるのか。ぶん殴られても仕方ないんじゃないか、そのくらい神経を刺激することになるんじゃないか。そういった怖さがあった。実際はそんなことはないのかもしれない。けれど、こっちがそう思ってしまう。そのくらいの壮絶さがあった。問答無用で、全くの情けも容赦もなく、一切合切があっという間に無茶苦茶にされてしまった。ジャーナリスト的な精神がある人だったら、感情を横に置いて冷徹にカメラを向けシャッターを押すことができるのだろう。だが僕はダメだった。いろんな感情に圧し潰されてしまって、ただ口を閉じて黙ってその場所を通り過ぎることしかできなかった。
これは、本当に大きなことである。何かが、ほんのちょっとだけでも間違っていたら、それこそ今年のロンドン・オリンピックには一人も日本から射撃選手が出場できない、なんてことにだってなりかねなかった、そんな状況だったはずだ。
閉会式にて聞いたことだが、宮城県ライフル射撃場では今回の震災を経験として、非常用の燃料、食料、水などを射撃場に備蓄しておくように準備を進めているとのことだ。「山の上にある、頑丈な建物」として地域の役にたたなければならないという使命感が感じられた。
もちろん、明るいのと暗いのとだったら明るいほうがいいのは当たり前のことだけれど、前日練習ではあまりのターゲットの明るさに、フロントサイトが白く霞んで見えてしまって閉口した。アイリスシャッターの絞り具合を調節したり、当日は少し早めに来て射座の明るさに目を慣らしたりしたのが功を奏したのか、本番中はクリアにサイトが見えるようになったが。
試合の結果は、それほど良いものではなかった。あまりに射場の環境が良すぎたせいで…いや、これは言い訳になるな…トリガーが怖くて引けない。サイトがぴったり合って、普通だったらそこでちゃんとトリガーが引けてるはずなのに、人差し指がビビってしまって引けない。1発撃つのに4~5回は構え直ししてるような状態だった。それでも最初はなかなか良い点数が連続していたのだけれど、1試合で5試合分くらいは銃を構えてるようなもんだから集中力も体力も底をついてくる。最後の1シリーズはもう無茶苦茶だった。ただでさえ長距離を運転した翌日、しかも当日は朝から雪が降ってる中の運転なんていう神経を使う作業をした後で試合をしてるわけで、途中までもっただけでも、今考えてみたら奇跡みたいなもんだったのかもしれない。
※言い訳に言い訳を重ねるようなもんだけれど、泊まったホテルでは午前4:00にいきなり警報が鳴り響いて叩き起こされたりもした。結局は警報装置の誤作動ってことだったんだけれど、その放送(誤作動でしたって放送)があるまで数十分、服を来ていつでも避難できるように待機してたわけで…。
今回の収穫。全日本選手権が開催される宮城県ライフル射撃場での試合経験がまず一つ。そしてもう一つは、「良い点数が出そうになると、トリガーが怖くて引けなくなる」という症状が自分にも現れるってことが確認できたことだ。そういう症状があるってこと自体は、文献を読むと書いてあるので知っていたけれど、「ああ、これがそうなのかー」ってのが心底実感できたのは今回が初めてかもしれない。対処法については、これもちゃんと文献に載ってるので、しばらくはそれを試しながら練習を重ねていくしかないだろう。