Categories: 実銃射撃

オリンピック直前企画・25mピストルのルール

2024パリオリンピックが開催中です。今回は、日本からはライフルに2人、ラピッドファイアピストルに1人の合計3人が出場。エアピストルや25mピストル女子は参加なし(出場権獲得できず)ということで、いまいち盛り上げどころがつかめないでいたのですが、思いもよらぬところでピストル射撃が大人気となりました。

「選手のビジュアルが格好いい」という理由で、一般の方々を巻き込む大ブームが巻き起こったのです。

まず人気となったのが韓国の女性ピストルシューターであるキム・イェジ。アゼルバイジャン・バクーで開催されたワールドカップの25mピストル競技において優勝したときの映像を、フォロワーが多いアメリカ在住のジャーナリストさんがTwitter(現X)に投稿したところ、突然の大バズりを見せました。現時点で表示数3660万件以上、「いいね」の数も47万件以上というとんでもないバズりかたです。

見た目がクールだ、射撃専用メガネが格好いい、まるでドラマの主人公のようだ――と、いろんなコメントがついています。当たったとか外れたとかで一喜一憂したりしないとか、アイリスシャッターやブラインダーが取り付けられた独特のメガネの形とか、ピストル射手にとっては極めて日常的で当たり前の見慣れたものなのですが、普段あまり射撃と縁が無い皆さんにとっては新鮮で魅力的に映ったようです。

続いていろんなピストル射手の動画や写真がツイートされ、そのどれもが実に個性的だったり格好良かったりしたこともあって、8月頭のSNSは世界各国ピストルシューターの大博覧会となっています。射撃スポーツ、それもピストル射撃がこんなに盛り上がることなんて、ここ数年ありませんでしたし、もしかしたらこのあと数年は起こらないんじゃないかと思います。乗るしかないこのビッグウェーブに。

このブームのきっかけとなったキム・イェジ、10mピストル個人では銀メダルを獲得しています。しかし動画で撃ってる25mピストルでは予選落ちとなってしまいファイナル出場はなりませんでした。速射ステージ(下の方で説明します)で、3秒の制限時間に撃てなかったのが1発ありそれが0点となってしまったとのこと。残念。とはいえピストル射手は、特に今回の女子ピストル選手はみんな個性的です。中にはそのまま映画の主役になれそうなくらいの美人さんまでいます。これを機会に射手の名前を覚えて、できればこの後も活躍をフォローして応援しつづけてあげてくれると嬉しいです。

さてこの25mピストル、射撃競技の中でも特にルールが複雑な種目です。なんといっても同じ「25mピストル」という種目の中で、途中で制限時間が変わる上にターゲットの大きさや形まで変わるという、超が付くレベルで変則的な種目なのです。ファイナル直前ではありますが、ここで女子25mピストルのルールを簡単にまとめてみたいと思います。

使う銃は5連発のセミオート

他のライフル&ピストル射撃種目と大きく違うのが、「連発銃を使う」というところです。10mピストル・ライフル、50mライフル、全て単発の銃(一発しか弾を装填できない銃)を使いますが25mピストルだけは違います。箱型弾倉(ボックスマガジン)に5発の弾を入れたものを銃に差し込んで撃ち、全弾を撃ち尽くしたら弾倉を取り出して再装填します。

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女子25mピストルでは、5発を連続してバンバンバンバンバンと撃つということはないのですが、他の競技と違って1発撃つたびに弾を込めたりせず、「構えて撃って、銃をおろして、すぐにまた構えて撃つ」を繰り返すという、なかなか激しい動きのある種目になっています。セミオートなんで横に薬莢も飛び出します。

射撃の他の種目と同じく、まず予選が行われてから、上位8人が決勝(ファイナル)に進みます。予選は、「精密ステージ」と「速射ステージ」の2つに分かれています。

精密(Precision)ステージ

制限時間5分以内に5発、それを6回繰り返します。つまり撃つ弾数は30発です。ターゲットの10点圏は50mm(オリンピック種目から外れてしまった50mピストルのターゲットと同じ)です。

速射(Rapid)ステージ

ターゲットの上に赤と緑に点灯するランプがついていまして、赤のときはレディーポジション(銃を斜め下におろした姿勢)、緑になったら銃を上げて撃ってOKというルールになっています。「3秒緑ランプ、7秒赤ランプ」というのが5回繰り返して1ステージ、それを6回行います(合計30発)。ターゲットの10点圏の大きさは100mmと、精密射よりも大きくなります。左右(3時と9時)に白いラインが描かれてるのが特徴です。

ファイナル

ファイナルになると、またルールが変わります。ここまでは他のライフル&ピストル射撃種目と同じく、「真ん中に当たると10点、そこから外れると9点・8点・7点……と得点が減っていく」という、いわゆるブルズアイターゲットでしたが、ファイナルでは「ヒット・オア・ミス・スコア」という、それとは全く異なる採点方式になります。簡単に言うと、「当たれば1点、外せば0点」になります。

ヒットゾーン(当たると得点になる範囲)は速射での10.2点の範囲。10点よりも難しくなります。

ファイナルの競技進行は、速射ステージと同じように行われます(3秒緑ランプ、7秒赤ランプを5回で1シリーズ)。まず8人全員で4シリーズ(20発)を撃ちます。その時点で最下位が脱落(8位決定)します。その後、1シリーズ(5発)を撃つたびに最下位が脱落していき、最後の1人(金メダル)が確定するまで続けるというものです。

「ヒット・オア・ミス・スコア」というのは、私自身は全く経験がないんですが世界大会なんかの映像を見てると、相当に恐ろしいシロモノのようです。ハマると「まるで簡単に撃ってるかのように」5発全部が緑マーク(命中)になったりすることもあるんですが、同じ人が突然、5発全部を赤マーク(外す)にしてしまったりします。そのため、かなり頻繁に順位の入れ替えがあったり、とんでもない大逆転がいともたやすく行われてしまったりします。

つまり、「ドラマチックで、見ごたえがある」展開になりやすいということです。おそらくはそうなることを目的に考え出されたルールなんじゃないかと思います。競技者にとってはたまったもんじゃないですが、視聴者にとってはその目論見に乗ってあげなければ、頑張ってる競技者の皆さんにも失礼というものです。

今回のオリンピック、TVerで全ての射撃競技が中継され、終了後にはNHKの見逃し配信で見ることができます。日本語の解説とかは付きませんが、ぜひ中継を見ながら応援してあげてください!

池上ヒロシ

View Comments

  • 今回のオリンピックで混合10m APの銀メダリスト「無課金おじさん」が話題になっていますね。

  • 混合10mピストルは、金メダルになったセルビアのダミル・ミケッツの方をずっとフォローして応援していたので(多分、私は日本で一番ダミル・ミケッツのことをネットに書いてるピストル撃ちだと思います)、まるで「重課金の当て馬」みたいな扱いされてる彼のことが不憫でなりません

    なので後ほど、ダミル・ミケッツのことをもっと評価してあげよう記事も書いてUPしたいと準備進めてます!

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池上ヒロシ

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