奇跡の帰還が日本中の感動を呼んだ「はやぶさ」。数えきれないほどの関連本、それどころかそれを題材にした映画もいくつ作られることになったのか把握しきれないほどだ。実際のところ、打ち上げ時に本当にサンプル持って帰って来れるなんて本気で信じてる人がどれほどいたことか。無理無茶無謀に輪をかけたようなプロジェクトだったのにも関わらず、これ以上ないほどの大成功を収めた。文句なしに、すごいとしかいいようがない。
そのはやぶさの話をするときに欠かせないのが、地球側ではやぶさから送られてくるデータを受信し、またはやぶさにデータを送る役目を果たした臼田宇宙空間観測所。直径64mの巨大なパラボラアンテナが自由自在に動き、「ここにいるはず」という方角へ向けて通信を行う。通信途絶したはやぶさから信号がいつか届くことを信じ、ただひたすらに待ち続ける日々は、おそらく映画でもクライマックスシーンの一つになっているはずだ。
その臼田宇宙空間観測所、調べてみたらたまたますごい近い場所にあることが分かったので、行ってきた。
親が持ってる別荘が蓼科は女神湖のすぐそばにある。地図で見ると臼田宇宙空間観測所まで直線距離で10kmかそこら。極めて近所といってもいい。ただ山を越えた向こう側なので、車で行こうとするといちど街まで降り、別の方角からもう一度山に登るような形になり、40kmを超える道のりになってしまうのだが。
「直径64m、総重量1980トン」というスペックだけは知っていても、やっぱり自分の目で見るのとではぜんぜん違う。とにかく巨大だ。まったくなんにもない林道みたいな道をくねくねと走り続けると、山の向こうに白くて丸い建造物がそびえ立っているのが少しずつ見えてくる。シュールな光景である。
臼田宇宙空間観測所、通称「うすださん」。ここははやぶさに限らず数多くの宇宙探査機や工学実証機との通信も担っている。最近だと、昨年の5月に金星に向けて打ち上げられた「あかつき」や「イカロス」との通信もうすださんの役割だ。あかつきは残念ながら金星の衛星軌道への投入に失敗してしまったが、イカロスは予定されていたミッションの全てを完璧にこなし、さらに追加ミッションの運用へと突入するというパーフェクト以上の成果を収めている。
ある程度は一般にも公開されているとはいえ、現役で宇宙探査の最前線にある施設ということもあってほとんどのエリアは立ち入り禁止だ。入り口横に立っているささやかな資料展示室と、パラボラアンテナの周囲少しだけが立ち入りを許されたエリアになる。といっても駐車場から延々と歩かされるというわけでもなく、けっこうすぐそばまで車で乗り付けることができる。うちの大学は菅平に宇宙電波観測所なんて施設を持ってたけれど(スキーに行く時の安い宿泊所として使ったことしかなかったが)、電波が出るので車で近くまで来るなってえらい厳しかったものだ。
お盆も終わった時期だったけれど、家族連れやお一人様を含めて十人ちょっとくらいの見学者がちらほら。展示室で見れる短い映画を見たりパネル展示を見たり、パラボラアンテナの写真を撮ったり周りの芝生でピクニックしたり。受付で住所氏名連絡先、乗ってきた車のナンバーを記入し見学者証を受け取りと、それなりの厳重さはあるものの立ち入り禁止エリアに入りさえしなければけっこうフリーダムな感じだ。
グリグリ動いているところは見れなかったが(もしかしたら、ゆっくりゆっくり動いていたのかもしれない)、巨大な建造物を自由自在に動かすためのメカニズムを目の当たりにするとやっぱり圧倒される。巨大なターレット(って呼び方でいいのか?)、その上の滑車、タラップに建物に排気口と、こういった「巨大建造物」系のマニアの人だったらもうたまらない魅力なんじゃなかろうか。
入口横の資料展示室には、いつもならこのパラボラアンテナのミニチュアモデルが置いてあってボタン操作でグリグリと動かせるらしい。「らしい」というのは、訪れた時期はすぐ近くにある「佐久市子ども未来館」ではやぶさカプセル(実物)の展示が行われており、そちらに出張していたからだ。もちろんそのカプセルも見てきたのだけれど、そっちは撮影厳禁だったので写真は無しだ。子供向けの屋内巨大ジャングルジムみたいな施設に野郎一人で行くのはちょっと勇気が必要だった。
H-IIAの打ち上げなんかも、一度は見に行きたいなーって思ってるんだけれどなかなか機会がない。はやぶさ2の打ち上げは順調にいけば3年後とのことだし、今度こそ見に行きたいな。