【蔵前工房舎】ステイヤータイプ・アドバンスドグリップ

エアピストル用のグリップをAPS-3に取り付けたいという要望はとても多く寄せられるものの一つです。APS-3にもともと付いてるグリップが特に悪いというわけではないのですが、例えば左利きだったりとか、手が大きかったり小さかったりだとか、純正のAPS-3グリップだと撃つのに不便を感じる人もいるわけで、そうなるとS/M/Lに右利き用・左利き用と豊富に選択肢があるエアピストル用グリップは魅力のある選択肢になるわけです。値段は中古でも2万円ちかくと決して安いものではないですが。

そういう要望に応えて「あきゅらぼ」ではAPS-3にステイヤーLP10やLP10Eのグリップを無加工で取り付けられるアダプターを販売しています。「グリップが手に入らないからAPS射撃ができない」なんていう悲しい思いをしている人の手助けになればと思って作り始めた製品ですが、グリップにもAPS-3にも一切の加工をしないでそのまま取付けOKにするために、取り付け位置には少し妥協があります。具体的にいうと、銃の位置が少し上がり、前方に移動してしまうのです。といってもトリガー位置を一番後ろまで下げれば少々手が小さいくらいの人までなら問題なく使える範囲ではあります。しかし妥協があることは確かです。

APS-3純正や、本来取り付けるべきエアピストルと同じくらいの位置に銃を持ってこようとすると、グリップか銃のどちらかに大きな加工をする必要があります。決してお安くはないエアピストル用グリップに、けっこうな手間をかけて加工をして、「APS-3に取付けられるエアピストル用グリップです!」って販売する……というのは、素材を揃えるのと手間賃を合計した値段のことを考えると、ちょっと購入するのに躊躇してしまう値段(少なくても3万円前後)をつけないと割に合いません。

そんなジレンマを3Dプリンターを使って解決した新製品が蔵前工房舎さんから発売されました。ステイヤー製のエアピストルの形状を再現した上で、取付部分はAPS-3に完全対応(※)した「アドバンスドグリップ」です。値段も3万円どころか、1万円を大きく下回るお求めやすい価格です。

しかも右用だけでなく左用も同じ値段! これは(亀有ピストル練習会でのレンタル銃用にも使えますから)確認してみなければ。色は黒/赤/青の3色。黒のみ滑り止め加工がされていてお値段がちょっと高めです。今回はレンタル銃用に左用(赤)と右用(青)の2つを購入しました。
※今回は購入しませんでしたがAPS-1用もあります。


手元にあったステイヤーLP10グリップ(左・サイズはM)との比較です。LP10グリップはAPS-3にローマウントするためにかなりの加工をしてありますが、握ったときに手に触る部分には手を入れていません。

こちらは右側面です。「ステイヤーグリップを完全再現!」と謳い文句にありましたが、こうやって並べてみると若干形状が異なる部分があるのがわかります。一つはAPS-3のアッパーカバー用スプリングを覆うために上部が前方により張り出していることですが、これは銃を握ったときに大きな影響がある部分ではありません。もう一つの大きな違いは、グリップの一番前方のトリガーガードに近いところ、握ったときに中指側面が当たる部分の形状や角度です。これはピストル射撃のグリップにおいては「手とグリップの接触箇所のうち、最も重要である」とされる部分です。

実際に握ってみましょう。ステイヤーLP10の実物グリップ(右)では、中指側面に当たる場所の傾斜は比較的なだらかになっているため(水色の線)、人差し指とグリップの突起部分に隙間ができています(赤矢印)。ですがアドバンスドグリップ(左)では急激に後ろ上方にせり上がる形になってしまっているため、人差し指の根本にグリップが接触しやすくなってしまっています。

実はこの部分、APS-3のグリップも同様の問題があります。左はAPS-3用の純正グリップです(左右反転しています)。ステイヤー用グリップを完全再現したはずのアドバンスドグリップは、この部分だけはAPS-3を再現しているということになります。

これはおそらく、APS-3のリアトリガーガードを収納するスペースをなんとかしてグリップ前方に確保しようとしたからなのではないかと思います。アドバンスドグリップ(右用)とステイヤーLP10用グリップ(左用)の側面同士をあわせてみるとそのことがわかります。グリップ前面(左)では、中指側面が当たる部分(緑色のライン)がアドバンスドグリップはステイヤーLP10に比べてより下方に垂れ下がった形になっています。その内部にはリアトリガーガードがギリギリの形で収納されることがわかります。

「出来上がったものに後から好き勝手にアレコレ文句をつける」のは誰でもできることなので非常に恐縮ではありますが、この部分については「ユーザーにはリアトリガーガードは外してもらうことを前提に、グリップ形状は実物ステイヤーLP10グリップにより近づけた形にする」ほうが良かったのではないかと思います。リアトリガーガードは精度には全く影響しないパーツです。両手撃ちをする際に左手を当てるのに使われることがある程度なので、取り外してしまったところであまり困ることはありません。一方で、前述のとおり中指側面とグリップの接触部分はピストル射撃のグリップにおいて最も重要な要素の一つでもあります。せっかく世界最高峰のグリップの一つであるステイヤーLP10用グリップの形状を再現しているのに、最も重要な箇所だけAPS-3グリップの問題点を継承してしまっているのは、ちょっともったいないなーと感じてしまいます。APS-3のこの部分(側面の出っ張りが人差し指根本に当たってしまいがちな問題)はAPS-3グリップの数少ない不満点の一つなのです……。

さて、続きを見ていきましょう。アドバンスドグリップは3Dプリンターで出力した物に表面処理をするなどした上で販売しているとのことです([10/25]ご指摘を受けまして訂正)。最近の3Dプリンターは性能が上がり、精度だけでなく強度も相当なものが確保されるようになっているとのことで、こうやって製品化されたからには十分な強度があることは確認済なのだと思います。ただ、さすがにファイバー入り樹脂なんていうほとんど反則技みたいなことしているマルゼン純正のAPS-3用グリップと同等の強度を実現するなんてのは無理なんじゃないかと思います。

そうでなくてもアドバンスドグリップのグリップ底部は、上写真を見るとわかるとおりAPS-3純正にくらべて凄く細くなっています。パームレストを取り付ける際には、この内側に入れたアダプター(ナット)にパームレスト外側からネジを通して挟み込んで締め付けるわけですが、それに十分に耐えうる厚さを確保した結果、アドバンスドグリップのグリップ底面に開いている「穴」の大きさは、APS-3純正グリップに比べるとものすごく小さいものになってしまっています。

なので、グリップをAPS-3に取り付ける際にはパームレストは外した状態にしなければならないという難点があります。APS-3純正だとパームレストをつけっぱなしでもドライバーが入ったのですが、アドバンスドグリップではほぼ不可能です。グリップの着脱のたびにパームレスト上下位置の調整をやり直さないとならない、ってのはちょっと手間がかかる部分になってしまいますが、これはまあ、しょうがありません。

ちなみにAPS-3本体とアドバンスドグリップとの接合は、かなりキツいです。純正グリップみたいにスーッと入っていくのではなく、位置を合わせて押し込んだ上で、プラハンマーとか使ってコンコンコンコンと叩いてしっかり奥まで押し込むくらいのことをする必要があります。緩めに取り付けておいて、グリップをネジで締め付ける際にそのネジの締め付け力でグリップを奥まで押し込もう、なんてこと考えるとグリップのネジ受け部分をダメにしちゃう可能性が高いので絶対にやめましょう。

[訂正]パームレストを取り付けるネジ、純正そのままだと短いなーとか書いてましたが、袋の中に長めのネジが入ってました。コレ使えば何の問題もなかったんですね

いろいろ書いては来ましたが、なんといってもかなりお求めやすい価格でAPS-3にステイヤーLP10用グリップほぼそのまんまのグリップを取り付けられるということと、何よりも左利き射手にとっては入手が極めて困難(というかほぼ無理)な状態になっていた左用グリップがいつでも手軽に安価に手に入るようになったというただそれだけでも、この製品には大きな価値があると思います。正直、値段がちょっと安すぎな気がしますので、後から「やっぱりこの値段じゃ無理だったので値上げします」ってなる可能性はそれなりにあるんじゃないかと。そうなる前に買っておきましょう!

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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