APS-1グランドマスターのトリガー&シアメカニズム


亀有ピストル練習会だけじゃなく、各地で開催中のAPS練習会・体験会、そして公式の記録会や本大会でも、使われているエアガン(ハンドガン部門)のほとんどはAPS-3になってきています。たまにKSC製品や、APS-1グランドマスターを使う人はいますが、すっかり少数派って印象になってしまっています。

APS-1グランドマスターの現行商品というと3年ほど前に発売になったMk2になると思いますが、これもずいぶんと長い間品切れで再生産待ちの状態のようです。APS-3より安価で、スコープやドットサイトなどの搭載もしやすい(ノーマルのままでもマガジン&サイトベースがマウントベースを兼ねているので無加工でそのまま取り付けできる)という利点を持っていて、特にAPS始めようとする人にとっては十分に選択肢に入る製品になっていると思うので、ぜひ再生産を期待したいところです。

APS-3が登場する以前のAPSカップは、このAPS-1グランドマスターによるほぼワンメイクマッチになっていた時期がありました。さらにその前のドミネーター/マークスマンの発展型として発売された(実際、共通部品も多かった)グランドマスターですが、ドミネーター/マークスマンのトリガーは1911系統を継承して前後にスライドする形だったのに対して、競技用ピストルとして一般的な軸を中心に回転するものに変更、それに伴いシアメカニズムも総取っ替えに近い形で変更になっています。逆にここまで改修するならハウジングを流用なんかしないほうが設計が楽だったんじゃないかと思うくらいです。

APS-1を使うしかなかった頃は、この銃を何度も分解したり組み立てたり、あちこち削ったり磨いたり、バネを替えたり抜いたり追加したりと、そりゃもういろんなことをやっていました。今になって、久々にグランドマスターを分解してみると、その複雑さと部品点数の多さと組み立てのやりにくさに驚きます。よくまあ昔はこんな面倒なエアガンをいじくり倒していたものだったと、若い頃の自分を褒めたくなってきますね。

グランドマスターの、ノーマル状態におけるAPS-3に対する優位性というと、トリガーの軽さがあります。APS-3はあえてトリガーを重くする機構が組み込まれており、亜鉛合金製のシアを使っている割には素晴らしくキレがよいトリガープルをノーマル状態で実現していますが、グランドマスター時代にはそういう考えはなかったようで、トリガープルは可能な限り軽くなるような構造となっていました。そのためプルの軽さは抜群なのですが、キレの良さという点では、APS-3と比べてしまうとちょっと残念なものになってしまっています。レストして撃ったりすると、キレの良さはあまり関係なくなりトリガープルの軽さと銃の重さによる優位性が勝るのでしょう、グルーピング自体はAPS-3よりも優れたものになることが多いようです。

APS-3に比べると、ちょっと複雑で分解組み立てや調整には職人芸的なものが要求されるところも多いAPS-1グランドマスター。分解手順の詳細解説もいずれやりたいのですが、まずはトリガー&シアメカニズムの詳細解説から行きたいと思います。


トリガー&シア周りと、ピストン&シリンダー周りだけを図示したものです。実際のグランドマスターはこれに3系統もあるセフティメカニズム、アウター&インナーバレルとチェンバー、そしてマウントベース兼マガジンなどが追加されますが、そこらへんは上図では省略しています。


作動アニメーションです。トリガーベースとシアCは軸は共通ですが連結はされておらず、指を離した状態からトリガーを引くと少しだけトリガーが動いてからシアCが動き出す形になっています。これをもって「1stステージ/2ndステージ」が再現されているのですが、ノーマル状態だとどうにも1stステージのストロークが短く、あるのかないのかがわからないくらいになってしまってるのはちょっと残念な点です。APS-3のような1stステージストロークを調整するような機構も付いていません。

シアCが動き出すとシアBとの噛合部分が少しずつズレていって、噛み合いが外れるとシアBが時計回りに回転、シアAが反時計回りに回転してピストンが開放され前進、BB弾が発射されます。ピストンを支えているシア(シアA)が、ピストンを開放するとき後ろ向きじゃなくて前向きに倒れることから、「前倒れ式シア」なんて呼ばれることもあります。同じマルゼン製のAPS-2も、あと確か東京マルイのVSR-10も同じような方式だったと思います。トリガーを引いたときに連動して擦れて動くのは、いっぱいまで後退したピストンが前進しようとする強い圧力を直接受け止める部分ではなく、その圧力をテコの原理で軽減させた部分になっている(摩擦力=摩擦係数×垂直効力)ため、スプリングの強さに比べてトリガープルがすごく軽くなるのが最大の特徴ですね。

ただ、イラストを見ていただければわかるとおり、シアBとシアCの噛み合いの長さ(緑パーツとオレンジパーツの噛み合い部分)がけっこう長いため、2ndステージも長くなる=キレはあまり良くないトリガーになってしまっているのがグランドマスターの難点です。亜鉛合金製のシアではこれ以上ギリギリの噛み合いにするのは暴発の危険を考えるとメーカーとしてはやりづらかったのでしょう。そのためAPS-3では十分な噛合量を確保しつつ、かつキレを良くするためにセカンダリシア(シアC)を追加するという新しいアイデアが投入されたのだと思います。

メーカーとしては厳しくてもユーザーとしてはギリギリでいいからより良いトリガープルを追い求めたい、という場合はシアCにちょっとした細工をすることで噛合量を減らし、キレを良くするというカスタムが行われていました。といっても噛合部分を削るわけじゃありません(それやるとすぐに摩耗してシアがかからなくなります)。シアCとシアBが接する部分(噛み合う部分じゃない面)にセロテープを重ねて貼ることで噛合量を減らし、キレを良くする方法が私の周りでは定番改造になっていました。

他にもトリガーを近づけるために(ノーマルでは一番近い設定にしても遠すぎる)アジャスターを削るのも定番改造でしたね。グリップセフティを無効化するのはお約束でした。そしていらなくなったグリップセフティのスプリングをトリガースプリングと交換することでトリガープルを軽くするなんていう裏技もあったりします。

次の休み(時間が開いた時)には、分解手順を撮影するのと一緒に、そういったことをまとめてやり方を紹介していきたいですね。いつになるかわかりませんが……お楽しみに!

池上ヒロシ

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