バイデン米大統領、銃規制への行動を呼びかけ コロラド州の銃撃事件受け
https://www.cnn.co.jp/usa/35168275.html
「銃社会アメリカが、ついに銃の規制に乗り出す!」
みたいな文脈で引用されてるのをちらほら見るこのニュースですが、読んでみると内容は「またいつものアレか」としか言いようがないものです。悲惨な乱射事件が起こった後に、大統領としてはなにか言わないとならないってことで、それはそれは真摯で感動的な演説をしてみせるというものです。オバマ大統領もコネティカット州での小学校における銃乱射事件が起きた後に似たようなことやってましたが、結局のところそれほど大きな変化はありませんでしたね。
アメリカにおける銃規制法の中でも最も大掛かりだったものの一つが、1994年に制定された「攻撃的武器規制法(Assault Weapons Ban : AWB)」があります。10年の時限立法で、10年後にあたる2004年に改めて効果があったかどうかを検証し、続行するか失効するかを決めることになっていました。そして2004年、この規制による大きな犯罪抑制効果は認められないとして失効になっています(※)。
今回、バイデン大統領が成立を目指すという「アサルト銃器や大容量の弾倉の禁止(冒頭の記事内にある表現をそのまま引用)」をする規制法というのは、要はこのAWBを復活させようという話でしかありません。
一度「効果はなかった」として失効してしまった法律をそのまま復活させてもしょうがないってことは、誰だってわかるはずです。以前効果がなかった規制法が、今回に限り劇的な効果を発揮するなんてことを期待してしまう人がもしいるとしたら、そいつはただのバカです。であるならば、今回バイデンが復活させようとしているAWB(新AWB)は、1994年に成立して2004年に失効したAWB(旧AWB)を大幅に改良したものになっているに違いありません。
どこらへんが変わっているのでしょうか? 法律なので内容はそれなりに長くてややこしいですが要点を抜粋して見てみましょう。
旧AWB(長物に関するものだけ抜粋)
いくつかの製品名を指定して所持を禁止する
(例:AKシリーズ、UZI、ガリル、AR-15、FAL、FNC、TEC-9などの軍用ライフルやサブマシンガン)
着脱式マガジンを備えていて、かつ、以下の特徴の2つ以上に当てはまるものは禁止
・折りたたみもしくは伸縮できるストック
・ピストルグリップ(独立銃把)
・バヨネットラグ(着剣装置)
・フラッシュサプレッサーあるいはそれを取り付けられるようねじ切りされたバレル
・グレネードランチャーあるいはそれを付けられる装置
新AWB(同じく長物に関するものだけ)
205種類の軍用銃を名前で指定して販売を禁止
着脱式マガジンを備えていて、かつ、以下の特徴の1つ以上に当てはまるものは禁止
・ピストルグリップ
・フォワードグリップ
・バレルシュラウド(軍用SMGによくあるバレルジャケットのことらしい)
・先端にネジが切られたバレル
・折りたたみもしくは伸縮できるストック
10発以上の装弾数を持つマガジンやその他の弾薬供給装置は禁止(既に所持しているものはOK)
あらゆる銃の贈与・販売・取引にはバックグラウンドチェックが必要
既に所持している攻撃的武器はトリガーロックなどの安全装置を使うことで引き続き所持OK
大容量マガジンの譲渡禁止
バンプファイアストックなどのセミオート銃をフルオートっぽく撃てる製品を禁止
ラスベガス乱射事件後に大きな批判を受けたバンプファイアストックの禁止などの目新しい部分もありますが、根本的なところで大きく変化している部分といえば、名指しで禁止される銃の数が10倍以上に増えてることと、「以下の2つに当てはまるものは禁止」が「以下の1つにでも当てはまってたら禁止」になってる点でしょうか。
前回はあまり効果がなかったAWBと比べて、「これだけ手直しをしたんだから今回は大丈夫! ばつぐんのこうかがあるに決まってます!」と自信を持てるほどに大きな違いと言えるのかどうか? 正直いうとあんまり変わってないし同じような結果になるだけなんじゃないかなーとしか思えないんですが……。
旧AWBが成立した1994年は民主党政権(クリントン)で、それが失効した2004年は共和党政権(ブッシュ)です。民主党はAWBを始めとして銃規制を推し進めることに熱心だが、共和党は銃規制にはそれほど熱心ではないという、結局のところただそれだけの話のように見えます。今回、新AWBを成立させようとしているのも、もちろん民主党政権(バイデン)ですから。
犯罪抑制効果は認められないとして失効になった旧AWBですが、「いやそんなことはない、大きな効果があったにも関わらず銃規制反対派が強引に効果がなかったことにして失効させたんだ」みたいな主張をしてる人たちもいます。ここらへん突き詰めていくと、統計をどういうふうに分析して判断するのかという多分に学術的な領域に足を踏み入れることになります。
とりあえずあまりアヤシゲではない範囲で引用できるところというと、WikipediaにおけるAWBの項目(Federal Assault Weapons Ban)に「Effects(効果)」という項目があり、いろいろと書いてあります。「大きな影響はなかった」とか「殺人率への影響は見られませんでした」とか「AWBが命を救ったとする説得力のある証拠はない」なんていう調査結果もあれば、「期限満了による失効後に暴力の増加が見られており影響はかなり大きい」とか、「規制により銃犯罪率の割合が17~72%減少した」といった調査結果もあったりします。
またその中間というかどちらにも与しない意見として、「信頼できる測定をするには影響は小さすぎる」とか「影響を明確にするには時期尚早である」とか「AWBは、規制が銃暴力にどういう影響をもたらすのかを明らかにはしなかった」みたいな、つまりは「よくわからん」以上のことは言えないとするものもあります。Wikiなんで両方とも、もちろん出典付きです。
アメリカは銃規制をするべきだとかそうでないとか、そういうことを「俺の意見」として言うのは自由ではあるのですが、せめて上記のような内容は最低限の知識としてひととおり抑えておいて、その上で主張したほうが説得力のあるものになる(もっとはっきりいえば、「あー何も知らんやつが思い込みだけで吠えてるわー」と思われないで済む)のではないかと思います。