射撃競技というものが、「狙いをつけて、引き金を引くという技術の優劣を競う」ものだとしたら、ターゲットまでの距離が長いか短いかは何の関係もありません。短距離では実力を発揮できない、もっと長距離での射撃でのみ真価を発揮できる……なんてファンタジーなことは残念ながらありえず、短距離で当たらない人は長距離でも当たらないのです。ということは、長距離での射撃競技なんてもの自体が本当は無意味なものなんじゃないか……って恐ろしい考えも出てきてしまいます。
ISSFのライフル&ピストル競技には、大きくわけて空気銃を使う10m射撃と、装薬銃を使う25/50m射撃があります。50mを撃つにあたって10mには存在しなかった何らかの特別な技術が必要になるかどうかというと、実際のところほとんどありません。もちろん、弾の選別だとか銃のメンテナンスの重要性だとか、風や天候の変化への対応といった要素があるにはあるのですが、ぶっちゃければ「ほとんど同じようなもの」と書いてしまっても、そんなに大嘘ってわけじゃない程度には同じです。
けど、やっぱり、長距離を撃ちたいというのは偽らぬ気持ちとして存在します。「遠く離れた場所にあるターゲットに、正確に弾を当てる」という、ただそれだけのことに妙に面白さと楽しさを感じてしまうのが射撃者という生き物の習性みたいなものですから、10m射撃より50m射撃のほうが「さらに面白い」と思ってしまうのも、これまた理屈を超えたところにある、なにかそういったものなのです。
そんな50mピストル競技ですが、今年の2020東京からオリンピックの正式種目ではなくなってしまいました。「近代オリンピックが始まってからずっと続いている伝統ある競技なのだから、なんとか復活を!」という要望を出し続けている人たちもいまして、何回か後には復活するかもしれないという可能性もゼロではないのですが、限りなくゼロに近いのは確かです。むしろ逆に、50mライフルや25mピストルを含めた装薬銃での競技がまとめて廃止になっちゃう可能性のほうが高いくらいです。
実際、オリンピックにおいて使用できる装薬銃の種類や範囲は最初のころに比べれば随分と制限されたものになっています。昔はピストル競技でも.32口径や.38口径、.44口径といった軍用にも使われるハイパワーな弾が使える競技がありましたし、ライフル競技でも300mといった長距離を撃つ大口径の競技があったそうですが、今は全て.22LRに統一されています。弾の威力が小さければ射場の建設費用とか、観客の耳の保護にかける手間だとか、いろんなものが節約できます。競技運営側としてはいい事ずくめです。この流れが逆戻りするということは、まず無いでしょう。
「ハイパワーな弾で50mピストル競技を撃ってみたい」なんていう、時代の流れに逆らったことを言う人はいるのでしょうか? もちろん、います。だってそれが射撃人の習性みたいなものだからです。日本だといろいろシバリがあって実現が難しいですが、アメリカなど選択肢が比較的多い国では、射撃の楽しみの一つとして現実的にあり得る要望の一つになっているみたいです。
今回は、海外射撃専門BBSである「TargetTalk」から、そういう海外ならではの話題をピックアップしてお届けします。
引用元:TargetTalk–Center fire free pistols
いわゆる「ホンモノのフリーピストル」であれば、座って机にレストして撃てば親指の爪くらいには弾着がまとまりますし、ルール通りに立って片手で撃っても、「うん、いまのはちゃんと思い通りに撃てた」と思ってモニターを見れば10か9には当たっています。50mピストルでの10点ってのは直径5cmです。我ながらよく当てられるなと感心します。競技銃の精度ってのはそれだけすごいんですね。
威力について。.22LRとセンターファイアピストルでは、どれほどの威力の差があるのか? 私もいちおうアメリカで.38SPLや9mmや.45ACP、さらには.454カスールなんかも撃ったことがありますが、壊れるターゲットを撃ち比べてみたりしたことはないので、「威力の差」と言われてもどうにも実感がわきません。反動の大きさについては、そりゃまあ確かに差があります。.454カスールなんかは「もういいです」って感じに手のひらが痛くなりますし。
ただ、そういうハイパワーな弾と比べたときに.22LRが「ぜんぜん取るに足らないくらいの低いパワー」しかないかって言われると、どうにも首を縦に振りづらい感じがあります。クソ重いライフルに.22LRを装填して全体重をかけたスリングで地面に結わえ付けて撃つ50mライフル伏射では、撃っても銃がぴくんと動くくらいで反動をほとんど感じないのですが、片手に持ったピストルで撃つと同じ弾でもぜんぜん違います。撃つと同時に脳が揺れ眼球が飛び出し顔の皮が剥がれる感覚があります。
※ちょっと分かりづらい表現なので補足しておきます。反動で身体が後方に蹴飛ばされるので、慣性の法則でその場にとどまろうとする柔らかい顔の付属品が、顔から引き離される感触があるのです。
こんな反動があるほどに、超ちっちゃな弾頭を猛スピードで撃ち出しているのだから、そりゃ威力だって相当なものになってるんじゃないかっていう実感があります。「センターファイアに比べたら威力は小さい」と言われても、たしかに小さいは小さいだろうけれど、威力が小さくて満足できないなんてことはまかり間違ってもありえません。私にとっては、.22LRは十分以上にシャレにならないハイパワー弾です。少なくても当分の間は、「.22LRじゃ満足できないからセンターファイアのピストルも撃ってみたい」とか私が言い出すことはないんじゃないかと思います。