銃が出てくる映画関連のレビューや、海外でのアクションシューティング記事などで欠かせない人となっている石井健夫さん。国内でのトイガンシューティングにも昔から積極的に関わっており、シューターとして参加するだけでなく自身でマッチも開催しています。プレートマスターズチャンピオンシップは、前身であるプレート名人大賞から数えれば日本で最も歴史のあるマッチのひとつといってもいいでしょう。

私個人としても各方面でいろいろと教えられたことも多く、特にピクニックランド(現プレジャーフォレスト)で開催した「SPLカップ」においては相当厳しくイベント運営とはなんぞやということについて叩き込まれまして、あの経験は今に続くSPFフィールドの定例ゲーム運営や、ずっと後になって始めたピンポイントシューティングについても、とても大きな糧となっています。

そんな石井さんですが、ピンポイントシューティングにも、予定があったときにときどき参加してくれてます。10mでやってる赤羽PPSにはライフル、5mでの新宿PPSではピストルでの参加です。両方ともなかなか興味ふかいカスタムがほどこされた銃を使用されています。先日の新宿PPSでは少し時間に余裕があったので、カスタムポイントなどについて伺いつつ銃の写真を何枚か撮ってきました。そこで突発ですが、石井健夫スペシャルのAPS-3についてレポートしてみたいと思います。

(ここからレポート開始)

このカスタム、まず眼を引くのはその長さである。ノーマルに比べて5割増しくらいであろうか。APSカップにおけるレギュレーション(銃の全長規制)ギリギリに収まるサイズになっている。アウターバレルを継ぎ足す形でフロントサイトを本来ある位置よりもかなり前方まで移動することで、サイトレディウス(前後サイトの距離)を伸ばしている。サイトレディウスが長いと、その分だけ前後サイトの位置がわずかにズレただけでも目で見てすぐに分かるようになる、つまり「精密に狙える」ことになる。といってもスコープを使ったときのようにターゲットが拡大されるわけではなく、またフロントサイトに目のピントを合わせたときにリアサイトがボケる割合が増えてしまうというデメリットもある。サイトレディウスを伸ばすことは、射手により高度な据銃を求めることになる。万人におすすめできるカスタムではなく、より確実に、「静止」に近い状態で銃を構えて支えることができる技量を持っていることを前提にしたカスタムといえる。

ベースとなっているのはAPS-3のLE2008。グリップは、フロンティアオリジナルのAPS-3用グリップに交換されている。[修正:グリップは石井さん手製のもので、フロンティア製APS-3グリップとは別物とのことです] 片手で持って撃つことだけを考えたデザインとなっているAPS-3の純正グリップに比べて、両手で持って撃つことも考慮したデザインになっているのが特徴だ。

 

伸ばしてあるのはアウターバレルのみで、インナーバレルは純正と同じ長さしかない。延長アウターバレルは、ちょうど径が合うパイプを探してきて使っているのかと思いきや純正品とのこと。たしかにマルゼンからシルバーやら青やら、さまざまな色をしたアウターバレルがカスタム品として発売されている。インタビュー時は聞き逃してしまったのだけれど、ということは純正を2本継ぎ足して使っている、ということなのだろうか?

アウターバレルはシリンダーとマウント状の部品で接合され、固定されている。この部品は桑田商会から発売されているAPS-3マウントベース(標準価格¥10,290)だ。想定されている使い方としてはシリンダー先端ではなく、中程に付けてバレルを固定すると同時にダットサイトなどのマウントとして使おうというもの。このカスタムではアウターバレルの固定用として使われており、サイトはマウントされていない。シリンダーには「Anschütz」のロゴをもじった「APSDEOrz」のステッカー。

競技銃のカスタムでもっともシューターの個性が出るのが、サイトだ。特にAPSカップではブルズアイ・プレート・シルエットと距離も形も違うターゲットを同じ銃で狙って撃つ必要があるため、それぞれのステージに対応するにはいったいどんなサイトを作ればいいのかと、多くの射手が頭を悩ませ、いろいろなアイデアを振り絞っている。

石井さんのサイトは、フロントに円柱形の集光アクリルを固定、リアにはドーナッツ型のいわゆる「ゴーストリングサイト」を設置して、そのリングの中に明るく光るフロントの集光アクリルを持ってきて狙うというコンセプトで作られている。フロントが凸・リアが凹になっているオーソドックスなパートリッジサイトに比べてブルズアイでの精密さは犠牲になるが、プレートでの素早い照準、背景があやふやなシルエットでの正確な照準には大いに威力を発揮するはずだ。

フロントサイトは、コの字型の頑丈なガードに守られている。普通の人だと集光アクリルを付けるだけで満足してしまうところだが、実際に銃をケースにいれて持ち歩きあちこちのマッチに参加するとなると、接着しただけのアクリルでは取れたり位置がずれてしまったりするため、こういった大型のガードを取り付けたのだそうだ。ここらへんは「カスタムしていい感じだったらそれで満足」になる単なるカスタム屋ではなく、自分でカスタムした銃を自分で実際に使うシューターだからこそのカスタムポイントだ。

フロントサイトのガードというと、普通は黒色をしていてフロントサイトをがっちりと囲い込むような形をしているものだが、この銃のフロントサイトガードは比較的背が低く、また側面に穴が開いている。それは何故か? フロントサイトの集光アクリルに均等に光をあてるようにするための工夫だ。APSカップは本戦を含め、射手が立っている場所の照明についてはかなり無頓着で、暗かったりやたらと明るかったり、斜め上から強い光に照らされる状態になってたりと、当日その場に立ってみないとわからない。普段、自分の部屋とか行きつけのレンジではハッキリクッキリ狙えていたサイトでも、本番の本戦で自分の射座に立ってみたら、なぜか全然狙えない、なんてことも起こりうる恐ろしい世界だ。

実際、過去にはトップシューターのひとりが、フロントサイトをネジ留めしていたところ、そのネジの頭に天井のライトがちょうど反射して眩しく光り輝いてしまい、ブルズアイでとんでもないミスショットを連発してしまったということがあったくらいだ。この一風変わった大仰なフロントサイトガードは、射座がどんな明るさであっても、均等に集光アクリルに光があたり、いつもと同じように狙えるようにするためのパーツでもあるというわけだ。

「ここを撮ってください、これが苦労したところなんですよ!」と石井さんが強く勧めてくれたのが、銃の右側面に付いている小型のタイマーだ。いわゆるキッチンタイマーで、機能としては事前に分・秒をセットしてスタートボタンを押すとカウントダウンが始まるというだけのもの。

こんなもん100円ショップにでもいくらでも売ってるだろう、と思いきや、ピストルに固定するために小型のものを探しまわった結果、キッチンタイマーとしてはかなりの高額ではあるがちょうどいい大きさのものが見つかり、背に腹は代えられないということでそれを購入することにしたのだとか。

石井さんはライフルにも同様のタイマーを付けている(そっちはもっと大型)。しかもライフルでは折りたたみ式になっていて、射撃時には射手の方を向く形になって、照準中であってもいつでも視線を少しずらすだけで残り時間を確認できるようになっている。さすがにピストルではその機能(射手の方を向く機能)はなく、コッキングする時に同時に残り時間を確認できる、というのが利点になっている。

APSカップは、精密射撃としては制限時間が厳しいマッチだ。2分(120秒)という時間は、より上のレベルになればなるほどに厳しい制約となって射手を苦しめる。今撃とうとする一発に、残り何秒を使えるのかを一瞬で確認できるようにしたい、というのは多くのAPSシューターが考えることのようで、ベルトに大型のタイマーを付ける人、ストップウォッチをペンダントのように首にかける人、机の上に時計を置く人とさまざまだ(ちなみに私は机の上派で、机が存在しないシルエットの立ちでも同様にタイマーを確認できるように本選会場に机がわりに小型のスツールを自前で持ち込むくらいだったりする)。石井さんのように銃本体ですべて完結する形にするのがいいのか、タイマーを別に見やすい場所に置くほうがいいのか、これはどっちが正しいとか優れてるとかいう問題じゃなく、それこそ純粋に「シューターの個性」というやつなんだろう。

カスタムに王道はあるが、正解はない。レギュレーション違反となるカスタムはあるが、間違いとされるカスタムはない。多くのシューターが少しでも高得点を撃つために銃に様々な工夫をする。その試行錯誤もまた、マッチの面白さのひとつだ。カスタムなんかしない、そんな時間があれば少しでも練習するべきだ、ノーマルで十分だ…というのも、またシューターの個性のひとつとして十分に「アリ」だし、もしかしたらそれが一番正解に近いのかもしれないけれど、それでもやっぱりいろんなカスタムを見るのは面白いし、そのカスタムについてシューターから話を聞くのも面白い。

池上ヒロシ

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