「ビームライフルとは荷電粒子を撃つ銃のことであって、光を照射するだけのものをビームライフルと呼ぶのはおかしい!」なんて言い出す人がいてちょっとびっくりしました。それは、ガンダムの世界だけの話です。ビーム(beam)というのは「ある程度の太さがあって束となった指向性を持った粒子あるいは波の流れ」を指す言葉なので、それが光でも、光の一種であるレーザーでも、もちろん荷電粒子であっても、指向性があって、それなりの太さがある流れになっていれば「ビーム」と呼んで構いません。そして、競技に使われるビームライフルは、レンズを使って指向性をもたせた光を照射するものなので、紛れもない「ビーム」を放出するものです。
ビームライフルの仕組み
まだレーザーが民間では実用化されていなかった時代に設計されたものなので、指向性を持った光といってもただの明るい光です。キセノンランプ(カメラのフラッシュ/ストロボの光と同じ)が銃身の奥の方に入っています。ボルトをコッキングするとコンデンサに充電が始まります。カメラのストロボと同じように、「チュイィィ……ン」って音がかすかに聞こえます。チャージにかかる時間はせいぜい数秒。その後にトリガーを引くとランプが光り、銃身内にある何枚かのレンズによって細く一方向にまとめれられて銃口から照射され、ターゲットを円形に照らします。
ビームライフルのストックを外したところです。大きなコンデンサに溜めた電力を、トリガーを引くことで一気に開放してキセノンランプを一瞬だけ光らせます。
キセノンランプの発光は数枚のレンズで集約され、細いビーム状になって銃から発射されます。
ライフルから発せられた光によって、ターゲットは円形に強く照らされます。円の直径は80mmと定められています(誤差は5mmまで許容されます)。
ターゲットの仕組み
ターゲットの中には、受けた光の強さに比例した電流を発生する「光電管」という装置が放射状に組み込まれていまして、その上下左右の電流量の比率をもとにターゲットを照らした円の中心=着弾点を割り出して得点を計算し表示するという仕組みです。
ターゲットの内部には、放射状に光電管が配置されています。上と下の光電管からはコードが伸びていて、2つの電流値を比較してどちらがどのくらい大きいかを調べる仕組みが組み込まれています。左と右も同様です。※なお、ネット上をいくら探しても標的の内部機構についての資料が見つからないので、過去になにかの本で見たことがある図を記憶を頼りに書いています。
射撃場に練習に行ったついでに、管理者の方に頼んで普段はしまってあるビーム標的を出してもらって撮影してきました。白い部分をよく見ると、放射状に配置された光電管がうっすらと透けて見えるのがわかります。普通に見るだけだと少し分かりづらいので写真のコントラストを上げてあります。[1115追記]
ど真ん中に光が当たると、上下・左右の光電管に当たる光の量は全く同じになり、発生する電流も同じになります。この場合は「中心に当たった」と判断され、得点表示機に10.9が表示されます。
少し右に当たるとこんな感じになります。右の光電管に当たる光のほうが左より多くなるため、右の電流のほうが多くなります。どのくらい大きくなったのかをアナログ回路によって検出し、それが「右にズレた量」となります。上下は、ど真ん中に当たった時よりは光の量そのものは減りますが、バランスは取れています。よって、「上下には外れていない」ということがわかります。
左右だけでなく上下にも外した状態です。左右のズレは左右の光電管が発生する電流量の比率で、上下のズレは上下の光電管が発生する電流量の比率でわかります。左右と上下、それぞれのズレが分かれば、標的を照らした円の中心がどこにあるのか、つまり「着弾の中心」がどこにあるのかがわかるというわけです。
得点について
精密射撃での採点は、標的に弾が当たって開けた穴が、得点を区切っている線にカスっているかどうかで判断されます。ビームライフルでは標的に穴は開きませんが、仮想的に「穴が開いたもの」として考えたときに、その穴が線にカスっているかどうかで得点が決まります。ここで使う仮想的な穴の大きさは「4.5mm」と定められています。エアライフルやエアピストルで撃つ弾の大きさに合わせてあります。
ビームライフルとエアライフルでは、使用する標的の大きさがほんのちょっとだけ違います。ビームのほうがエアより、全て0.5mmずつ大きいのです。4点や1点は見た目だけではほとんど違いがわかりませんが、10点は「ビームライフル:1mm、エアライフル、0.5mm」と2倍の差があるのでさすがに見ただけで大きさの違いがわかるんじゃないかと思います。
光電管からの電流量によって求められた照射円の中心点を中心に、仮想的な穴(直径4.5mm)を想定します。その穴が標的の得点を区切る線にカスっていれば、その内側(高い方)の得点になります。この図では穴の縁がギリギリで10点に届いているので10点になります。
同じ10点でも、文句なしの正真正銘ど真ん中に当たった10点です。昔のライフル射撃ではギリギリ10点もど真ん中10点も「同じ10点」として採点していましたが、銃の性能や射手の技術が上がりそれだけではとても決着がつかなくなったので、今はこの2つの10点の間を10等分し、10.0~10.9と小数点で採点するようになっています。
「穴の大きさ」ではなく、「着弾点(照射円)の中心」で見てみましょう。言い換えると、銃から発射されるのが弾ではなく太さのない矢(針)のようなものであると仮定した場合、その針が刺さった場所がどこなら何点になるのかを示したものです。図で赤色で示したのが、「10.7~10.9になる着弾点中心のエリア」です。黄色が「10.4~10.6になるエリア」、青色が「10.0~10.3になるエリア」です。外側に行けば行くほど(つまり点数が低くなればなるほど)、エリアは広くなっていきます。
「低い得点は出やすいが、高い得点は出にくい」ということは、得点表示だけ見てるとついつい忘れがちになります。10.0になるエリアの中にランダムに弾着がばらまかれても、10.0~10.9までが均等に出るわけではありません。「なんとか10点以内に入った」という射撃の結果のほとんどは10.2以下にしかならず、10.5以上、ましてや10.9なんて滅多に出ないということです。
得点表示機の読み方
ビームライフルの得点表示機は、左上に数字で得点が表示されるエリアがあり、右に同心円状のターゲットが書いてあって「どこに当たったか」が赤い光点で表示されます。この右の方ですが、昔は光った点がそのまま「標的のどこに当たったか」を示していたのですが、ルールが小数点表示になってからそうではなくなりました。
得点が10点台(10.0~10.9)の場合は、一番外側の円が10.0で真ん中が10.9となります。標的の中心を拡大したものが表示されていると考えて問題ありません。しかし9点台、8点台、さらにその下を撃つと話が変わってきます。8点台の場合は標的の中心が8.9で一番外側が8.0という、極めてややこしいものになってしまうのです。
「小数点表示が必要になる人は10点台しか撃たないから問題ない」という考えだったのかもしれません。実際、10点台連発とかとてもムリという初心者が使う場合(射撃場のビーム開放日や初心者向け体験会など)では、小数点表示をしない旧表示、つまりディスプレイで光った点がある場所が標的上で当たった場所を示すというわかりやすい形にモード変更していることがほとんどです。
10.0以上を撃った時は難しくありません。ディスプレイの中心が10.9で一番外側の円が10.0、つまり標的紙の中心をドアップにしたものだと考えればOKです。(画像はライフル・イズ・ビューティフルのアニメ3話より)
9点台以下を撃つと、円形ディスプレイの表示の意味が変わります。円の中心は標的の中心ではなく9.9を、一番外側の円が9.0を意味するようになります。光る点は、「どちらの方向に外れたか」を判断するためのものでしかありません。(画像はライフル・イズ・ビューティフルのアニメ3話より)
さらに別の例、8点台を撃った時はディスプレイは「8.9(中心)~8.0(外側)」の意味に変わります。実際に弾を撃ったと仮定したときの着弾点はどこだったのか、射手は脳内で変換して補正量を判断しないとなりません。(画像はライフル・イズ・ビューティフルのアニメ3話より)
なお作中で表示されたこの画像は、明らかに間違っています。中途半端な理解で嘘を書いてしまったのか、もしかしたら「実際には弾を撃たないビームで直径4.5mmの弾を撃ったと仮定したときに10点にギリでカスったものを10.0として……」なんていう、ややこしいにもほどがある説明を限られた時間内にするのはムリだと判断してあえて嘘を書いたのかもしれません。(画像はライフル・イズ・ビューティフルのアニメ3話より)
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