知名度が低いビームライフル競技――いや、名前が知られているかどうかってだけなら「ビームライフル」という単語の知名度は相当にあると思われますが(主にガンダムのおかげで)、それがほんとに行われている競技スポーツだってことはあまり知られていないのが現実です。そんなどマイナースポーツを題材にしたコミックがまさかのアニメ化です。
ちょっと前まで放送してた土曜朝の子供向けロボットアニメでメインキャラの一人がビームライフル選手だったという設定だったりしたので、それ以前に比べればまだマシな状況ではあるものの、やはり一般の方々には馴染みがないスポーツだけに、あちこちの感想サイトとか見てると基本的なところで疑問を持っていたり、妙な誤解があったりする視聴者の方が少なくないようです。
そこで、そういった「よくある質問」に対する回答をまとめてみました。参考になれば幸いです。
1964年に行われた前回の東京オリンピックの後、「銃規制が厳しい日本で射撃競技を普及するにはどうしたらよいか」という難しい問題を解決するために開発が進められ、1970年代の初めに興東電子という会社によって実用化されたものです。一言で説明すると、弾を撃たない精密な射撃シミュレーターです。
上述のとおり日本で開発された日本独自の射撃競技(シミュレーター)なので、日本以外では全く使われていません。もちろん世界大会もありませんし、オリンピックにも種目はありません。ビームライフルで国内トップレベルになるような人は、できるだけ速やかにエアに移ってもらって世界で戦える人材になってほしい、というのが普及側の願いというか目論見になります。
カメラのフラッシュに使われているのと同じキセノンランプが使われています。大きなコンデンサに蓄えた電力を一瞬で消費し、ものすごく明るく発光するランプの光をレンズを使って細くまとめ、ターゲットを円形に照らします。
小型のコンピューターが登場するのが1960年代、一般の家庭でコンピューター(マイクロプロセッサ)が使われた家電製品が普通に使われるようになるのは1970年代の半ば以降。ビームライフルはそれより前に開発が始められました。着弾点を検知して表示するのはデジタルではなくアナログ回路によるものです。
ビームライフルが国体の正式種目になったのは1975年、機動戦士ガンダムの初回放送が1979年です。
2000年頃に、興東電子ではなくNEC米沢が開発した新しいシステム(レーザーやコンピューターを使用するもの)に置き換わるという話があり、特にピストルについてはかなり強引に国体の正式種目にして代替をすすめる(つまり、国体開催地に強制的に購入させる)などの推進がされましたが、NEC米沢が活動停止となり生産も開発もストップ。強引に買わせられた高価な機材が、メーカーが存在しないため壊れても修理すらできないという、かなりトホホな状態になってしまいました。
ライフルの方は完全には代替が進められていなかったため、旧型であるキセノンランプ+アナログ回路を使った昭和レトロな機材が、今でも公式大会に唯一使える正式なシステムとして君臨しています。ピストルの方は、2012年から日本ライフル射撃協会によって後継機種選定が始められ、いろいろありましたが結果として興東電子が新規開発した「ビームピストル」が採用されました。レーザーとPCを使ったシステムで、現在は中高生を主体とした大会や国体などで積極的に導入が進められています。
一般的なビームライフルの形は、古い型の小口径ボルトアクションライフルを模したものになっています。射撃前には、銃の後部横についているレバーを「上げて、後ろに引いて、前に戻して、下げて元通りにする」という操作が必要になります。ビームライフルは実銃での射撃競技の練習用として作られたものなので、意味はないのですがそういう操作をしなければ次弾が撃てないようになっています。とはいえ、内部では小さなスイッチをON/OFFしているだけでボルト操作にはほとんど力を必要とせず、指先でクイッと引っ張ってポンと前に押し出すだけでカコンと操作完了になります。
なお裏技ですが、「上げて、後ろに引いて」の状態のまま放置するとボルト操作なしで次弾が撃てます。射撃場の貸し銃をスタッフがサイト合わせする時なんかに使われます。もちろん試合中にやったら違反行為です。
実際の弾は銃口を飛び出した直後から落下をはじめ、概ね放物線を描いて飛んでいきます。なので、同じように狙って撃っても距離によって当たる場所は変わります。狩猟や、軍・警察などで行われる狙撃においてはその違いは重要になりますが、撃つ距離が決まっている競技射撃では関係ありません。弾道がまっすぐだろうが放物線だろうが、射撃に必要とされる技術には全く変わりが無いのです。
世の中には何発も連続して撃つ競技もありますが、オリンピックや国体などで行われる「ライフル射撃」は一発ずつ時間をかけて丁寧に撃っていくものです。そこにおいては、反動を押さえつけたりするような技術は必要ないどころか、逆に身につけてはいけない悪癖になります。詳しいことは省きますが、「反動なんか無いもの」として銃を撃つことが重要であり、反動がないビームライフルはその技術を身につけるにはむしろ適しているとさえいえます。
ライフル射撃では、銃は筋肉ではなく骨格の組み合わせで支えます。銃の重さは左手を通して肘に伝わり、肘は骨盤の上に載せて安定させます。銃は前のほうが重くなっていてシーソーの原理で前方向に倒れようとしますが、それをバットプレート(肩に当てる部分)とチークピース(頬に当てる部分)で支えて静止させます。支えるといっても、これも筋肉で支えるのではなく、自然に構えた(頭部を頬当てに載せた)状態でバランスが取れて銃が静止するという形になるのが理想です。
その射撃姿勢をとるため、競技用ライフルのバットプレートは軍用や狩猟用のものに比べてかなり位置が下になります。そのせいで背中側(左側)から見るとまるでストックを肩に載せた「ちょろいもんだぜ」ポーズのように見えてしまうこともあるかもしれません。
ライフル射撃では銃の重さを筋肉ではなく骨格で支える、というのはすでに書いたとおりですが、それをよりやりやすくするためのものがあの固い服です。上は射撃ジャケット、下は射撃ズボンというのが正しい呼び方ですが、だれもジャケットとか言いません。みんな「射撃コート」って呼びます。厳密には間違った呼び方なんですが、みんなそう言ってるんでここでもそう呼びます。
射撃コートは、きつくすればきつくするほど、固くすれば固くするほど銃を安定させるのに有利ってことになるわけですが、もちろんルールで規制があります。その規制の厳しさが、ちょうどライフル・イズ・ビューティフルのコミック連載が始まる直前あたりに大幅に変更になり、コートの厚さや固さについての制限が厳しくなりました。具体的には「コートだけで自立する」とか「着ると歩けないんで脱いでから移動してまた着る」なんてコートは、今ではもうルール違反となり使用できない可能性があります。
マンガ作者は連載にあたり、ライフル競技をやってる人たちに取材してそこで聞いた「あるある話」を元にエピソードを組み立てているようで、アニメでもそれがそのまま描写されています。しかし、その描写の中には旧ルールだからこそ「あるある話」だったものの、新ルールでは再現できないものもあるということです。
[10/21追記]区の記録会に出たついでにライフル撃ちに確認してきました。数年前のルール変更で確かにコートの固さには大きな制限が加えられ、「服だけで自立する」ようなものは確実にルール違反になるとのことです。他にも、「着たままで歩けること」「自分で自分のジャケットの裾をつかめること」みたいなのが目安になっているとか。
これは良い質問です。実はこの問題は、ビームライフルの開発時に大きな技術的ハードルになった部分なのだそうです。
実銃ではトリガーを引いてから内部メカニズムが(ほんの僅かな距離ではありますが)動いて撃発が起こります。(そのプロセスを完了するのに要するごく短い時間をロックタイムと呼びます。競技用の空気銃や装薬銃の場合は5~8ミリ秒くらいだとのこと)。装薬銃の場合はそれから火薬が燃焼し、空気銃の場合はピストンが前進したりバルブが開いたりして、弾を後方から強く押して加速させて最終的に銃口から弾が発射されます。これにも僅かな時間がかかります。
しかし電気は電線中を光の速さで進むので、トリガーを引いた瞬間=キセノンランプが光る瞬間になります。実銃とは、「弾が発射されるタイミング」にズレが生じてしまうのです。
ほんの僅かな時間、数値にしてみれば1/10秒にも満たないズレですが、これが実際に撃ってみたときにはとても大きな感覚のズレになってしまい、当初は「これではビームライフルは使い物にならないのでは」という話にもなりかけたそうです。それを解決するため、スイッチが押されてからランプが光るまで、60ミリ秒(約1/17秒)だけ時間がかかるような仕組みが、ビームライフルには組み込まれています。
この60msという時間は、現在使われている最新型の競技用ライフルと比べるとかなり長いものになります。そのため、ビームをずっと撃っていた中高生がエアを所持したとき、感覚の違いに戸惑う原因になることがよくあります(ビームの熟練射手がエアに対処できない、とされる理由の多くがそれです)。現代の趨勢に合わせてもっと短くしても良さそうなものですが、「公式競技に使う道具」という性格上、仕様を変更するためには数多くの手続き上でのハードルがあり、実現までの目処すら立ってないのが現状です。
骨盤の上に左腕の肘を乗せ、左手上腕で銃の重さを支えるのがライフル射撃の基本フォームです。筋肉の力は使わないので、骨格の形で銃の位置が決まります。胴長で手足が短い日本人体型だと支える位置が低くなりすぎてしまって銃口が下がり標的方向に向けることができない、ということになりがちです。エアライフルならフォアエンドレイサーの高さを調整することで銃の高さも微調整できますが、旧態依然なビームライフルにはそういう機能はありません。そういった理由で、体型によっては拳を作ってその上に乗せることで高さを稼ぎ、銃口を標的方向に向けるという工夫が必要になってくる場合があります。
人間の身体は基本的には止まるということはできず常に動いていますから、その動きの中での静止というのを作り出す技術を身につけるのがまず難しいことですし、さらに弾を撃つためには引き金を引かないとなりませんが、その引き金を引く=銃に力を加えるという行為が銃を動かしてしまうというジレンマ、さらに突き詰めれば「引き金を引きたい」という気持ちを抱くだけで銃に余計な動きが生じてしまうので、「撃とうとか撃ちたいとかいう気持ちを持たないまま、引き金を引いて撃つ」という、なんか禅問答めいた人間業ではない境地を追い求めることになったりと、見た目よりずっと奥深いスポーツだったりします。その面白さがわかるかどうかは個人差があり、結局全く面白さを理解できない人もいますが、実際にビーム射撃を体験してみると、けっこう大勢の人が「これ、面白いね!」って感想を持ってくれます。やってみれば楽しさがわかる、それが射撃スポーツなのかもしれません。
コミック連載開始は2015年です。当時のライフル立射は女子は40発、男子は60発でした(高校生などが撃つジュニア競技だと男女ともに40発だった?かもしれませんがそちらは縁がなかったので……)。ところが、2017年のルール変更(実際に適用されたのは2018年から)で、男女ともに60発に統一され、制限時間などの他のルールも男女差は基本的にナシという形に変更になりました。「男女平等の推進」というIOC(国際オリンピック委員会)のお達し(アジェンダ)によるものです。[10/19追加]
ビームライフルの機材は全部で4種類あります。①銃本体、②標的、③得点表示機、そして④プリンターです。撃っているところのすぐ前の机の上に置いてある、昭和家電な雰囲気バリバリの大きな四角い機械がプリンターです。感熱ロール紙(要はスーパーのレシートと同じ)に、1発撃つごとに得点がジジ、ジジ、ジジジと印刷されます。
※なお小さいことですが「ジ」の文字が2つ3つがあるのは、10点台(10.0~10.9)を撃ったときと9.9以下を撃ったときとで文字の桁数が変わるからです。音を聞くだけでミスショットがバレてしまうわけです。まあそれ以上に王冠が光るかどうかという大きな違いもありますが。
ちなみに、この記事の最初の方に葛飾奥戸体育館ライフル場にビームライフルを設置したときの写真がありますが、そこにはプリンターは写っていません。なぜかと言うと、無いからです。けっこうなお値段がする(銃や標的とは別売りです)上に、保管場所も取るし、設置も使い方の説明も面倒になるし、一般の方の体験なら一発撃つたびに自分で記録していけばいいじゃんってことでプリンターは設置していないとのことです。[10/21追加]
ライフル射撃では、リアサイトの小さな丸い穴、フロントサイトの円、そして標的の黒丸(4点圏)の3つが同心円になるようにすることで照準をつけます。人間は同心円がほんの少しでもズレているとすぐに気がつくくらいズレに敏感なので、フロントサイトが柱状になっているポストサイトよりも遥かに正確な照準ができるようになります。[10/28追加]
サイトは銃身の真上についていますから、サイトを見るときは「顔を斜めにして銃を垂直にする」「銃を斜めにして顔を垂直にする」のどちらかを選ぶことになります(論理上は両方とも斜めってのもありますが)。自分の身体の傾きがどうなっているのかを感知するためのセンサーである「三半規管」は人間の頭部についているため、顔を斜めにするとそのセンサーからの情報に誤差が出てしまい、身体の安定を保つ機能に不具合が生じます。そのため、頭部はまっすぐな状態にして、そこにライフルを立てかけるような形で構えるのが基本的なライフル射撃のフォームになります。
標的までの距離は一定なので、ライフルが斜めになっていてもその角度が一定ならば当たる場所は変わりません。角度を一定にするための手助けとして、フロントサイトの中に入れるリングには水平や垂直方向に線が入っています(上の質問に添付した動画を参照)。自分のフォームで構えたときにその線が水平・垂直になるように、フロントサイトリングは逆方向に少しだけ傾けて銃に装着します。[10/28追加]
アニメで描かれるビームライフルの横には、丸いシールが何枚か貼ってあります。これは銃検シールといいます。大きな大会だと試合開始前に銃器検査といって、使用する道具にルール上の問題がないかどうか一通り確認し、それに合格した証として渡されたシールを試合中は銃に貼ることになっていたりします。
そのシールは単に検査に合格した証という以上に、「どれだけたくさんの大会に参加してきたか」という証でもあります。エアの場合は銃は個人のものですからシールの数は個人の戦歴になりますが、ビームの場合は銃は学校の備品ですから学校の実績という意味合いが出てきます。予選を勝ち抜かなければ出れない全国大会などもありますから、シールが多ければ多いほど強豪校だというアピールにもなるわけです。[10/30追加]
ターゲットがハッキリ見えていないとちゃんと狙えない……と思いがちですが、実はライフル射撃の照準においてはフロントサイトさえハッキリ見えればOKです。ターゲットは若干ぼやけていても構いません。フロントサイトリングの中に黒丸があれば、その黒丸が中心から少しズレてるだけでも判別できます。
言い換えると、射手はターゲットではなくサイトを見ているのです。
ターゲットがぼやけていて狙えるのだろうかと心配になるかもしれません。日本ライフル射撃協会がWebで公開していた資料に、実際にライフル射手はどのくらい正確に狙えているか、逆に言うとどのくらいズレていると「ズレている」と知覚できるのかを実験した結果があります。それによると、熟練した射手は0.05ミルの誤差を識別できているとのことです。これは、10m先での0.5mmの揺れがサイトの揺れとして知覚できるという意味です。これは人間の視覚的極限に近い驚異的な数字です。[11/02追加]
レンズというものは、端っこの方で見ると像が歪んだり輪郭線に虹色の縁取りがついてしまったりします。普通に眼鏡をかけて日常生活をする分にはほぼ真ん中部分しか使いませんから問題にならないのですが、射撃をする場合、フォームによっては眼鏡の中心ではない場所でサイトや標的を見なければならないことになることもあります。それだと狙えないとかまるで当たらないとかいうことがあるわけではないのですが、スコアを上げようとするときに何らかの障害になることもあります(レンズの範囲で見ようとしてフォームが窮屈になるとか)。
レンズの位置や角度を自由自在に調整できる射撃用の眼鏡が販売されています。これを使って適切に調整すれば、常に最も性能の良いレンズの中心部分だけを使ってサイトやターゲットを見ることができるというわけです。
といっても、最近はライフルシューターで射撃用眼鏡を使っている人はあまり見なくなりました。なぜなら、これまたコミック連載開始からしばらくたってのルール変更なのですが、サイトそのものにレンズを一枚だけ固定することがルールで許可されるようになったからです。レンズとサイトの位置関係は変わらないほうがありがたいですから、顔についてるよりは銃についてるほうが有利なのは当たり前の話です。
なので、今では射撃用眼鏡はすっかりピストル撃ちだけのものになりつつあります。前から射撃用眼鏡で撃ってたライフル撃ちの人が今でも使い続けている例はありますが、これから先、減ることはあっても増えることはないんじゃないかと思います。[11/03追加]
ビームライフルを、例えば「2時間300円」とかそんな感じの値段で試しに体験してみることができる場所というのは、意外にあちこちにあります。市立や区立や県立の体育館とか射撃場にビーム設備が一通り揃っていたりするんです。全国持ち回りで開催される国体のせいでおかげで、どこの県にも一箇所以上はビーム一式が揃ってる設備があるのです。どんな形態で運営しているかは都道府県によって異なります。常設になっていていつでもビームが撃てるところもあれば、曜日によって「今日はビームの日」「今日はエアの日」と区切っているところと様々です。
ライフル協会としても情報発信に力をいれている「つもり」ではあるらしいのですが、市や区の広報ペーパーとか自前サイトでの告知くらいで、メディアを巻き込んで広報するとかそういう発想には乏しいようです。私が一人で空回りしてるんじゃないかって気がしてくるくらいで……。
別エントリーで、関東圏でビームライフルが体験できるところについてまとめました。Googleマップも付いていますのでお近くの施設が簡単に探せます。
【ガンマメ】関東圏でビームライフルが体験できるところ
ビームライフルが発射するのはただの光ですから、人に向けて撃ったところでなんの危険もありません。ですが、あくまで将来的に実銃を使った射撃をするにあたっての練習という位置づけにありますので、安全管理や取り扱いは実銃と全く同じに行われます。それが、お約束になっているんだと思ってください。
銃は、どういう状態だと「安全だ」と言えるのかですが、いくつかの段階があります。
1.最も安全:ボルトを外してケースの中にしまっている
2.まあまあ安全:ケースから出しているが弾は装填されていない
3.安全ではない:弾が装填されていてトリガーを引けば撃てる状態
「1」の状態ではとりたてて特別な配慮をする必要はなく、「ただのカバン」として扱って構いません。「2」の状態では銃口をむやみに人に向けることははばかられますが、「絶対に弾は撃てない」状態だということが誰が見てもわかるようにしてあって、誰も銃に触れていなければ、銃口の前に人が出ることが許されます。「3」の状態は、射座において、射線より前に人がいない状態で、銃口が標的方向を向いている時だけに許されます。それ以外では絶対にその状態にしてはいけません。
この「2」の「絶対に弾が撃てないことが誰が見てもわかる状態」とはなにかということが、実銃ではルールで定められています。「バレルフラッグ」という蛍光色のプラスチック製の紐(片側には小さい旗が付いています)を、エアの場合は薬室から銃口まで完全に通した状態、装薬銃の場合は薬室に紐を差し込んだ状態にしてあることが、「絶対に弾が出ない状態=銃が安全な状態」の証拠になります。試合中や練習中に、例えば標的の調子が悪くて様子を見に行かなければならなくなったときなど、射線より前に出る必要が生じた場合、全員の銃がその状態になったことを確認してから前に出るのがお約束です。
しかしビームライフルにはバレルフラッグを差し込むべき薬室もなければ、紐を通す銃身もありません。どうやって「弾が撃てない」ことをアピールすればよいのか、ということで実際に使われているのが、銃口にカバーをかぶせることなのです。実弾だったら布製のカバーなんか簡単に貫通しちゃいますが、ビームの場合は発射されるのは光なのでカバーで十分なわけです。射撃グローブを代わりに被せるのも良く見ます。
安全対策というのは、「銃を、確実に弾が撃てない状態にすること」も重要ですがそれ以上に、「銃がそういう状態になっていることが、誰が見ても一目瞭然であること」が大事なのです。[11/16追加]
のんびりしているように見えるライフル射撃ですが、実はけっこう厳格な時間制限があります。どんな小さい大会でも(例えば3話の練習試合でも)、必ず「射場長(CRO)」という役職が任命され、その号令によって全ての競技が進行します。
射場長の号令とその意味を順番に書き出すと、下記のようになります。
「選手は射座に入れ」という意味です。この号令がかかって初めて、選手は自分自身や銃、用具類を射座に持ち込むことができるようになります。射座に入れば、射撃線(試合中に撃つ場所)で、銃を構えたり、照準したり、空撃ちをしたり(セーフティフラグや銃口カバーを外すことも許されます)することができるようになります。しかし、実際に弾を撃ったりエアを出したりすることはできません。
細かいことですが、元の英文は複数形なので、本来ならカタカナも「アスリーツ・トゥ・ザ・ライン」と書くべきなんじゃないかと思います。まあ、試合に参加したのが自分一人しかいなくてガチで単数形になったこともありましたが……。
「準備および試射時間、開始」の意味です。エアや装薬銃では①の号令がかかってから15分後にこの号令がかかることになっていますが、なぜかビームでは10分後になっています。
この号令がかかると、実際に弾を撃っての試射を開始することができます。ビームの場合はスイッチを入れて光を出して、標的を作動させて弾着を見ての試射を開始することが許されるのが、この号令がかかってからということです。開始の瞬間は「スタート」の「ス」を発音した瞬間ということになっています。それまでは銃に弾を装填すること(具体的には銃に弾が触れた状態にすること)や、ビームの場合はボルトを操作することが許されません。なので人数が多いビームの大会だと、「スタート」の号令がかかった瞬間に選手たちが一斉にボルトを「カコココココココッ」って操作するんでなかなか圧巻です。
この試射時間はエアや装薬銃の場合は15分ですが、ビームは10分と定められています。
「30秒前」の意味です。試射時間終了まであと30秒ですよ、という警告ですね。
「準備および試射時間、終了」の意味です。これもスタートのときと同じく、「ストップ」の「ス」を発声した瞬間が終了時間になります(だから、「エンドオブ……」と言われてから慌てて最後の1発を撃つ、ってのもアリといえばアリです)。この号令がかかってから30秒間、標的を試射モードから本射モードに切り替えるための時間があります。
「本射開始」の意味です。この号令がかかってから、「ストップ」がかかるまでの間に撃った得点の合計が本戦スコアになります。
ライフル射手は、この「マッチ・ファイアリング……スタート」の号令を聞くと条件反射的にメンタルが試合モードに切り替わるように訓練されています。
試合終了まであと10分ですよ、という意味です。
試合終了まであと5分ですよ、という意味です。
試合終了の合図です。「マッチ・ファイアリング・スタート」から「ストップ」の号令までが試合時間ということになるわけですが、エアライフル立射60発は1時間15分(電子標的の場合)あるのに、ビームは同じ立射60発でも45分しかありません。かなり短いです。弾を装填する作業が必要なくボルトの簡単な操作だけで次弾が撃てるから早く終るだろう、みたいな考え方なのかもしれませんが、相当に「短距離走」なイメージがあります。終わった後に会話もままならないくらいに肩で息をしてるってのは、たぶんけっこう実際の光景に近いんじゃないかと思います。
なお実際の試合では、ストップの直後にアンロード(unload)、「速やかに銃を安全な状態にしなさい」という号令がかかることが多いので、まとめて「ストップ・アンロード」という号令がかかるという認識でもあながち間違いじゃありません。