オリンピックから銃を追放せよ!【海外の反応】

「なんで平和の祭典であるオリンピックに、人殺しの道具である銃を使う競技があるのか?」みたいな主張は、オリンピックシーズンになるとちょくちょく出てきます。毎度お約束の定番みたいなもので、もはや見慣れたものです。主張が定番なのだから、それに対する反論も何度も繰り返され聞き飽きたものになります。「オリンピックの競技に、元が殺人あるいは戦争の訓練でないものがあるのか?」といったあたりが定番の反論でしょうか。実際のところ、そうでない――元が軍事訓練ではない――競技は、オリンピックに限らずありとあらゆるスポーツに範囲を広げても、ごくわずかしかありません。それこそカーリングくらいしか残らないんじゃないでしょうか。テニスやバレーボールはギリセーフかも。各種格闘技や水泳、サッカーや陸上競技は確実にアウトです。

それでもなお、オリンピックが近づくにつれて「射撃がなぜオリンピック種目なのか?」という疑問を聞く機会というのは日増しに多くなっています。銃というものを実際に見たり触れたりする機会がほとんどない日本においては、銃といったらTVや映画やマンガの中で描かれるものがすべてであり、それはほぼ100%の確率でバトルに使われるものとして登場します。そのため「銃=殺人のためにしか使いみちのない物騒な道具」という、それはそれは強固なイメージが一般の方々の間で広く共有されているのが日本という国です。そういう「常識」のもとでは、「銃を使う平和なスポーツ」なんてものは、存在自体が矛盾しているように見えてしまい、とても容認し難い非常識なものにしか思えなくなる……というのは、ある意味当然のことなのかもしれません。

それとは少し様相が異なるのが、銃が日常を脅かす危険として現実に存在している国々においての、同様の主張です。とくに近年はアメリカで銃乱射事件がそれなりの頻度で発生しており、報道も過熱気味です。アメリカだけの話ではなく、ニュージーランドでは数十人規模で死者の出る相当に凄惨な乱射事件(クライストチャーチモスク銃乱射事件)が起こり、フランスでは銃だけでなく爆弾なども使用した大規模なテロ(パリ同時多発テロ)が発生しました。「銃=現実の脅威」と感じる人が増えるのは当然の成り行きです。それゆえに、同じ「オリンピックに射撃があるのはおかしい」という意見であっても、それは日本における単なる無知と偏見からくるものではなく、遥かに現実的な「怖さ」が動機となったものになります。

2019年3月に発生したニュージーランドでの銃乱射事件の直後に、「3WIRE SPORTS」というサイトに「オリンピックから銃を追放しろ」と主張するコラムが掲載されました。このサイトは、アメリカ在住のスポーツライター・作家であるアラン・アブラハムソン氏が運営しているもので、このコラムも同氏によるものです。内容を読んでいると、いやそれ以前にタイトルを見るだけでも言いたいことがいくつも出てくる文章なのですが、その感情はいったん抑えて、まずは最後まで読んでみることにしましょう。

オリンピックに銃は必要ない

引用元:3WIRE SPORTS : At the Olympics: no more guns


    オリンピックの開催期間中に、重要なことを「宣言」してみせるのは簡単なことだ。だが大事なのは、オリンピック開催期間中ではなく、開催されていないときに、特に若い人たちの生活にどういう変化をもたらすことができるかということだ。

    例えば、ノーベル平和賞にノミネートされるほどに大きなものとなった、スウェーデン出身の10代の少女が地球温暖化対策を訴える活動(※)が世の中にもたらした大きな変化と、オリンピック委員会が私達の生きるこの壊れた世界に対してなし得ることができた取るに足らない変化とを比べた時、そのあまりにも大きな違いは私達に何を問いかけるのか。

    ※:女子高生がたった1人で始めた抗議を学校や政府が公認。「フューチャー・フォー・フライデー」は世界を救えるか?

    平和・団結・友愛――これは、オリンピック開会式で掲げられる理想のはずだ。それは、すべてのオリンピックにおいて、世界のアスリートが希望の表現と平和への憧れの元に集まることの意義であったはずだ……多分。ロドニー・キング(※)が「我々は皆、和解できるはずだ」と言っていたように。

    ※:1992年のロス暴動のきっかけとなった暴行事件の被害者。

    オリンピック大会と、その根底にあるオリンピックの価値観は、「卓越性、友情、尊敬、寛容」といったものがある。しかし、ニュージーランドのクライストチャーチにある2つのモスクで木曜日に行われた行為は、それとはまったく対照的だ。死者数は50人になった。

    したがって、私はここに主張する。

    オリンピックから、銃を排除しなければならない。

    射撃競技は1896年の近代オリンピック創設以来、1904年と1928年を除きすべての夏季オリンピックのオリンピックプログラムの中心的役割を果たしてきた。21世紀に生きる我々は疑問を持たなければならない。「なぜ?」と。射撃競技があるから、かろうじてメダルを獲得できている国があるのは事実だが、それは射撃競技がオリンピック種目でありつづけるための理由として十分なものではない。

    オリンピックは私たち一人一人、そして私たち全員をより大きな存在にしてくれる。私たちをベストへと導いてくれる。望むならばさらなる高みへと。

    しかし、射撃は違う。

    現在のIOC会長であるトーマスバッハの発言に、オリンピックの価値観の重要性について述べたものがある。

    eスポーツが加入を検討される前に特定の条件を満たさなければならなかった理由を説明するために、バッハは昨年9月に次のように述べた。「私達はオリンピックのプログラムに、暴力を促進するものや、差別的要素があるものを加えることはできない。そう、『殺人ゲーム』と呼ばれているようなもののことだ。それらは、我々の観点からすると、オリンピックの価値観と矛盾しているおり、受け入れることはできない」

    この主張を受け入れるのなら、射撃がオリンピック種目にあるのはおかしいと言わざるをえない。なぜなら、銃とは本質的に暴力的な道具であるからだ。

    バッハはフェンシングの選手である。彼は1976モントリオール五輪で金メダルを獲得している。

    彼はまた、同じインタビューでこうも語っている。「もちろん、すべての対戦型スポーツの由来は戦争や殺し合いにある。しかしスポーツは、それらを文明的な表現へと変革したものだ。ゲーム中で殺人をするようなeゲームは、オリンピックの価値観からすれば受け入れがたいものだ」

    明らかに、フェンシングに使う刀は暴力的な道具になる可能性がある。アーチェリーに使う弓矢も同様だ。

    しかし、銃は違う。そうなる可能性ではなく、本質的に暴力的な道具なのだ。

    ここに、明確にしておかなければならないことがある……銃を(許可を得て、自らの責任のもとで)所持したり、撃ったりすることが、本質的に悪いことだといっているわけではない。さらに言うならば、アメリカで最も輝かしいオリンピックメダリストの一人は、クレー射撃選手であるキム・ロードだ。彼女は6つのオリンピックメダル、3つの金を持っている。彼女のスキルと意志は完璧だ。

    私が問いかけているのは、人類が最善を目指すために射撃がオリンピックプログラムに存在しているべきかどうかということだ。

    答えは一つだ。存在しているべきではない。

    近代五種はどうなるのかという疑問を引き起こしそうに思えるが、問題はない。近代五種ではすでにレーザーデバイスを使っている。それに、そもそも射撃は近代五種を構成するごく一部分でしかない。なら、冬季オリンピックでのバイアスロンはどうなるのか?という新たな問題も出てくるが……

    肝心なことは何か? 夏季にしろ冬季にしろ、銃を使用する競技種目は、銃器の使用について「正しいあり方」へと改めることでより魅力的になるということだ。

    さらに付け加えるならば、「銃による暴力はアメリカ特有の問題である(だから他の国では乱射事件など起こらない)」と長い間主張してきた人々に言いたいことがある。アメリカ以外の国でも事件は起こり続けているのだ。

    2015年11月に行われたフランスでの同時多発テロ攻撃。バタクラン劇場で90人が撃たれ、スタッドドフランスで自爆テロが発生した。その場所は2024年のパリ大会の中心となる予定の場所だ。ウォールストリートジャーナルの報告によると、クライストチャーチ乱射事件での死亡者数は、国の人口比に換算するとアメリカが9/11に被ったものと同等になるという。

    オリンピック競技種目から、射撃を排除するのは簡単なことではないだろう。明白に確立された利害関係もある。絶対に反発があることだろう。だが、これは正しいことを行おうとするときにしばしば立ちふさがる問題である。IOCは独自の立場で制度的リーダーシップを発揮しなければならない。

    1900パリオリンピックで行われた射撃競技では、生きているハトが標的となった。最も多くの鳥を撃ち殺したのが勝者だった。その後、ハトは粘土で作られた皿に変わった。虐殺はもう行われない。

    オリンピックに、銃は必要ない。「いずれ、そうなるであろう」ではなく、即座に排除するべきだ。


「アメリカでは、こんな主張が当たり前なのか?」とちょっと驚きますが、ご安心ください。そんなことはないようです。この記事には物凄い数のコメントがついています。頑張って読んでみたのですが「まったくそのとおりですね! 私もそう思います!」というようなコメントは一つも見つかりません。

たまに「Yes!(そうですね!)」から始まるコメントがあったと思ったら、「アーチェリー、ボクシング、フェンシング、槍投げ、柔道、空手、ハンマー投げ、(中略)…なども軍事の伝統に基づいているので禁止しましょう。 おそらく他のほとんどのアスレチックスポーツも。そして世界中で毎年、これらの行為のいくつかの形で無数の人々が殺害されています。 それらをすべて禁止しましょう。また、愚かながらくたを書く馬鹿がインターネットに書き込むことを禁止させましょう。ミスター・アブラハムソン、あなたのような人をね!」と、強烈な罵詈雑言があとに続いていたり。

ネットはどこも同じみたいで、基本的にコメント欄はあまり上品ではない……つまり口汚い悪口ばかりが目立ちます。「バッカじゃねーの」とか「この記事読んでわかったことは、筆者はバカだということだけです」とか「精神病院に行くことをお薦めします」とか「パパの愛が足りなかったのか?それとも愛され過ぎたのか?」とか「癌になりました」とか。「癌になった」ってのは「くだらない文章を読まされて苦痛を感じた」という意志を表明する際の定番フレーズのようで、かるく10人以上は同じこと書いてました。

「オリンピックから銃を排除する」の部分だけに注目して、「選手や観客の安全を守るために、どれだけたくさんの銃がオリンピックに投入されているのかを知ったらこの記事書いた人は卒倒しそうだな!」みたいなこと書いてる人もけっこう多いのですが、これは控えめに言っても論点そらしであり、賢い反論の仕方とは言えないですね。

ただ、これもやっぱり日本のと同じで、中にはわずかながら、抑制のきいた冷静なコメントもあります。中には、「そうか、この手の意見にはこうやって反論すると知的に見えるんだな。……機会があったら使おう」と実に勉強になるものもあったりします。

「武器の最も素晴らしい使用方法は、それをスポーツの道具として使用し、集中力、自信、技術、そして国境を超えた友情を作りだすことであり、決して破壊のためには使わないこと、それこそがオリンピックが与えるべき教訓なのです」
「もし射撃がスポーツとして行われることがなくなったら、銃器製造業者は軍事兵器の生産だけに集中しなければならなくなりますが、それがあなたの望む世界なのですか?」
「特定のスポーツに対し、それを好きではないというだけの理由でそれを排除しようとするような者は、オリンピックゲームに関するいかなる種類の立場にもいるべきではありません」
「銃は、金属・プラスチック・木などで作られた道具、それ以上のものでもそれ以下のものでもありません。陸上競技のやり投げで使われる槍やアーチェリーと何も変わりません。大事なのは、それを使う人の心に悪魔が住んでいるかどうか、それだけです」
「テロリストに勝利を与えてはいけません。テロを理由として私達が自らの伝統や文化を破壊することは、テロリストの勝利と同じです」

コメントを読んでいて初めて知った言葉に、「ホップロフォビア(hoplophobia=ホップ恐怖症)」というものがありました。銃器に対して、必要以上に恐怖を感じてしまう一種の精神障害を指す言葉なのだとか。似たような言葉に「アンチガン」というのがありますが、これは銃規制派が自称として使う場合と、銃規制反対派が銃規制派に対して使う蔑称としての使い方の両方があり、あまりお上品な言葉じゃないというのが実情だったりします。そういうニュアンス(差別的意味合い)を除いた学術用語として作られた言葉みたいですね。もちろんコメント内では、この記事を書いたアラン・アブラハンソン氏への言葉として使われていました。

銃を怖いと思うのは当たり前だろうとアンチガンからは言われそうですが、それを言うなら尖ったものが怖い(先端恐怖症)のも、高いところが怖い(高所恐怖症)も、人の生理として当たり前です。その「当たり前」を超えて、非合理的なまでに大きな恐怖を感じてしまい(筆記用具が怖くて触れないとか、2階以上では窓に近づくこともできなくなるとか)、時には日常生活を送るのも難しくなってしまうのが「恐怖症」と呼ばれるものです。オリンピック競技に使われる銃を見て、「あんな恐ろしいものがなぜオリンピックにあるのか! 排除しろ!」とか言い出すというのは、明らかに合理性を欠いた主張であり、恐怖症に分類されるべきものとして妥当なように思えます。

この記事に対しては、アメリカの射撃競技団体であるUSA Shootingが公式に反論記事をWebに掲載していました。次回はそちらをお届けしたいと思います。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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