マルゼン・APS-1マークスマン分解手順(ガンプロ2018年12月号連動記事)

10月末に発売されていたガンプロ12月号掲載の「タイムワープ」にて、「マルゼン APS-1マークスマンの分解手順の完全版をブログに掲載します」と告知していましたが、すっかりアップするのを失念していました。今更ですが掲載します。


APS射撃用エアガンについては一般のエアガン好きよりもずっと詳しいはずの人たちでも、10人中8人はドミネーターと間違えてしまうAPS-1マークスマン。基本的な構造やデザインはドミネーターと同じだが、細かい部分がいろいろと変わっている。その中でも、射撃競技に使おうとする場合に最も大きなものといったら、パワー(銃口初速)の違いだろう。

マークスマンが発売されるより少し前のこと。エアガンメーカーであるマルゼンはエアガン業界団体であるASGKを脱退し、新たにJASGというエアガンをスポーツに使うことを前提とした業界団体を設立、パワーの自主規制を0.4Jから0.8Jへと引き上げた。それにあわせ、ASGK時代に発売されたドミネーター(パワーは自主規制を守った0.4J)から、新しい自主規制値の0.8Jにアップして発売されたのがマークスマンというわけだ。

時系列を簡単に書くとこんな感じになる。

    1992年:APS-1ドミネーター発売
    1993年:第1回APSカップ開催
    1994年:エアガンの業界団体が分裂。JASGが設立
    1994年:APS-1マークスマン発売
    1995年:APS-1グランドマスター発売

マークスマンの発売数カ月後にグランドマスターが発売になっている。グランドマスターの性能の高さは、発売から20年以上も経つ現在においてもAPS競技において第一線で使われ続けていることからも説明の必要はないだろう。その大傑作であるグランドマスターの影に隠れ、「知る人ぞ知る」「歴史の狭間に消えた」「コレクターしか知らない」というような形容詞で語られることが多いエアガンである。
 

マークスマンの発売を告げる、当時のマルゼン広告(月刊Gun1995年3月号より)。横にグランドマスターの広告が載っている。この2丁を見比べさせられたときに、「お金を貯めておいてグランドマスターを買おう」と当時のAPSシューターの多くが思ったであろうことは想像に難くない。


マークスマン/ドミネーターは、実銃のモデルがある。1911をベースにライフル弾を撃つシングルショットのボルトアクションピストルに改造したものだ。

正直言って、競技用ピストルとしてはかなりのキワモノだ。なぜ、オリンピックのピストル射撃で使われているような純然たる競技用ピストルを製品化しなかったのか? それはおそらく、時代的なものだろう。今でもオリンピック競技用ピストルという存在の、エアガン好きの間においての知名度や人気はけっして高いとはいえないが、1990年代は今よりももっと知られていない存在だった。もしあの時代に、たとえばAPS-3のような「エアピストルそのまんま」の形をした競技用エアガンを発売したとしても、市場に受け入れられたかどうかは相当に疑問がある。あまりにも時代を先取りしすぎである。

エアガン好きの間では最も人気がある拳銃の一つである「ガバメント」をベースにした競技用ピストルを製品化する、というチョイスは、そういった時代的背景を考えると納得のいくものになる。エアガン好きなら誰でもガバメント(およびそのクローン)のガスガン、あるいはモデルガンを数丁は持っていたし、使い慣れていた。その使い慣れたガバメントそのままのグリップ角度、トリガーの引き味、セフティの操作で扱うことができるというのは、それだけでセールス的には大きなアドバンテージだったのだろう。

しかし、「下半分はガバメント」という実銃のメカニズムをそのまま継承しているため、マークスマン/ドミネーターの分解手順は、かなりのハイレベルで面倒くさく、複雑なものになってしまっている。ググってみてもこのエアガンの分解手順を詳しく説明しているサイトはないようだ。なので、ガンプロ記事を書いた時に撮影した写真を流用し、誌面には掲載しきれなかったものも含めて「マークスマンの分解手順・完全版」をお送りしようと思う。
 

まず、コッキングして安全な方向に銃口を向けて空撃ちして安全確認した後、マガジンおよびリアサイトを外す。なお、写真マークスマンはオークションで購入したものだが、購入時点で前後サイトが欠品していたので、グランドマスターMkIIのリアサイトベース兼マガジンを取り付けてある。


グリップパネルを外す。パックマイヤー風のラバーグリップが付いていたドミネーターと違い、マークスマンは木目調のプラ製グリップが付いている。「どうせAPS競技に使う人はグリップをいじるのだから、デフォルトで着いてるグリップパネルは安物でいいだろう」的な割り切りがあるのかも。


左側のグリップパネルを止めているネジのうち、上側のネジはサムセフティ・プランジャーのハウジングをフレームに固定する役割もある。グリップパネルを外したらすぐにこのハウジングも外しておこう。くれぐれもバネを飛ばさないように注意。


サムセフティを外す。ここはガバメントの分解をしたことがある人ならなれたものだろう。角度を変えてグニグニと引っ張ると取れる。


メインスプリングハウジングに相当する部品を止めている2本のピン(赤矢印でしめしたもの)を抜く。


メインスプリングハウジングとグリップセフティが外れる。グリップセフティは、ドミネーターでは機能しないただの飾りだったが、マークスマンではちゃんと機能し、握り込まないとトリガーがロックされるようになっている。


フレームの右側から左側へ、ハンマーピンを押し出す。


ハンマーを外す。ハンマースプリングは(実銃のガバメントと違い)ハンマー軸に取り付けられた小さなヒゲバネになっている。ハンマーはトリガーを引くとパチンと倒れるが、実際の撃発にはなんの関わりもない単なるギミックになっている。


ガバメントでは「スライドストップ」と呼ばれる部品は、ガバメントと同様にディスアセンブリーレバーを兼ねている。右側から左側へ叩き出す。かなりキツくハマっているので注意。


スライドストップ(に相当する部品)を外すと、上下が分割できる。


グリップパネル留めネジの受けとなっていたナットが落ちてくるので、なくさないように回収しておこう。


銃身を下から支えるパーツ(フォアエンド)を留めている、小さなプラスのネジを外す。ここらへんはグランドマスターと同じ手順だ。


フォアエンドを前方にスライドさせて外す。


シリンダーを後方から固定している六角ボルトを外す。


スライドを後方に引っ張り、写真のように傾けて本体から外す。


アウターバレルを掴み、シリンダーをしっかり持って前後に力を入れて引っ張ると、図のようにアウターバレル(およびチャンバーブロックとインナーバレル)が前方にゾロっと抜ける。


シアスプリングやセフティ関連パーツの配置。


シリンダー内のスプリングガイドを本体に固定しているバー(一般的にはシリンダーリリース等と呼ばれることが多い)を外す。まず、写真のようにピンを叩き出す。ここもかなりキツくハマっているので注意。


その後、シリンダーリリースにある穴に細いドライバーかピンポンチなどを差し込み、下方向にぐっと押してスライドさせて外す。


他にシアピンなども全部外してようやく、シリンダーがレシーバーから外せる。


レシーバー内部でのシアの配置。コッキングすると一番上にある楕円状のパーツ(シアA)の上部にあるツメがピストンに引っかかって支える。トリガーを引くと、左にある直線が折れ曲がった形をしたパーツ(シアB)の一番下にある半円状に少し盛り上がった箇所が左から右へと押される。シアBは反時計回りに回転しシアAとの噛合いが外れ、シアAが反時計回りに回転してピストンが開放され、ピストンが前進して弾が発射される。


バレルアセンブリの分解。マークスマンのインナーバレルはドミネーターに比べて大幅に肉厚が薄くなっている。バレルは厚いほうが振動を抑えて命中精度は上がるというのが定説だが、あえて薄くしたのは、おそらくドミネーターに対して「重すぎる」というユーザーからの声が多く、なんとか軽量化することでユーザー層を増やそうという考えがあったのではないかと思われる。


なお、ドミネーター/マークスマンのアウターバレルとレシーバーの接合部分のデザインは、APS-1グランドマスターと完全に共通になっている。給弾口の位置も同じなので、全くの無加工でグランドマスターのアウターバレル&インナーバレルが取り付け可能だ。フロントサイトが高くなった分は、リアサイトをグランドマスターのものに交換することで対応可能。こちらの取り付けネジの寸法・位置もグランドマスターと完全共通なので、なんの工夫も加工も必要なく、「外して、付け替える」だけで交換可能である。

先日参加させていただいた富士見APS年忘れ射撃会では、「APS非認定銃はAPSカップのルールそのままで撃てるが、認定銃を使う場合はいろいろとハンデ付き」というルールだったので、「マークスマンにグランドマスターのバレル一式とリアサイトを付けたもの」という、およそルールの範囲内で最も有利になれると思われる最強に卑怯なエアガンを用意して臨んでみた。トリガー周りには手を入れなかったものの予想以上に精度が出ており、シルエットは10m以外はすべて落とし、ブルズアイは87点とまあまあの成績。プレートだけは(普段全く撃ってないこともあり)5枚しか倒せず、135-1xで結果は4位。とはいえ「ドミネーターがメインだった時代のAPSカップだったら、表彰台はほぼ確実、もしかしたら優勝」なレベルのスコアで、改めてポテンシャルの高さを思い知らされた。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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