Q.銃所持率が高ければ、銃による死者も多いのは当たり前だよね?
A.当たり前どころか、全く事実ではありません。
……もしかするとフェイクに騙されてるのかも。
世の中には、銃はそれを手にするだけで誰でもが殺人衝動に駆られるムラマサブレードめいた悪魔の道具である――と固く信じている人たちというのが一定数存在します。彼らは主張します。銃を減らせば、犯罪は減るのだと。 一見すると、それは議論の余地なく自明のことのように思えます。しかし現実を見ると、必ずしもそうではないことが分かってきます。銃の所持率が高い国または地域であっても治安が良いところもあれば、けっして銃の所持率が高くはなくても悲惨なほどの犯罪発生率の高さをキープしている国もあります。
そのことから間違いなく言えるのは、治安の良さは単純に銃の所持率だけによるものではないということです。 そこから先については、さまざまな議論があり結論を簡単には出すことができません。銃があることにより防がれる犯罪と、銃があることにより起きる犯罪は、どちらの数の方が多いのか? もっと視野を大きく持てば、銃が治安の良さに貢献している度合いはどのくらいあり、それは治安の悪さをもたらしている度合いと比べてどのくらい大きいのか、あるいは小さいのか? といった内容については、相反する2つの意見があります。現実の結果を見ても、銃規制を緩和したことにより治安が回復した例もあれば、その逆もあります。
しかし今回は、「民間での銃所持が治安に貢献する度合い」といった内容については触れません。単に、銃の所持率と銃による死者数には相関性があるのか、それともないのかについて述べます。
あるQ&Aサイトで、「銃による死者数を減らしたければ、銃規制によって銃の数を減らせばいい。統計がそれを裏付けている」と主張する人を見かけました。その人は、あるグラフを掲載しているサイトへのリンクを参考資料として挙げていました。そのサイトがコレです。
40カ国くらいの、銃による死亡者数と銃の所持率(ともに10万人あたり)を分布図にして、その2つには相関関係があることがこのグラフからはわかる――と主張するものです。なお参考にしたサイトがあるとのことでリンクが掲載されていますが、クリックしてもリンク先不明となります。
グラフには、相関関係があることを示す直線が当然のように左下から右上にかけて引いてありますが、正直、この線の引き方はムチャです。線を取り払って分布図だけを見れば、死亡者数・所持率ともに他の国とは全く別の場所にポツンと存在しているのがアメリカであり、その他は相関関係もなにもなくランダムに散りばめられているだけに等しい状態だということがわかります。
それともうひとつ、むしろこちらの方がはるかに重要なことですが、アメリカよりも遥かに「銃による死者数(人口比)」が多い国はいくらでもあるはずなのに、それがグラフには描かれていないのです。このグラフでも参考文献として上げられているWikipediaの「銃による死者数の各国比較リスト」を参考に、データが示されているすべての国をグラフ上にプロットすると、こんな具合になります。
どうでしょうか。この分布図に、先のサイトのように相関関係を示す線を描き入れることはできますでしょうか。私は、そんなことはできないとしか思えません。この分布図から見て取れるのは、「アメリカは、他のすべての国と比べても、突出して銃の所持率が高い国である」ということと、「銃の所持率がそれほど高くなくても、銃による死者数が極めて多い国というものが世界にはいくつか存在する」ということだけです。
分布図から削除された国が、統計に加えるには不都合があるほどに特殊な例だというのならまだわかります。例えば人口が極端に少なく、たまたま発生した数件の殺人事件が人口比での死者数を大きく押し上げていたのなら、その国をグラフから排除する理由としては、まあ適切であると言えます。削除されている国の中には確かにそういう国もあります。
しかし、国別統計を示すにあたって「この国が入ってないのはおかしいだろう」としか思えない国もいくつもあります。例を挙げると、フィリピン、メキシコ、ウルグアイ、ブラジル、ベネズエラといった国は、人口でいっても経済規模でいっても「削除しても構わない取るに足らない極小国」とはとても言えません。もちろん、それらの国をグラフ内にプロットするだけで、「相関関係」はあっけなく崩れ去ります。
「銃があるから、銃による死者が増えるのだ」と主張する方々にとっては、すべての国をプロットしたグラフは都合のよいものではないのでしょう。自分が信じる「相関関係」を示すためには、自分にとって都合の悪い国をグラフから意図的に省く必要があったはずです。グラフの左下から右上に向けて線を引き、その線から大きく外れた「自分の説に不都合なデータ」を削除する。これで自分が望む「相関関係」の出来上がりというわけです。
これは、フェイクであると断言してしまっても構わないのではないでしょうか。