Categories: 射撃のコツ

はじみつ(1)~APS-1 or 3を買ったらすぐにやること

マルゼンのAPSシリーズは、「10mまでの限定された距離において、もっとも高い命中精度を発揮する」ことを主眼において開発されたエアガン。そのなかでも「APS-1グランドマスター」は、メーカー自身が「この製品は、購入した時点でAPSカップにおいてグランドマスター相当の点数を撃てるだけの性能を持っている」という意味で名付けた自信作だ。

実際、APS-1グランドマスター(以下、APS-1 GM)は発売されてずいぶん経つが、「10mまでなら最も高い命中精度を持つ」という評価は、ほぼ揺るぎないものとして定着している。優れたトリガーシステム、独自のスプリング/シリンダー内径バランス理論、ダブルパッキンシステムなど、APS-1 GMがエアガン界においてのエポックメイキングとなった点は枚挙にいとまがない。

ただし、これをピンポイントシューティングはもちろんAPSカップにおいても、実銃のエアピストルと同様に片手撃ちで精密射撃を行おうとする場合、どうしてもここはなんとかしておかないとならない点というのは存在する。欠点といってもいい。普通は「カスタム」といったら使っていくうちに不満点を見付け出してそこをなんとかするために改修を加えるものだが、APS-1 GMの「欠点」については、買ったらすぐに手を入れて改修してしまっても構わない、いやむしろ撃つまえにまず手を入れてしまうべきだ。

改修点は上図で示したとおり、全部で3箇所ある。順番に見ていこう。

A.グリップセフティの排除

APS-1 GMにはグリップセフティが付いている。グリップを握ったときに親指と人差し指の中間にあたる位置で押しこむ形になるボタンがグリップ後部についていて、それを押し込んでいないとトリガーがロックされていて引けないようになっているというものだ。一般に売られているエアガンに比べて大幅にトリガーが軽いAPS-1 GMだけに、机の上に置いてある銃を手に持っただけでトリガーに触ってしまい暴発、なんてことにならないように、しっかり構えてターゲットに銃を向けるまでトリガーを引けないようにすることで事故を防止しようという意図があったのだと思われる。

だが、これは余計なお世話だ。ピストル射撃においてグリップからバネで押し出されていて手のひらの一部を圧迫してしまうような部分があるというのは、悪い影響を与えることはあっても良いことなど一つもない。よりによってその場所がグリップ後部、手のひらの中央部分に当たる場所にあるというのも良くない。このグリップセフティをしっかり解除するために力を入れてグリップを握り込んだりする癖が付いてしまったりすると、もう最悪だ。

APS-1 GMのグリップセフティは、購入して箱から出したらすぐに解除してしまおう。解除方法は、面倒な方法から簡単な方法まで何通りかある。グリップを外してグリップセフティを後方に押しているバネを外し、グリップセフティが押し込まれた状態で接着剤かなにかでくっつけてしまう方法。分解するのが面倒なら、バネが付いたままでもいいからグリップセフティを押しこんで接着剤を少しだけ隙間に流しこんで固定してしまう方法もある。一番簡単なのは、輪ゴムを使ってグリップセフティを押された状態のままぐるぐる巻きにしてしまう方法だ。これなら輪ゴムを外せば元に戻るから、他人に借りた銃(シューティングレンジのレンタルガンとか)でも遠慮無く行える。

B.トリガーを後ろに下げる

APS-1 GMのトリガーは、前後・上下、さらに左右への回転と、様々な位置・向きに調節が可能だが、前後位置に関しては「最も後退させた状態(射手に近づけた状態)」であっても、ほとんどの人にとっては前すぎる(遠すぎる)トリガーとなってしまっている。グリップが大柄なこと、シアメカニズムのレイアウトなど、いろいろな理由があるのだと思われるが、実際にこの「遠すぎるトリガー」のせいでグリップの握り方がヘンになってしまっていたり、トリガーの引き方に悪いくせがついてしまっている人を見かけることも多い。

まず、トリガーはなにを置いても一番後退した位置にする。それでもまだ遠い場合(多くの場合、遠いだろう)、一部を削ったりするなどでさらに近づけたりする必要が出てくる。さして難しい加工でもないのだが、「削り」が入るとなると、とたんにハードルが上がってしまうと感じる人も多いかも知れない(レンタルガンだと無理だし)。

そこで誰でもできる簡単な方法として、トリガーシュー(指にあたる部分)の前後をひっくり返してしまうという裏技を紹介したい。これなら付属の六角レンチで、誰でも数十秒もあればできる加工だ。もとに戻すのも簡単だからレンタルガンでも遠慮無くできる。

トリガーシューが湾曲していて指のカーブに沿うような形になっているのは、トリガーを引くのにすごく大きな力が必要になるリボルバーとか狩猟用ライフルなら意味があるが、ちょっと触れただけで弾が発射される競技銃では必ずしも必要ではない。むしろ、こういうふうに「小さい突起だけを指に当てる」形になっている競技用トリガーというのはけっこう多い。(のちのち説明するが)毎回同じ位置でトリガーに指を当てるというのは上達のためには重要なことの一つだが、それをやりやすくするためのカスタムパーツの一つでもある。

前後をひっくり返したトリガーは見た目はちょっと変だが、実際に撃ってみると意外に撃ちやすい。裏技めいてはいるが、誰でも簡単にできるトリガーカスタムとしてオススメしたい方法の一つだ。

(2019.03.15追記)
グランドマスターの遠すぎトリガーに困っていたおててちっちゃめシューターの皆様に朗報です。蔵前工房舎さんからトリガー位置を大幅に近づけることができるパーツ、その名も「チカイトリガー」が発売されました。前後上下ひっくり返しトリガーよりも、よっぽど見た目的にも機能的にもスマートですね!


注意:トリガーは、左右方向に斜めにしないこと。
APS-1 GMのトリガーの調整範囲は広く、前後位置の他に、左右への回転をさせることもできる。ノーマルだとトリガーが遠いので、ついつい少しだけ右に回転させて指にフィットするようにしてしまいたくなる人は多いようだ(実際、そういうふうに調節しているひとを良く見かける)。

これは、絶対にやっちゃいけない。トリガーは真正面を向いた状態で固定。左右方向に斜めには振ってはいけない。理由はのちのち説明するけれど、とりあえず今の段階では、これは絶対に守らないとダメな決まりだと考えておいてほしい。もし少しでも左右に回転させてしまっている人がいたら、たとえその調整方法で何年も撃っていて「これで慣れてるから…」という場合であっても、今すぐに真正面を向いた状態に直したほうがいい。

C.ヒールレストを限界まで上げる

グリップを握った手を下から支える形になる部品がヒールレスト。競技銃にしかついてないパーツだ。これは、グリップを握ることができるギリギリのところまで上げて、手をぎゅっと上下から挟みこむ形にする。撃ち終わったあと、手首の小指側(ヒールレストが当たる場所)に痕がつくくらい。長く撃ってるとそこにタコができて皮が厚くなっってくるくらいに強く挟みこむ。

一番上まで上げてもまだ余裕があるという場合は、削って可動範囲を広げたり、ヒールレスト側にパテを盛るなどして隙間を無くしていく。ただ、逆側(グリップの上側、親指と人差し指の間に当たる部分)にパテを盛るのは基本的にNGだ。また、手のひらが当たる部分(右利きの場合はグリップの右側面~後方にかけて)も、手のひらにぴったりとくっついている必要はなく、そこにパテを持って隙間をミッチリ埋めてしまうのは悪影響がでる場合もある。

パテを使ってのグリップ調整は、まずはヒールレストの上下方向のみにとどめておいて、他の部分に手を出すのはもうちょっと後にしよう。

● APS-3の調整

APS-3に関しては、グリップセフティなんてものは最初から付いていないし、トリガーの調整範囲も広く前後位置で苦労することもない。かなり良好なデザインとなっているので、APS-1 GMの時のような致命的な欠陥めいたもの(手を入れずにそのまま撃っていると、どんどん下手になってしまうような部分)は存在しない。

ただし、ここだけはやっておいたほうがいいという箇所はある。グリップに、ちょっと余計な盛り上がりが一箇所だけ残っているのだ。

左図において、赤矢印で指している青く塗った部分、ここである。手のひら全体がグリップにしっかりと吸いつくようなデザインになっていて、それはそれで素晴らしいことなのだが、問題は銃を撃つ時には「トリガーを引かなければならない」ということ。

ただ銃を持って構えて標的方向に向けるだけならこのデザインでもいい。だが弾を撃つためにはトリガーを引かねばならず、トリガーを引くためには人差し指に力を入れなければならない。手の指そのものには筋肉が付いていないため、指を動かすのには腕にある筋肉を使い、腱(ワイヤー)を使って筋肉の動きを指に伝えている。そのワイヤーは手のひらを通っている。そのため、指を動かすと、どうしても手のひらの一部が勝手に盛り上がったり動いたりしてしまうのだ。

そのため、競技用ピストルのグリップでは「人差し指と、人差し指に関連する手のひらの腱が通っている部分は、グリップにはいっさい触れない」ようなデザインにするのが絶対の基本となっている。APS-3のグリップはノーマルの状態だと、人差し指そのものは大丈夫だけれど、手のひらの人差し指に繋がる腱が通っている部分がグリップに強くあたってしまう。このデザインだと、銃をターゲットに向けて、さあトリガーを引こうと力をいれたとたんにグリップに力が加わり、銃が動いてしまうということになりやすい。

それを防ぐために、グリップを少しだけ削る。グリップ後部から、人差し指が通る部分までなめらかにカーブが繋がるようにして、握ったときに手のひらの「人差し指関連のパーツ」がいっさいグリップに触れないように加工してやろう。

この加工をすると、ただ握って構えただけの状態では、手のひらへの密着感が薄まり不安定さが増したような感じがするかもしれない。だが、そこから的を狙ってトリガーを引いてみると、加工前の「力を入れるとサイトが揺れる」という感覚がなくなり、人差し指だけが他の指から独立してトリガー単体に力を入れられるようになったことが実感できるはずだ。


これまで書いた射撃入門記事や、受講した射撃講習会・メンタルトレーニング講座で得た知識などをまとめて、「ピストル射撃入門」としてKDP(Amazonの電子書籍)として販売しています。

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池上ヒロシ

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