ワルサーの新型エアピストル、LP500……これは最上位モデルの「Walther LP500 Meister Manufaktur」です。以前から「スパイ画像」的なものは少しずつ表に出てはいましたが、正式な形として発表されたのはつい先日のIWAが初だと思います。
現在、エアピストル競技の世界において主に使われているのは「プリチャージ式」と呼ばれる方式のものです。圧縮空気式とも呼びますが、銃身下にある太い筒=エアシリンダーの中に空気を超高圧で詰め込み、そこから少しずつ高圧ガスを取り出して弾の発射に使うというものです。
かつてエアピストルに広く使われていたCO2(二酸化炭素)は、常温(20℃)では40気圧ほどで液化しそれ以上はどれだけ詰め込んでも(タンク内がいっぱいになるまでは)その気圧以上にはならないというありがたい特性があったため、かなりの量を詰め込んでも40気圧で済んでいました。しかし空気はいくら圧力を高めても液化してくれません。詰め込めば詰め込むほど、うなぎのぼりに圧力が高まっていきます。エアピストル競技に必要なだけ、具体的には100~130発程度を撃てるだけの空気を詰め込むと200~300気圧にもなってしまいます。
この「200気圧」という数字は、かなり常軌を逸したレベルの超高圧です。本来ならば、特別な取り扱い免許がなければ軽々しく扱うことが許されないレベルの危険物です(少量であるからという理由で見逃されている状態のようです)。少し大げさな書き方にはなりますが、ちょっとした爆弾みたいなものです。
そのため、プリチャージ式のエアピストルにおいてエアシリンダーは、最も取り扱いに気を使うべきデリケートな部品となっています。公式ルールでも「製造から10年が経ったシリンダーは、使用してはならない」と定められているほどです。故障などが起こっても国内で分解してパッキン交換をしたりとか、やってやれないことはなさそうではあるんですが、やっちゃダメってことになっています。必ず、製造国に送って修理です。
エアピストル用の超高圧シリンダーの多くは、アルミで作られています。デリケートな部品ですからエア漏れしたりといった小さなトラブルは、自分自身も含めて何度もありますが、爆発したとかそういう重大な事故は今のところ聞いたことがないので、「アルミ製だから脆弱である」というようなことは特にないと思います。しかし、このたびワルサーが発表した新製品では、「エアシリンダーがカーボンファイバー製」であるということがウリの一つとして大々的にアピールされています。カーボンファイバーは、「軽くて頑丈」ということでは確かに比類なく素晴らしい特性を持った素材ではあります……が、エアピストルのシリンダーに使う必要性というのはどれほどあるのか? メリットは? 逆にデメリットは?
海外射撃掲示板「TargetTalk」において、LP500について語り合っているトピックがありました。意外にも、そこは「ワルサーの、これまでの悪行」について恨みつらみをぶちまける場に近い状態となってしまっていました。
ワルサーの新型、LP500について考えてみよう。
引用元:Thoughts on the new Walther LP500 models?(Target Talk)
- フラッグシップモデルとして登場すると思われるLP500マイスター・マニュファクトゥールは2400オーストラリア・ドル(約20万円)とかなり高価です。最も安いLP500エコノミーは約1500オーストラリア・ドル(約12万6千円)です。(国籍未記入ですが、オーストラリアなんでしょう)
- いろいろと答えづらい質問かもしれませんが……。他メーカーも追随してシリンダーをカーボンファイバー製にしてくるでしょうか?(中央アメリカ、コスタリカ)
- 絶対にごめんです。スクーバ・タンクの世界では炭素繊維がタンクを傷つけるためたった5年の寿命しかありません。(国籍不明)
- 現状ではタンクの「寿命」は10年ってことになっています。実際には販売されてる時点である程度は古くなっているのでユーザーが使える期間はそれ以下です。「新品」のタンクが5年間の使い捨てができるほどに安くなってくれるとは思えません。(AZスコッツデール)
- ワルサーが、「すべてが間違いだった」と判断し、シリンダーを新しく作ることを止めてしまったとしたら、何が起きると思いますか?
これこそが、私が「2年ごとにシリンダーデザインを変更し続けるエアピストルメーカー」から銃を購入することをお勧めしない大きな理由です。ステイヤーは次から次へと新製品のエアピストルを発売していますが、基本的なシリンダーデザインはずっと長いこと、変更されていません。
カーボンファイバーシリンダーはエアピストル用のパーツとして作るとしたら、それなりに高価なものになります。ピストルの重量とバランスを調整しようとする場合の選択の範囲が広くなるという利点は確かにあるのかもしれませんが、同じことはコンパクトなシリンダーでも可能です。モリーニやステイヤーは、長いあいだメジャーな大会で、ごく普通の古いアルミシリンダーで問題なく使われています。(マサチューセッツ州)
- ワルサーの公式Facebookでは、新型シリンダーについてこんなふうに書かれています。
LP500――印象的な違い
シリンダー・カーボン
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、ワルサーが長年スポーツ用品に成功理に使用してきた素材です。その高強度と低重量は、高い負荷がかかる部品に使うには理想的です。ワルサーは初めて、圧縮空気シリンダーにその特徴を生かすことに成功しました。
利点:
保証寿命:20年(最大)
重量:同等のアルミニウムシリンダーよりも20%少ない
射撃における特性:振動減衰
安全性:ワルサーは全てのシリンダーに最高圧力をかけてテストを行い、最高の安全性を確保します
もし何らかの不具合があるとすれば、それは時間だけが示してくれるでしょう。
(中央アメリカ、コスタリカ)
- 外部の規制(具体的にはISSFルール)において10年以上経ったシリンダーは使用不可と定められてしまっている以上、「保証寿命」がたとえ20年あったとしてもなんの意味もありません。ヘンメリーもモリーニも耐用年数20年のシリンダーを販売していますが、糞マヌケなISSFルールのせいで残りの10年は公式な試合では使用できません。多くの人が、10年経ったアルミニウムシリンダーは安全ではないと言ってきます。しかし私には彼らが何を言ってるのか理解できません。
加えて言うならば、ワルサーのあのウンザリするような癖――つまり、常にデザインを変更し、古いものを廃止してしまうという問題については何も解決されません。彼らが、今から30年の間、同じシリンダーを生産し続けると保証してくれるのならば別ですが。やもすると連中は5年もすれば「チタンこそが唯一の方法である」なんてことを言い出して、カーボンファイバーシリンダーの製造を止めたりしかねません。シリンダーのジオメトリーやバルブを変更しなければならないとか言い出して、再び従来製品が使えない不運を突きつけられる可能性すらあります。
そもそもの問題として、どこの誰が「エアピストルの軽量化こそが最も重要なのだ」とか言ってるんですか? 少なくても私は、軽いピストルでは安定して据銃することができません。私が空気銃を購入したとき、たいていの場合まず最初にすることは、安定させるためにウエイトを追加することです。
カーボンファイバーは、単にマーケティングの仕掛けのためだけに導入された可能性が高いです。もしワルサーのエアガンがデザイン的に優れているというのなら、オリンピックメダルの一つや二つは取ってるはずです。さて、そのメダルはどこにあるんですか?(マサチューセッツ州)
訳注:いつもは理路整然として抑制の効いた書き込みをするマサチューセッツ州の人が、珍しく感情むき出しでのワルサーヘイト発言です。よっぽど腹に据えかねることがあったんだろうなーって想像できます……。
- 優れたデザインは、別にオリンピックのメダルを獲得するためだけのものってわけじゃないでしょう。思うに、メーカーの優れた販売戦略がその役割を静かにそして確かに果たしてるだけじゃないでしょうか。
ハイレベルにあるエアピストルは、全て金メダルを獲得できるだけのパフォーマンスは持っています。トップシューターは、彼らだけが知るなんらかの理由によって自分が使う銃を決めます。
カーボンファイバーシリンダーは、(モリーニシリンダーのデジタルゲージのような)セールス・ギミックなんだろうなとは思います。時が教えてくれることでしょう。(エジプト)
訳注:モリーニのエアピストルは20年以上もほとんど設計変更なしで同じものが販売され続けていますが、わずかに変更になったのがエアシリンダーです。新型はデジタル表示で「何気圧充填されているか」「あと何発撃てるか」が表示されるというおもしろ機能が付いてます。値段もずいぶん高くなりました……が、アナログシリンダーとは完全に互換性がある上に、旧型シリンダーは製造も販売も修理も継続しているので、従来製品のユーザーが大変な思いをするということは全くありません。
- マーケティングの仕掛けであろうとなかろうと、ワルサーがエアシリンダーを革新するためにさまざまな材料を使用した……ということくらいは信じてあげてもいいでしょう。
公正な比較となる実例があります。30年以上前に登場したグロックピストルです。グロックの登場時、多くの人々は、「プラスチック製の銃」がスチール製の銃より優れているなんてことは全く信じていませんでした。しかし今日、グロックは世界中の何百万人もの人々が使用している実績のある拳銃となっています。他のすべての銃器製造業者はそれに追随してポリマー銃のバージョンを導入しました。
エアピストルが軽ければウエイトを追加することで好きな重さに調整できるが、もとから重いピストルに対してはなにもできない……というのは私にとってはとても重要なことです。
ただ、メダルに関しては……。オリンピック参加者の大多数がステイヤーとモリーニを使用し、ワルサーを使っているのはほんの数人だけです。それがワルサーがメダルをほとんど獲得できてない理由じゃないでしょうか。(中央アメリカ、コスタリカ)
訳注:まさかTargetTalkでグロックの名前を見ることになるとは思いませんでした。「新しい素材を使うことについて、当初は世間の理解を得られなかったが、時間が信頼を獲得し今ではスタンダードになっている」という例としては確かに適切です。しかしどんな変化にも「それが起きた理由」というものがあります。ただ変化すればいいってわけじゃありません。(※:写真は東京マルイ製のガスガン)
- 「ユーザーが少ない」「メダルが少ない」、さてどちらが鶏でどちらが卵ですか? トップレベルの射手は、おそらく自らが望むピストルを自由に使えるはずです。なら、なぜ彼らはステイヤーやモリーニに固執するのだと思いますか?
「時が全てを説明してくれる」のは確かでしょう。しかし私はワルサーを買うつもりはありません。それはお金を惜しんでいるからではなく、不必要かつ高価な技術に投資したくないだけです。(マサチューセッツ州)
- グロックとワルサーを比較するのなら、両社の顧客サービスも比較しなければなりません。
グロックの、自社製品に対する保証は実に手厚いものです。古い製品が壊れた場合でも同じシリアル番号の交換用フレームが供給されます。
当BBSのクイックサーチ機能を使って、「ワルサーフリーピストル基板」で検索してみてください。ワルサーがこれまで自分たちの顧客(と書いてモルモットと読む)に対してどういう態度を取ってきたか、「革新的」な新製品のために、「ドライ」で「ゼロ」なサポートを感謝を持って旧製品ユーザーに届けてきたかを思い出すはずです。(国籍不明)
訳注:ワルサーのサポート、特に旧製品のユーザーに対する「ひどい対応」については、日本の競技射撃者の中にも泣かされてきた人が少なくないくらい、有名な話です。ですがそれとは別に、「グロックのユーザー対応は素晴らしい」って評価になってるのが驚きです。ほんの10年ほど前に在米シューターの方に、「グロックピストルはありとあらゆる意味で製品として素晴らしいが、唯一の欠点は、メーカーのユーザー対応が糞だってことだ」って聞いたことがあったんですが、メーカーが心を入れ替えたってことなんでしょうか。
- 私はGyor(European Champs)でLP500を触る機会がありましたが、撃つことはできませんでした。
トリガーは機械式・電子式と交換可能な点は面白いです。電子トリガーを空撃ちしてみましたが、(Khadjibekov Artemによって設計された)トリガーの感触は好みではありませんでした。クリック中にピストルフレームに何かが揺れてぐらつく感じがあります。それが優れていると思う人もいるのかもしれませんが。
そして、あのまるで悲鳴を上げるかのようなクローム製の文字……まるで「お願い……買って下さい……私にはなんのアドバンテージもありませんが、私には大きなクローム製の文字があります……」と訴えかけてくるようなあの絶望の叫び声が! 私がワルサーの中の人なら、真っ先にあの文字を取り外します。(国籍不明)
- ときに、重要な疑問があります。実はまだこれ解決されてないですよね?
LP500の新しいフレーム、および新しいカーボンシリンダーは、従来のLP400と互換性があるんでしょうか? Nikon SLRレンズマウントみたいに。
まさかと思いますが、全く互換性がなく「相互排他的」だったりするんじゃないですよね!?(国籍不明)
最後のソレ! この製品を購入候補に入れている、あるいは「入れてもいいかなーって思ってる」人が一番気になるのはそこだから!