Categories: トイガン射撃

APS-3、コッキングできない問題

最初に対処方法から。グリップの上にある、コッキングするときに開けて後ろに引くレバー(パーツリストでは「アッパーカバー」)を後ろにいっぱいに引いたままの状態で、トリガーを2~3回カチカチと引いてみてください。銃の中でカチッって小さい音がすると思います。そうすれば、開けたレバーから手を離すとそのまま閉じてしまう(開きっぱなしになってくれない)トラブルの多くは一時的に起こらなくなるはずです。

「APS-3のコッキングができなくなる」って相談を時々受けることがあります。LEモデル(特に2015)の初期ロットでは頻発したそうですが、そうではないノーマルのAPS-3、それも新品でも発生することがあるとか。

その、「コッキングできなくなる」という症状が下記の通りの症状なら、多くの場合「これだけで解決できる」というやり方があります。

  1. 開いたレバーから手を離すと、そのまま閉じてしまう(正常なときのように開きっぱなしになってくれない)
  2. コンプレストレバーを動かしても空気が圧縮される感触がなく、もちろん撃てない

こういう状況の場合、高い確率で「ストライカー後退時に、シアAが上昇してくれていない」のが原因です。
 

図で説明します。まず左図が最初の状態。コッキングせず、トリガーにも触っていない、つまり「箱の中に入ってる状態のAPS-3」です。この状態では、シアB(図でオレンジ色に塗った部品)はシアBスプリングによって、シアAの「ツメの裏側」に押し付けられた状態になっています(赤丸で囲った部分)。


レバーを引いてコッキングした(ストライカーを後退させた)状態です。正常な作動では、シアA(図で水色で塗った部品)はシアAスプリングの力で上昇します。シアAとの噛み合いが外れたシアBは反時計回りに回転します。


この状態(正常な作動)からレバーを戻すと、シアAのツメがシアBの上面に乗っかる形になってそれ以上下降せず、シアA上面の出っ張りがストライカーの溝に入って支える形になり、ストライカーがそれ以上前進しなくなる、つまり「コッキングできた」状態になるわけです。
 

ところが、シアAとシアBの噛み合いが外れないためにシアAが上昇してくれない状態になることがあります。シアAとシアBの接触面(赤丸で囲った部分)の摩擦が大きすぎて、シアAスプリングの力ではそれを外すことができなくなってしまうのが原因です。


この状態になってしまうと、レバーを戻してもストライカーは引っかかるものがないのでそのまま最後まで前進してしまう、つまり「コッキングできない」状態になります。

なぜこういうトラブルが起きるのか? シアAが上昇する力はシアAスプリングによるものですが、図を見ればわかるとおりシアAスプリングはシアAの回転軸に近い場所に接しているため、テコの原理によりスプリングの強さに比べてシアAを回転させる力そのものはとても弱くなっています。シアA・Bの噛み合いは僅かなものですが、ちょっとした部品の角度や、潤滑具合などによって意外に強く噛み合ってしまうことがあり、シアAスプリングの力ではそれに対抗できなくなってしまうことがあるのです。

LE2015ではトリガープルの2ndステージを重くするためにシアBスプリングをノーマルのAPS-3よりも強いものに変えられているため、シアA・B間の摩擦がさらに大きくなっています。そのため、コッキング時にシアA・Bの噛み合いが中途半端に外れて、シアAが「ギリギリでシアBのカドに引っかかった」状態でストライカーの前進を止めてしまい、ちょっとした衝撃、例えばコンプレストレバーを開け閉めしただけで引っかかりが外れてストライカーが前進する=暴発してしまうという、初期ロットに発生したトラブルの原因となりました。

どうすれば解決できるのでしょうか。この状態になる理由はシアAが上昇する力が足りないことです。なのでシアAスプリングを強いものに変えればとりあえずは解決します。LE2015の改良版がその方法を使っています。ただ、この方法にも欠点があります。シアAの上面が常に強い力でストライカー下面に押し付けられている状態になるため、コッキング時や射撃時にストライカーを前後動させるたびに、そこに強い摩擦が生じてしまうのです。ストライカーがノーマルの亜鉛ダイカストのままだと、シアAに削られることによる摩耗がかなり顕著になります。使い込んだLE2015を分解すると、ストライカー下面が原型を留めないレベルですり減っていることがあります。
 

根本的に解決しようとするなら……あくまで構想段階ですが、たとえばこんな方法があります。シアAとストライカーの形状を変更した上で、シアAスプリングを押しバネではなく引きバネに変更します(フレームの形状変更も必要です)。


ストライカーをいっぱいまでコッキングすると、ストライカー後方の継ぎ足した部分が、シアA後方の継ぎ足した部分に当たり、シアAを強制的に上昇させるという仕組みです。


これは、あくまで頭の中で考えただけの構想であって、試作すらしてないものです。カスタム受注なんかしてません、念のため。もし目論見どおりに作動すれば、シアA・Bスプリングの強さのバランスによって作動不良が起きる可能性がなくなりますし、ついでにシアAがストライカーに押し付けられなくなるので摩擦が減りストライカー前進スピードが安定するメリットも期待できますね。たくさん撃ったAPS-3にありがちなストライカー摩耗によるトラブルも起こりにくくなるでしょう。

こんな大掛かりな改造をしなくても、簡単な手間でコッキングトラブルを解消する方法があります。ただし、ルール上の問題がありますので実行する際は注意(後述)。
 

再掲になりますが、これがコッキングトラブルが起きてる状態です。ストライカーをいっぱいまで引いてるのに、シアAがシアBに引っかかってしまって上昇してくれません。


トラブルの解消方法は簡単です。シアBとシアAの噛み合いを外してやればいいのです。レバーを引いたままトリガーを引けば、シアBが回転してシアAと離れてくれるので、引っ掛かりが外れたシアAは通常の作動と同じように上昇しストライカーの溝に入ってくれます。


改めて手順を書くと、下記のようになります。

  1. レバーをいっぱいまで引いたまま、
  2. トリガーを引き、
  3. トリガーを戻してから、
  4. レバーを閉じる。

以上の手順でシアAが上昇しないトラブルは解消できます。「2」でトリガーを引いたときにシアAが上昇する「カチン」って音が銃の中から聞こえればOKです。この記事の冒頭では「トリガーを2~3回引く」って書いてありますが、これは確実にシアA・Bの噛み合いを解くため念入りに行うからで、普通は1回引けばそれで十分なはずです。

ただ、一つだけ注意点があります。この手順をAPS競技中に行うことは、ルールで問題になる可能性があります。APSカップのルールでは「トリガーを引く」ことに対してけっこう厳しい制限がかけられているからです。

たとえシューティングレンジに入っていても、競技開始前にトリガーを引くという行為は(弾は発射されなくても)ペナルティの対象になることがあります。もし競技中にコレをやるなら、必ずジャッジに許可を求めてからにしてください(許可してくれなかったら? しかたないので競技開始してから大急ぎでコッキングしてください……プレート競技だったら致命的ですが仕方ありません)。

コッキングトラブルの多くは、この「シアAが上昇しない」ことが原因になっています。この方法でコッキングトラブルが解消できるのなら、原因は「シアBの前面と、シアAの爪の裏側との摩擦が大きくなりすぎているから」に決定です。その部分の潤滑をやり直すか、場合によっては少しヤスリかけてやるなどすれば解消できるでしょう。

ただ、このやり方で解消できないコッキングトラブルもあります。ストライカーやシアAの摩耗など他の原因がある場合、部品交換などを行わなければトラブルは解消できません。あくまで「よくある原因の一つ」と考えてください。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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