競技射撃専用のライフルというのは、軍用や狩猟用のライフルを見慣れた方からすると、かなり「変」と思われてしまうことが多い形をしているものです。あちこちが微妙な位置や角度を調整できるようになっていたり、バットプレートの位置が異常に低かったり、グリップ(右手で握る部分)がストックと一体型ではなく独立して下に突き出したいわゆる「ピストルグリップ」になっていたり……。
もちろんそれの形には理由があります。全てのデザインは、「ルールの範囲内で、立射や伏射で構えた時に最も銃が安定する(身体の力を入れずに構えられる)」ためのものです。逆に言うと、競技射撃において「安定して構える=高得点を出す」ためには、軍用や狩猟用のライフルそのままの形はあまり向いていないということでもあります。
デザインというとあまりに広範囲なので「なにが正解」というのは見つけにくいものですが、銃と身体が接する部分の「位置と形」だけに絞って考えると答えは見つかりやすくなります。射撃姿勢を取った時、身体に銃が触れる場所というのは4箇所あります。銃の前方を下から支える左手が触れている「フォアエンドレイサー」、頬が触れている「チークピース」、肩が触れている「バットプレート」、そしてトリガーを引く右手が触れる「グリップ(それとトリガー)」、これで全てです。
この4箇所の位置と形さえ競技射撃に適切なものになっていればいいのです。そこで、ハンドガンであるAPS-3にパーツをいくつか追加することで、ハンドガンのものをそのまま流用するグリップ以外の3箇所を「競技銃として適切な位置に、適切な形のものを配置する」ということだけを主眼においたカスタムパーツを開発しました。
「銃として格好良い形」なんてものは全く気にしていません。正直、見た目は格好良いものとは言えないかもしれません、というか格好悪いです。けれど、構えてみればこの形をしている意味はすぐに分かっていただけると思います。右腕にも左腕にも全く力をいれずとも、銃口が標的を向いた状態でピタリと止まり、右目がサイトの真後ろに自然に収まります。狙っている位置が高い場合や低い場合でも、筋肉に力を入れて銃口を動かす必要はなく、各部に設けられた調整機能を使って「脱力した状態」で銃口が自然に向く方向を調節できます。
何度も試作を繰り返し、各部のサイズや角度などを微調整していって、ようやく「これなら十分に使える」と言える形のものが出来上がりました。細かいパーツの発注などがありますので発売は来月9月からになりますが、現時点での最終試作品でもって「APS-3ライフル化キット」の概要をお伝えします。
手持ちの工作機械の関係で、基本的に2次元な加工で切り出した板を重ねて形を作っています。メインとなるストックの構造は、MDF(木の繊維を接着剤で固めた素材)2枚をポリカーボネート板で挟み込んだものです。見た目よりかなり頑丈です。
「銃本体には手を加えなくても全てのパーツを取り付け可能」というのがコンセプトですが、こだわる方はグリップだけでも少し手を加えるといいかもしれません。上写真を見るとわかりますが、ピストル射撃のときに人差し指と中指の間に入る突起が、ライフル射撃ではちょうど人差し指の真下に来てしまい、かなりジャマです。できれば切り落としてしまいたいところです。また、ピストル射撃用グリップのままでは中指・小指が銃のグリップから離れてしまいます。その部分にパテ盛りもしたいところです。
ただ、削ったり盛ったりを全く行わなくても、「右手に全く力を入れていないのに、左手、頬、肩だけで銃がピタリと標的方向を向く」という形に調整することは十分に可能です。もともとライフル射撃では右手は銃にほとんど力を加えませんから、グリップ形状の重要度もピストル射撃ほど大きくないのです。
APSカップのライフルクラスに参加されている方の多くが、自分のライフルに何らかの手を加えています。自作のパーツや、射撃とは関係のない一般市販品から流用したパーツなど様々です。実銃の射撃競技用のパーツは値段が高いのでなかなか手がでません……が、それでも多くの人が実銃用を使っているパーツというのがあります。一つはなんといってもサイト。競技射撃用のマイクロサイトは、きちんと使いこなせればスコープよりはるかに精密な射撃ができる究極のアイテムです。
そしてそれと同じく実銃用パーツを使う人が多いのがバットプレートです。銃の後端部を肩に当てて位置を固定する部品です。銃を標的に向けるための、いわば「基準点」となる場所です。ここが正確にかつ安定して肩に接していることが、安定した構えを実現するためには非常に重要になります。
本格的な射撃競技用のバットプレートは、細かい角度や位置が調整できるようになっています。かなり複雑な構造をしていまして、自作するのもそう簡単ではなく、もちろん流用できるような市販品もありません。しかしハイクラスなものとなると、APS-3を何個も買えてしまうくらいの「物凄いお金」が一気に吹っ飛んでいってしまいます。
そういう超本格的な製品にはさすがに勝てなくても、誰でも「基準点」をしっかりと作り出すことができるために最低限必要な調整機能を組み込んだバットプレートを開発しました。
やっかいだったのはフォアエンドレイサーの固定方法です。下方向に大きくコンプレストレバーを降り出す必要があるAPS-3では取り付け方法にはいろいろと制限がかかります。ならいっそ、そのコンプレストレバーに取り付けてしまえばいいという逆転の発想で生まれたのがこのカスタムです。
最初にTwitterにUPした試作品ではどうしても前後方向のズレが生じてしまうので、いろいろと考えを巡らせた結果、左方向に飛び出した取っ手と、トリガーガードとの間にある僅かな段差を使ってガッチリと引っ掛けるやり方を開発しました。コンプレストレバーには全く加工の必要はなく、もちろん穴を開けたりもしてしませんが、かなり頑丈に取り付けができたと思います。
基本的にこのキットは、オープンサイト部門用ではなく、フリーサイト部門用です。オープンサイトを付けようとするといろいろと一気にハードルが上がります。
ドットサイトの取り付けには、写真の試作モデルではフロンティアオリジナルのマウントベース兼アウターバレルを使用していますが、他にもカスタムパーツやLEモデルなどAPS-3にマウントベースを追加する方法はいくつかあると思います。
この「ライフル化キット」は、これだけではAPSカップに対して万全の備えとなる製品ではありません。いくつか問題点があります。
1.スコープはこのままでは取り付けられない
APS-3 ORにはマウントベースがありませんので、何らかのカスタムパーツを購入する必要があります。LEモデルやフロンティアオリジナルモデルなどマウントベースがある場合でも、スコープを適切な位置に取り付けようとすると、アッパーカバーと干渉してしまいます。カバーを短く切って横に取っ手を付けるなどの改造が必要になります。
2.装弾数が足りない
APS-3はマガジン内5発です。ハンドガン部門ではプレート競技での15発が最高ですが、ライフル部門のプレート部門は(外さなければ)16発を撃つことになります。マガジンをいくつも用意するか、装弾数が多いサードパーティ製のマガジンを購入する必要があります。
3.今のところは認定シール無し
「本体に手を加えずにパーツを追加するだけのカスタム」では認定シールは必要になるのかどうか、ライフル部門のルールには不明瞭な部分がありはっきりとしたことが言えません。実際にライフル部門では自作のストックで出ている方もいるわけで本当にシールが必要なのかどうかは分からないというのが正直なところですが、要望が多ければ認定シール所得も考えています。
4.軽すぎる
ライフルの場合、前方を重くすることで構えた時に安定させる(フォアエンドレイサーを支点として前に傾こうとする銃をバットプレートとチークピースで抑える)というのが基本的な考え方になります。そう考えると、このキットを組み込んだだけのAPS-3では「前が軽すぎる銃」になってしまっています。適切なバランスにするためにはウエイトを追加する必要があります。
というふうに、より完璧なものを目指そうとするときになんとかしなければならない部分というのはたくさんあるのですが、とにもかくにも、「ちゃんとした競技用ライフルと同じように構えて撃つことができるエアガンを、APS-3に簡単なパーツを追加するだけで手に入れることができる」というのは大きな魅力だと思います。
「ほぼ完成に近い試作品」まで出来上がっていますが、販売するにあたって必要となる組立説明ページや使用方法や調整方法の解説などがまだ未完成で、さらにいくつか追加で発注しなければならない部品もあるので、実際の販売は来月9月以降になります。現在は先行予約を受付しております。発売になったら、先行予約いただいた方から優先して発送いたします。
先行予約は「あきゅらぼ通販」のAPS-3ライフル化キット商品ページまで。