7/15~16に浅草・都産貿台東館にて開催されたAPSカップにおいて初お披露目となったAPS-3ライフル。大会終了後の片付けの合間に、ショーケースから出してガンケースにしまう直前のライフルを撮影させてもらえましたので詳細をお届けします。
「APSカップにはライフルクラスがあるのに、それに使えるライフルがぜんぜん売ってない」という嘆きを聞くようになって、もう何年も経つような気がします。「JASG認定銃」でなければ参加できないという制限がある上に肝心のその認定銃が手に入りづらいというのがけっこうな問題なのは確かです。ライフルクラスはハンドガン(APS-3やAPS-1など)を改造してライフル化したものでも参加OKなので、それが選択肢に入るのなら参加への道が閉ざされていることにはならないのですが、「ハンドガンのライフル化カスタム」なんてものがどこの誰にでもできるというわけでもありません。
実は、「ライフル化したハンドガン」というのはAPSカップ・ライフルクラスではそれなりに合理的な選択肢だったりします。エアガンの精度を比べた時にAPS-2シリーズとAPS-1グランドマスターやAPS-3は、それほど大きな違いはありません。またバレルが短いハンドガンでは、BB弾が銃身内で加速されている時間も短くなるため「トリガーを引いてから、BB弾が飛び出すまでの時間」がライフルに比べて短くなる、つまり「引きブレが弾着に及ぼす影響が小さくなる」という利点もあります。
そんな「APS-3のライフル化カスタム」がマルゼンより発売になるかもしれない、という話です。先日のAPSカップ本大会において、試作品という扱いではありますがAPS-3ライフルが展示されていたのです。
本大会中はガラスケース内に展示されていたAPS-3ライフル。大会終了後に、特別にケースから出した状態の試作品を撮影させてもらえることになりました。
見ての通り、「APS-3をそのまま競技用ライフルの中に埋め込んだ」ような作りをしています。木製ストックの競技用ライフルでしたらマルゼンも過去に発売したことがありますが(APS-2のM97やM99)、このストックはそのどれとも形が違います。しかしAPS-3ライフルのためだけに新造されたものというわけでもないようです(そう判断した理由は後ほど)。
前後サイトともに金属製のピープサイトが搭載されています。過去にマルゼンからSR-2用のカスタムパーツとして発売された「プレシジョンサイト」と同じもののようです。
こちらはフロントサイト。サイトベース部分は前後サイトともに完全新造品のようです。
フロントサイトの中にはリングがあります。リアサイトは小さい穴(ピープ)になっていて、その穴とフロントサイト内のリングとターゲットの黒丸を同心円状に揃えることで照準するものです。「決まった距離にある、決まった大きさの黒丸の中心」を狙うことに特化したサイトと言えます。ターゲットが「緑色プレートの中の白いプレート」だったり、「左右に動く凸型をしたプレート」だったりすることもあるAPSカップでは使いづらさを感じることも多いサイトではあります。
「インナーバレルはどこまでの長さがあるのか」は、少なくても外見からは判断が付きませんでした。コンプレスト・シリンダーの容量などに変更がないのなら、インナーバレル長もノーマルのAPS-3と同じ程度で、外見でバレルに見える部分のほとんどはスリーブになっているのではないかと思われますが、これはあくまで想像に過ぎません。
もっとも、エアガンの場合はインナーバレルが長ければ命中精度が確実にUPするというわけでもなく、短いバレルには短いなりのメリットもあります(理由はこのエントリの最初に書いてあります)。
マガジンはAPS-3と同じく銃の右側面に5連装のものを装着できるようになっています。
中身はAPS-3そのままなので、射撃時には銃の下方にコンプレスト・レバーを大きく振り出す必要があります。ストック下面にはコンプレスト・レバーを出し入れするためのスリットがあります。
コンプレスト・レバーを出したところです。ライフルを構えながらこのレバーを操作するためには、(シューティング・スタンドを使うのでなければ)右手と肩で銃を支えながら左手で操作するしかありません。通常のライフル射撃では左手は銃に付けたまま、右手を外してコッキング操作や弾の装填を行いますが、この銃ではそれとは違う操作方法が求められることになります。
そのため、コッキングレバー(ローディングレバー)も通常のライフルとは異なり左側についています。ただし写真を見るとわかるとおり、試作品ではサイトベースに当たって十分なコッキングができない状態になってしまっているようです。
「このストックは、APS-3ライフルカスタムのために新造されたものではない」と書いた理由がコレです。チークピース前面に、ボルト操作をした際に後退したボルトが当たらないようにするための加工が施されています。ボルトアクションではないAPS-3ライフルでは必要のない加工ですから、「他の銃のために作られたストックを流用しているのではないだろうか」という推測が成り立つわけです。
バットプレートは上下位置の調節可能なものが付いています。立射姿勢で構えたときに、脇の下にバットプレート下端を入れて銃を安定させることができるようにフック状の形をしているのが特徴ですね。
チークピースは上下に調整可能な構造になっているように見えます。ただ、少し高さがありすぎかも……。
中身がAPS-3そのままなので、グリップ取り付け基部が剥き出しになってしまっています。見た目だけだとトリガーが遠すぎるようにも見えますが、実はグリップとトリガーの位置関係からするとそれほど遠いというわけでもありません……もうちょっと近いとなお良いかな、とは思いますが。
競技用のエアライフル(ファインベルクバウ602)と形状を比較してみましょう。上写真で赤色の輪郭線がバウ602です。角度の違いなどがあるので厳密な比較とはいきませんが……。
バウ602と形を比べたときの大きな違いを挙げるとすれば、まず「チークピースの高さは、ちょっと高すぎなのではないだろうか?」という点と、「フォアエンドレイサー(銃を構えた時に左手を当てて支える部分)はもうちょっと厚みを付けてもよいのでは?」という点の2箇所くらいですね。グリップの角度だとかバットプレートの位置といった、ノーマルのAPS-2などを使う際の不満のほとんどは解消されているように見えます。
全般的に見て、「APS-3のライフル化カスタム」としては、必要十分というかオーソドックスな作りだと思います。それほど奇をてらったことをしているわけではなく、ハンドガンであるAPS-3を、ライフルのように両手で持って構えてピープサイトを使って狙えって撃てるようにする、という目的を果たすために必要な最小限の要素を実現しているもの、という印象を受けました。……実際のところ、その「最小限」をキッチリと実現することってのはけっこうハードルが高いので、市販品として発売してくれるというのは多くの「ライフルでも精密射撃をやってみたい」と思っている方にとって嬉しいニュースだと思います。