Categories: 実銃射撃

【オリンピック直前企画】5分でわかるピストル射撃のルール

いよいよオリンピックが始まります。開始直前までいろいろと取りざたされてるオリンピックですが、マイナー競技である射撃にとっては「4年に一度の晴れ舞台」でもあり、ここぞというばかりにアピールする絶好の機会でもあります。

……なのに、簡単に検索してみた範囲では、射撃のルールについてわかりやすく書いているところってほとんどありません。あっても肝心な部分をはしょってあったり、あまつさえ間違えていたりするところもしばしばです。

これじゃいかん!というわけで、射撃競技はどういうふうに行われるのか、どういうふうに勝敗を決めるのかってところを簡単に解説してみたいと思います。それをしないと、「で、そもそも今誰が勝ちそうなの? というか誰かの勝ちって決まったの今?」みたいなアヤフヤな気持ちで中継を見ていただくことになってしまいかねません。
 

射撃スポーツ(ピストル射撃)の基本

空気銃を使う「10m競技」と、装薬銃を使う「50m競技」があります

空気銃といってもオモチャの銃じゃなく、鉛の弾を撃つれっきとした実銃です。10mという距離は短く感じるかもしれませんが、全員が同じ条件で、ほぼ極限まで精度が高い銃を使っての競技になるので、勝ち負けは実にシビアなものになります。

中心が一番得点の高い「ブルズアイターゲット」を撃ちます

どまんなかが10点、そこから外れるにしたがって9、8、7、6……と得点が減っていくターゲットを撃ちます。数字は「8」までしか書かれていませんが、その内側が9点、さらにその内側が10点です。中心にある一番小さい丸は10点ではなく「インナー10」、別名「X」とも呼ばれていまして、同点の場合はこの小さい丸に入った弾がどれだけあるかで順位が決定します。
サイズは、全体の四角が17cm×17cm、黒丸の直径が59.5mm、10点圏が11.5mmです。

なお、使用される標的は撃った直後に自動で採点が行われる「電子標的」です。ライトが内蔵された箱の中に、丸い穴があいた白い的紙がセットされています。上は紙標的の写真ですが、電子標的には紙標的みたいな同心円状の線は描かれていません。この箱の中に弾を撃ち込むと、弾の軌道をセンサーが感知、どこを通ったのかを正確に割り出してモニター上に表示します。

「本射」と「ファイナル」があります

まずエントリーされている全員が一斉に撃つ「本射(Qualification)」が行われ、その上位8名が「ファイナル(Final)」に進みます。基本的にTV中継されるのはファイナルだけです。
 

競技進行・本射(Qualification)

オリンピックのような国際大会では、本射は参加者全員が同じ場所で同じ時間に一斉に撃ちます。エアピストル(10mピストル)の参加人数は46名31カ国、フリーピストル(50mピストル)は41名29カ国とのことです。

本射は、60発を1時間15分の制限時間内に撃ちます。撃つペースは人によってさまざまで、30分程度で60発全部を撃ち終わってしまう人もいれば、最後の1分まで粘る人もいたりします。

本射の上位8名がファイナルに進みます。ファイナルに進むため(上位8名に入るため)に必要な点数は、過去のオリンピックをみると585くらいが安全圏、580~583が境界線といった感じです。シリーズ(10発ごと)だと、97点平均では少し危ない(582)から、さらにプラスしてもう数点あれば安心、って感じでしょうか。
 

豆知識……Qualificationってのは本来だと「予選」というような意味なので「本射」という呼び方は違和感を感じるかもしれません。これには理由があり、以前はファイナルなんか存在しなくてこの本射だけで勝敗が決まっていたのです。「試射」ではないという意味で「本射」と呼ぶ言い方がすでに定着してしまっているので、上位8名でのファイナル(決勝戦)が行われるようになった今でも「本射」と呼ばれているというわけです。

 

競技進行・ファイナル(Final)

TVで中継されるファイナルは、少しルールが複雑になります。本射と大きく異なるのは、「点数が1点刻みから0.1点刻みに細かくなる」ということと、「短い時間で少しだけ撃つ」のを何度か繰り返すということの2点です。
(あと、騒がしい実況が入るというのも大きな相違点ですね)

まずは点数から。実際に弾を撃ち込むのは電子標的なので左の紙標的のような「得点を分ける線」は標的上には描かれていませんが、採点そのものは紙標的に撃ったのと同じ形で行われます。本射では、赤・青どちらも「10点」、同じ得点です。しかしファイナルでは、赤は10.9、青は10.0といった具合に採点されます。ほとんど1点に近いほどの大きな差があるのです。

次に競技進行です。本射で撃った点数はファイナルには持ち越されません。ファイナルに入った時点で全員が全く同条件、横並びになります。まず最初に、「第1ステージ」として6発だけ撃ちます(正確には「150秒以内に3発」を2回)。この点数が基本点となります。ちなみに射座の並び順も本射での順位に関係なく、抽選によって決まります(だから射座は番号じゃなくA~Hのアルファベットになります)。

続いて「第2ステージ」に入ります。今度は、「50秒以内に1発だけ」という撃ち方に変わります。ここでの見どころになるのは、「2発撃つごとに、最下位が脱落していく」というところです。第2ステージの2発め、第1ステージから数えると8発めを撃ち終わった瞬間に、その時点での最下位は「8位が決定」ということになり、銃を射座に置いて後ろに下がり椅子に座ります。もう撃てません。その人のオリンピックはそこで終了なのです。

第2ステージの4発め、第1ステージから数えて10発めが撃ち終わると、その時点での最下位の人は7位になることが決定し、同じく銃を置いて後ろに下がり椅子に座ります。こんな具合で、2発撃つごとに1人、また1人と撃っている人が減っていきます。

盛り上がるのは残り4人になってからです。「ここから、メダリストは誰になるのか決まる」からです。射手が銃を構えると同時に観客は歓声と拍手で盛り上げます。サッカーでいうところのPK戦みたいな感じだと考えて下さい(まあ、実際には観客数も歓声の大きさも何千分の一くらいしかないんですが)。

残り2人になってから2発を撃った時点で、金・銀・銅の全てのメダルが決定し、競技終了となります。なお、仮に点数が小数点の単位まで全く同じだった場合は、「競射」といって点数が同じ2人だけで同時に1発を撃って順位を決定します。

注目選手(10mピストルのみ)

それでは、オリンピック種目のなかでもかなり最初の方に行われる10mピストル(エアピストル)に出場する注目選手を見てみましょう。開催日時は6日の10:00~、日本時間では7日の早朝3:25からファイナルが中継される予定です(NHK総合)。

まずは言わずと知れた我らが日本代表、松田知幸選手。オリンピックは3回めとなります。オリンピックではメダルを獲得できていませんが、ワールドカップなどの世界大会では、10mピストルに限ると金が2、銀が1、銅が4という成績です。本命は10日(日本時間だと10日深夜~11日早朝)に行われる50mピストルで、こちらは金が6、銀が5、銅が6となっています。

大本命なのは韓国のJIN Jong-oh選手でしょう。10mピストルでの実績は、まず2012ロンドンでの金メダルと2008北京での銀。オリンピック以外の世界大会では金が12、銀が2、銅が7という成績になっています。10mピストル、50mピストルの両方で、現時点での世界記録保持者でもあります。
Photo:ImgDad.com

他に、個人的に注目なのがウクライナのパヴロ・コロスチノフ選手です。以前、「アゴをすごい引いた状態で撃つ選手もいる」って例を挙げるのに写真を使わせてもらったことがあります。1997年生まれの19歳。ジュニアやユースでのエントリーですがワールドカップやヨーロッパ選手権などに何度も出場、2014年の南京ユースオリンピックでは金メダルを獲得しています。Photo:olympic.org

池上ヒロシ

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池上ヒロシ

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