レーザー射撃シミュレーター・各社比較

実際に弾を撃つ射撃競技は、あと数十年、へたすると数年もすればもうオリンピックの公式競技ではなくなり、レーザーを使った「安全な」射撃スポーツが公式競技になっていくのではないだろうか――

みたいな話が、そこそこ現実味のある未来として語られるようになって久しいです。もちろん、「それでは射撃の魅力のうち大きな要素が失われてしまう。そんなものは射撃とはいえない」という反対意見も強いので、そう簡単に弾を撃つ射撃スポーツが消えてなくなるってことはないとは思いますが。

日本で長年行われてるビームライフル射撃競技も、光を使った射撃シミュレーターの一種と言えます。1960年代、前々回の東京オリンピックの後に射撃スポーツの普及のために開発され、国体の正式種目として採用され全国に広まり、現在でも年少者向けの射撃競技普及に大きな役割を果たしています。まだレーザーなんて民間用としてはほぼ使われてなかった時代に作られたものなので、使っている光はカメラのフラッシュ等と同じキセノンランプ。一瞬だけターゲットを円形に照らして、その照らされた光の強さを放射状に配置されたセンサー(光電管)で検出、中心を割り出して表示機に得点とともに表示するというものです。

今後、本当に世界の射撃スポーツがレーザーを使ったシミュレーターに置き換わっていくというのなら、何十年も前から射撃シミュレーターを正式競技として採用していた日本はその先駆けとなれるのでは、と思いきや実際には全くそうはなっていません。それにはいくつか理由がありますが、一番は「オリンピックでのレーザー射撃の正式採用は、まずは近代五種からスタートしているから」というのが最も大きな理由になっていると思います。

オリンピック種目全体を見渡すと、「ライフル射撃(ピストル含む)」以外にも射撃を行なうスポーツがあります。冬季オリンピックで行われるバイアスロン、夏季オリンピックでは近代五種があります。近代五種の射撃は「コンバインド」といって長距離走と射撃が組み合わされたものになっています。3000m走をする合間(最初と1000m・2000mを走ったところの合計3回)にピストル射撃を行い、エアピストル用のターゲットの黒丸部分(7点以内)に5発を命中させることで銃を置いて再び走り出すことができる、というものです。

その近代五種の射撃に使われる銃は、もうずっと前(2012ロンドン)からレーザーピストルに置き換えられています。さっきまでお馬さんが走り回ってた場所を大急ぎで掃除してロープ張って1000mのコースを作って(選手はそれを3周します)、そしてその片隅にテント建てて射撃場を作るわけですから、たとえ空気銃とはいえ弾を撃つ銃が撃てるだけの安全を確保した射撃場なんてとても作ってられない、という事情がまずあるからでしょう。

そういう経緯があって、レーザー射撃用機材はまず「近代五種用」として作られ、そこからライフル射撃の練習または普及用として広まってくる、というのが世界的に見た一般的な流れになります。日本のように、法律が厳しいのでライフル射撃の普及のために手軽に撃てる射撃スポーツとして光線銃を使った射撃シミュレーターが開発されるというのとは全く違う経緯になるんですね。そのため、日本製のビームライフルやビームピストルは、近代五種には使えない(ルールに適合しない)ために「世界のレーザー射撃業界」からはほぼ完全に無視されている状態です。

では、その「世界のレーザー射撃業界」は今どんな具合になっているのでしょう? どこか一つのメーカーによる一つの機種が正式に採用されている、というような状況かと思ったら全然違いました。UIPM(国際近代五種連合)が機材に関する必要要件を定め、その要件を満たしていると認定されれば、どの国のどのメーカーのものでも公式競技に使用できる、というような仕組みになっているようです。UIPMのWebサイトには認定されたメーカーのリストが掲載されています。

リストにあるのは全部で10のメーカー(だがそのうち1つは詳細不明なので実質9つ)。近代五種の世界大会の様子をYoutubeなどで見ると高い確率で見る「IQ」や、ロンドン五輪で使われてた「PENTASHOT」、日本にも輸入されて販売されている「ECOAIMS」(※取り扱いはシースジャパン)なんかは見覚えがありますが、中には見たこともないメーカーもいくつか。しかしどこも、「言われたんで作ってるだけ」みたいなもんじゃなく、開発したからには近代五種の、さらには(もしかしたら将来的に)世界で行われている射撃スポーツの全てで使われるようになるかもしれない、その覇権を狙って新製品開発やコストダウン、そして各種イベントでの売り込みに超本気モードになっているようです。

そこで今回は、世界の覇権を狙ってしのぎを削る各レーザー射撃シミュレーター銃メーカーについて、各メーカーの特徴や製品の種類など、調べられる範囲で調べた情報をお届けしようと思います。


【PENTASHOT】 2011年に設立されたチェコのメーカー。近代五種用のレーザー銃開発についてはかなり初期から関わっている。
基本的に想定している対象が近代五種競技ということもあって、製品ラインナップはピストルがメインとなっている。左右兼用の樹脂製グリップがついた廉価版から、木製グリップが装着され、ウエイトの追加で細かい重量調整ができるフラッグシップモデルまでいろいろあるが、ライフルは「ピストルにストックと延長バレルを追加したようなヤツ」しか用意されていない。

左右兼用の樹脂製グリップがついた入門用(廉価版)のレーザーピストル。これは金属ボディだけれど、プラスチック製の軽量モデルもある。
木製グリップや、ウエイトでのバランス調整機能などがついたフラッグシップモデル。
エアピストルの銃身だけを交換することでレーザーピストルにできる「レーザーエミッター」という製品もラインナップにある。各メーカーのエアピストルに対応するアダプターもいろいろと用意されている。

なおPENTASHOTのレーザーピストルは日本でも販売されている(取り扱い:シースジャパン)。


【IQ-SPORT】 元祖というならこちらのほうが元祖になるのかもしれない。最初にレーザーピストルが近代五種に採用された2011ロンドンよりも前、2009年から国際大会でIQのレーザーピストルが使用されているのをYoutube映像などで見ることができる。

以前(2012年)の記事に掲載したIQレーザーピストルの写真。銃身部分がシースルーになっていて中の電子基盤やLEDなどが横から見えるデザインが、「これは弾を撃つ“危険な”銃ではなく、レーザーを使った“安全な”スポーツ用品である」ということを、これでもかってくらいにアピールしている。
現在の製品ラインナップを見ると、銃本体ではなく、既存のエアピストルの銃身と交換してレーザー仕様にする「コンテナ(PENTASHOTにおけるエミッターと同じ意味)」がメインとなっているようだ。

【ECOAIMS】 1990年代に設立されたフィンランドの会社。近代五種用のレーザーピストルだけでなく、バイアスロン用のレーザーライフルや、パラスポーツの視覚障害クラスで使用する音式スコープも製造している(日ラの射撃教室で使われているので馴染みは深い)。
ISSF系のライフル・ピストル射撃に使われている10mライフル・ピストルに代替しうるような製品は基本的には作っておらず、近代五種やバイアスロンに使われる「黒丸に当たったか、当たらなかったか」を表示する製品がメインとなっているようだ。

国内での近代五種普及イベントなどでよく見るのがここの製品だ。近代五種用のレーザーピストルというと、まずこの形が思い浮かぶ。
競技用ピストルとは別に、実用ピストル(ちょっとグロックっぽい)に形を寄せたレーザーピストルも作っている。両手でピストルを持ってコースを走りながら複数のターゲットを撃つような競技向けとして作られたものらしい。
なお、レーザーではなく、ピストルに取り付けられたカメラを使って専用標的を撮影、照準位置と撃発地点(=着弾点)を割り出してデバイスに表示する「カメラピストル」なるものも販売している。これは近代五種には使用できないが、精度が高くまた照準の軌跡が見えるため「トレーニングとして非常に有用である」とのこと。SCATTと違って、赤外線で光るLEDが仕込まれた専用ターゲットを使用する(開発中止となってしまったマルゼンのデジタルカメラピストルとほぼ同仕様)。

【Dr. Heinrich Schneider Messtechnik】 1947年設立のドイツのメーカー。超高精度の計測器メーカーとして長い歴史を持つ会社で、公式サイトを見ても射撃競技関連の情報はほとんど載っていない。近代五種用のレーザーターゲットの開発を行っているとのこと。

なぜか日本語の販売ページがあったりする。

【ALS-Shooting】 2010年にIQ社のパートナーとしてスタートしたブランドで、小型で使い勝手のいいターゲットシステムを開発・販売している。

「SmartPLT」というキューブ形状のターゲット。ヒット/ミスターゲット(当たったか当たらなかっただけ表示するもの)としてだけでなく、精密射撃用の細かい得点計算ができるターゲットとしても使用可とのこと。

【apeom】 2000年設立のチェコのメーカー。レーザーピストルの他、実銃の銃身に銃口から差し込むだけでレーザーガン仕様にできるエミッターや、ターゲットシステムなども販売。チェコのメーカーらしく(?)、CZ-75をレーザーガン仕様にした訓練用レプリカなんてものもラインナップにあったりする。また、パルディーニと提携してK12互換のレーザーシミュレーターピストルも開発している(それもあって、Wikipediaの「Laser Pisol」のコーナーには近代五種用のレーザーガンのメーカーとしてパルディーニの名前も掲載されている)。

上がapeomブランドで販売されているレーザーピストル、下がエアピストルの銃身と交換することでレーザーピストル仕様にできるエミッター(他にも銃口に差し込むだけとか、弾薬の形をしていて薬室に装填することでレーザー銃仕様にできるものとかいろいろある)。
CZ-75コンパクトの「復刻版」にレーザーデバイスを組み込んだもの。重量・形状ともに「実銃とほぼ同じ」とのこと。「一般の方や若い人の娯楽射撃に最適」なんてことが書いてある。
こちらはパルディーニのレーザーピストル。パルディーニ公式サイトにも、「apeomとの共同開発である」ことが明記されている。

昨年放送された韓国のバラエティ番組に「アユクデ」という「アイドルにスポーツをやらせてその勝敗を競う」という企画があったのだが(今年はアジア大会と日程がかぶったので休止とのこと)、数ある種目の中でもピストル射撃は特に人気で、練習してたり(けっこう長い日数をかけてガチで練習するらしい)本番の大会で撃ってたりする映像がよくSNSに流れてくる。そこで使われていたのもパルディーニのAPをベースにapeomのエミッターを取り付けたレーザーピストルだった。


公式動画と思われるものを見つけたので。韓国アイドルってとにかく顔が良いのでピストル撃ってるだけで見栄えがするのはずるい

スカパーの番組紹介ページ

なおapeomのレーザーピストルは日本でも販売されている(取り扱い:シースジャパン)。


【HiGun】 2018年設立の中国のメーカー。レーザーピストルやトライアスロン用など、スポーツ用のレーザー銃専門のメーカーとのこと。公式サイトにあるメーカー紹介文によると、近代五種用だけでなくISSF系の精密射撃においても、より安全で、銃規制の対象外のため普及がしやすく、専用の射撃場を必要とせず、弾薬代も不要、また射撃技術の分析による訓練効果向上も期待できる――といった利点が数多く挙げられており、「ISSF射撃が全てレーザーに置き換わってしまった未来」を視野に入れていることが伺える。

HiGunの公式サイトに掲載されている近代五種用のレーザーピストル。

【SUOOTER】 2012年設立の中国のメーカー。「SHOOTER」のスペル間違いではなく、「SUOOTER」が正しい綴りになる。発音は「スオータ」になるのだろうか。先日(2026年11月)のISSF世界選手権大会にて、年少者(初心者?)向けの射撃教室のようなものが開催されたようで、その報道写真にて大々的に宣伝されていたのが記憶に新しい。

ISSFの公式Xで投稿されていた画像。エアシリンダーらしきものが付いているが、銃口部分には弾を発射する穴ではなく小さい穴(おそらくレーザーの照射口と受光部ではないかと思われる)が縦に二つ開いているのが見える。

公式サイトには、ISSFの報道写真にあったカラフルなレーザーシミュレーターに関する情報は一切掲載されていないが、電子ターゲットやスマートガンキャビネット(生体認証などを用いた安全なガンロッカーらしい)、エアピストルに取り付けて用いるレーザーを使った射撃トレーニングシステム、その他データ解析やイベント運営などのソフトウェアなどがいろいろと掲載されている。

SUOOTERの公式サイトに掲載されている「レーザー訓練装置」の写真。ものすごく見覚えがある形をしているけれど多分気のせい。

【SCOREMAX】 2020年設立のオーストリアのメーカー……と国際近代五種のサイトには書かれているが、SCOREMAXの公式サイトには「1990年から競技用ピストルの開発と製造をしてきた」と書かれている。レーザーピストルの販売を始めたのが2020年で、それより前は別ブランド(?)で競技ピストルに関わってきた、みたいな話なんじゃないかなと思われるが……。
公式サイトを見る範囲では、ほぼ近代五種用ピストル専門メーカーに見える。ダイレクトトリガー(トリガーの遊びがなくトリガーに力を入れるとトリガーが動かずにそのまま撃発に至るタイプのトリガー)や、リアサイトに埋め込まれた集光アクリルなどが特徴的だ。※これは両方ともISSF系射撃では不必要、あるいはルール違反になる。

公式サイトに掲載されているレーザーピストルの写真。基本的なトリガー&シアシステムなどはステイヤーのAPを参考にしたと思われる作りをしているが、全体的なデザインなどは独自のもので、どのメーカーのAPにも似ていない独自のものになっている。

謎なのが、「グライディング・ボール」と称するデバイスだ。銃口の下部、銃を下げた時に机に触れる場所(近代五種では一発撃つたびに銃を机に触れるところまで下ろすというルールがある)に、円形の金属部品が埋め込まれている。説明文によるとこのパーツは、「サイトの調整や銃身のコントロールをスムーズにし、ターゲットへ無駄な力なく滑らかに照準を合わせる(グライドする)ための革新的な照準補助システム・機能」とのことだが、銃の説明書(PDFでダウンロードできる)にも一切の記述がない(各部パーツ説明で銃の真横写真に矢印引かれて「GLIDING BALL」って書かれてるだけ)。公式サイトのトップページには銃のパーツや透視図がスライドショーで流れるのだけれど、それを見てもグライディング・ボールの部分は「なんか斜めに穴が開いてる」以上のことは分からない。謎のパーツである。
※もしかしたら、ただバネになっていて机に叩きつけるとバネの力でビョインって跳ね返るだけだったりして(笑)

詳細説明コーナーに掲載されている写真なのだけれど、この写真以外の説明がほとんどない。この銀色のパーツのおかげで「無駄な力なく滑らかに照準を合わせる」ことができるようになるという触れ込みなのだが……。

いろいろな国からいろいろなメーカーが様々なコンセプトで「近代五種用のレーザーピストル」、そしてそれだけじゃなく「ISSF系の精密射撃のトレーニングにも使えるレーザー照準システム」を出していることがわかります。フィンランドやドイツ、オーストリアといった「伝統的に射撃スポーツが広く行われていて、メーカーも多いところ」だけでなく、中国のメーカーが相当に力を入れている点には注目ですね。

日本からスポーツ射撃用の銃を作るメーカーが生まれない理由として、「規制が厳しくて競技者が少なく、需要がないから」というのは良く言われることですが(まあ、実際にそうなんですが)、それを言うなら中国なんて日本より遥かに銃砲所持に関する規制が厳しいんですから、需要のなさってことでいったら日本以上のはずです。スポーツ射撃には力を入れていて、クラブみたいな場所に所属すれば自分で所持している特定の銃でなくてもエアライフルやエアピストルを撃てる仕組みがある、なんて話は聞きますが、それにしたって射撃人口が「ものすごく多い」ってわけじゃないはずです。なのになんで中国からレーザー射撃シミュレーターのメーカーが複数出てくるのでしょうか?

国策として力を入れているからというのは回答の一つになるかもしれませんが、本当にそれだけなのか? 「この分野は数年後、数十年後には大きな市場に育つ可能性がある。世界的に存在感のあるブランドになるための投資は、将来的にリターンが見込める有用な投資である」みたいな考え方をする人(あるいはそういう人に金を出す人)が中国には多いのではないか、そんなことを思ったりもします。

池上ヒロシ

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