今、全国481人(※1)のエアピストル射手は、自分の銃のグリップを切るか切らないかで戦々恐々となっています。2026年1月から採用された(国内では4月以降から段階的に適用されることになっている)ISSF新ルールでは許容されるグリップのサイズや形状などが大幅に変更され、かなりの数のエアピストル用グリップがたとえ純正のまま手を加えていない状態であってもルール違反となってしまうことになり、ルールに適合させるためにグリップの一部を切断することを余儀なくされているからです。
これまでにも大幅なルール変更はいくつかありましたが、試射と本射の切り替えだとか(※2)ファイナルの手順とかは人間側で対応すれば良かったのですが、グリップを切断しないとならないとなると話が別です。ルールの解釈を間違っていたとか、「やっぱりあのルール変更はナシにします」なんてことになっても、切ったグリップは元に戻せません。「ルールのこの部分はどういう意味なんだ」「どこまで加工すればいいんだ」「のちのち変更になる可能性はあるのか」と、憶測や邪推や勝手な妄想を含めいろんな情報が錯綜しています。
もちろん、これは日本国内だけの話じゃありません。エアピストル競技は世界中で行われていますから、世界中の射手が同じように混乱状態に陥っています。
ルールを作る側に近い立場の人がいたりして確度の高い情報が得られるかもしれないという一縷の望みを託して、TargetTalkの掲示板を覗いてみました。
引用元:TargetTalk “New grip design rules as per 2026?”
最初にこれを見たときはグレーゾーンを減らすためのルール変更だと思っていました。実際、ISSFワールドカップツアーで「これ、どうなんだろうなー」って思ってしまう奇抜なものを見たことがあります。しかし驚いたことに、私が所有しているほぼ無加工のグリップのいくつかは、新ルールでは違反となってしまう箇所が少なくとも1つ以上あることが判明しました。
25mグリップはポイント3に適合せず、10mグリップはポイント3と4に適合しませんでした。どちらも1~2年前に購入したRinkグリップです。とくに加工をしているわけじゃありません。買った時のままの状態です。ということは、この新しいルールが設定されることにより、多くの人が影響を受けるはずです。
ポイント3に関しては、グリップの角度によって違反になったりならなかったりすることがあると思います。自分のRinkグリップを見ると、どちらもわずかに上向きに湾曲しているので、注意すべき点かもしれません。
新しいルールが設定されてからもある程度の猶予期間があると思いますが、私は1月3日から始まるISSF公認競技に参加する予定があるので、できるだけ早めに対応策を取っておきたいと思っています。幸いなことに、10mグリップにはあまり調整が必要ありませんでした。空撃ちの際には、むしろ良い方向に変化しました。
なぜそんなルール変更がされたのか、理由についてどこかで説明されてたりしますか?(6ストリング)
しかし、おそらく彼らが対処したいと思っている問題が何かということについては、想像がつきます。これは2025年のワールドカップの放送からのスクリーンショットです。(改正前の)2025年のルールにおいて、なぜこれがルール違反でないとみなされたのか理解できません。(フォンカスタ:スウェーデン、ヴァドステーナ)
あの部分をそのくらいの角度にすると、「グリップが手首の骨より手前の腕に接触していない」ことを、見るだけで疑いの余地なく判断できますが、現状ではそうではないんですよ。Googleで検索すると、たくさんの「これ、怪しいんじゃないかな」って例が見つかると思います。カメラアングルや照明の関係で、手首より手前に接触してるのかしてないのか、どうにも判別しにくい事例が多いのです。この点は、ピストルグリップのルールに関してオンラインでよく見かける不満の一つなので、このルールは絶対に必要だったと思います。
なお切断しなければならないのはパームレストだけで、電子基板が入っているグリップベースは無加工でも大丈夫です。(KZMNT)
奇妙なことに、私のモリーニグリップのパームレストは「手首」とみなされる最後端まで達していないので、ルールにある角度を実現する最も簡単な方法は、パームレスト後端に素材を追加して延長した上で、少しだけパームレストを削るというやり方になります。(グリッピー)
私が思うに、このルールはパームレストと手首の間に十分な隙間を確保するためのものです。グリップの角度が大きいほど隙間は狭くなります。古いLP1では、パームレスト後端が大きな角度を持っていたため、審判がグリップが手首に触れているかどうか、目視で確認するのが難しくなる問題がありました。
「30度(パームレスト後端が60度)」という数値設定については、パームレストの製造を困難にするほど小さすぎず、それでいて審判の目視確認を妨げるほど大きすぎない、ちょうど良いキリの良い数値に思えます。(ゴーストリップ:ギリシャ、アテネ)
この部分を45度(または30度)にすることによって手首がより見やすくなり、審判が検査しやすくなることが主な正当化理由であるならば、このルールは「スポーツをする上での公平性を保つため」よりも、運営および管理側の利便性を優先しているように見えます。競技規則は、それがどういう機能をもたらすのかという関連性を犠牲にして管理の容易さに過度に偏るべきではありません。また、長年受け入れられてきた「ISSFルールに準拠した」グリップが、ルール変更により今後は大幅な切断を必要とする可能性があることも問題です。
原則としては賛成ではありますが、これらの角度制限は過剰であり、実際の問題からややかけ離れているように思えます。(セイミツシューティング)
それもまた、規制というものがもつ本質の一つです。そもそも、以前はホーンやパームレストの縁に関する規則は事実上まったくありませんでした。そんなものは銃に着いていなかったからです。そもそも存在しない部分の角度についてルールを設けることなどできません。とはいえ、「審判の利便のため」というのが、この新ルールによって世界中のエアピストル射手に愛銃のグリップを切断することを強いることの動機として納得のいくものだとは思えない、という点については私も同意します。(KZMNT)
また、私が見落としていなければ、ルールではそもそも、「手」がどこで終わり、「手首/腕」がどこから始まるかを、(解剖学的に)定義していない。もし本当にこの件に関心があるなら、「手首のサポート」が一体何を意味するのかをきちんと定義しようとするはずだ。手以外で銃を保持するというルール違反をしているかしていないかという重要な要素とは関連性の薄い場所の測定値に、適当な数字を当てはめるだけのルール変更が、良いことであるはずがない。
ISSFは競技の人気やイメージを気にしているように見える。であるならば、既存の(カジュアルな)競技者全員を疎外するようなルールを作るのは、とんでもない選択にしか思えない。最近エアピストルを買ったばかりの新規会員全員に、「その買ったばかりのピカピカのエアピストルは、そのままでは競技で使えないので、すぐにノコギリで切断しなければなりません」と説明しなければならないのか? グリップを自由に改造することには賛成だが、こんなやり方は許せない。(グリッピー)
既存のグリップに比較的簡単にドレメル加工できる角度ということで、その数値が選ばれたのだと思います。90度だと悪用されやすすぎた、手首との接触を曖昧にすることで違反の疑いがあるグリップが増えたという事情があります。そうでなければ、より単純でわかりやすく(また既存グリップへの加工の必要もない)90度にルールを定めたでしょう。この30度という数値を選んだことが実際に正しかったかどうかは、移行期間がどうなるかによります。実を言うと私はもうすでにグリップをドレメル加工してしまいましたが、手のひら側のパームレストの後端の形状変化はたいして気になりません。一番問題になりそうなのはむしろ、ホーンのカットオフ角度のほうです。ワルサーやFWBの射手が、加工できる表面積がほとんどない中でどうやってそれをするのか分かりません。また、審査員やクラブ主催者は、グリップの上部ホーンとして金属フレームを使用しているFWB 65や100については、すべて許可するだろうと思います。
>ほぼすべての「箱出しそのまま」のグリップ、およびわずかに改造されただけのグリップが、破壊的に改造されなければならない
これは、モリーニ社のピストル全てに当てはまることで、グリップホーンが40mm以上突き出ているだけでなく、母指球に沿った部分のカーブが上向きになっているピストルの大部分にも当てはまります。現在使用されているグリップの大部分は、何らかの改造が必要になることは避けられません。
>ルールではそもそも、手がどこで終わり、手首/腕がどこから始まるか(解剖学的に)を定義していない
そうです、手首の骨です。解剖学的な規則としては、それでも裁量の余地が大きすぎたため、パームレストの終端をより明確にする必要がありました。手の解剖学に基づいてさらに明確化することは困難だったでしょう。少なくとも私には思いつきません。
>初心者射手に、買ったばかりのエアピストルをノコギリで切れと言わなければならないのか
正直に言うと、グリップ加工はそれほど急いで行なうべきではなく、しばらく実行に移さないことをお勧めします。いろいろ返信しましたが、あなたのコメントは多くの方が興味を持って読んでいると思いますし、おそらく世界中で共有されています。何をすべきか迷っている人は、少し待って様子を見るべきだと思います。私自身、ホーン後端の45度という角度が実際にどの程度見える必要があるのか少し疑問に思っています。次の競技で審査員に十分かどうか尋ねてみます。
とはいえ、今まで普通に使っていた道具がルール変更で使えなくなることで感じてしまう疎外感ということでしたら、.22ラピッドファイアが.22ショートの使用を禁止し、それまでは使えていたピストルのほぼ全てを使用不可とする決定がされたとき、世界中のラピッドファイア射手はいったいどんなことを思ったのでしょう。ルール変更がこれだけで済んでよかった――その一言に尽きますが、それでもやっぱり、いくつかの要素が緩和されることを願っています。(KZMNT)
「30度の問題」で私が最も問題視しているのは、非常に侵襲的で、DIYが難しく、曖昧であるということです。切断しなければならないのは「パームレスト」の部分だけなのか? そうであるのなら、それはどのように定義され、グリップ本体と区別されるのですか? すべてのグリップに、取り外して研磨して元に戻せる明確な可動式パームレストが備わっているわけではありません。私は複数の無垢素材から切り出したカスタムグリップを持っています。可動式パームレストがついていたグリップも今ではパテで固定されています。では、このパームレストのアンダーカットはどのくらいの幅でなければならないのでしょうか?
>90度は悪用されやすすぎた
この部分について、私はまだ理解できません……? いったい、それがどのように悪用されるのか想像できません。「90度ではパームレストの端がどこにあるか判断できない」という主張は、私にはばかげているように思えます。文字通り直角なのに、接触点の端がどこにあるか判断できないなんて、どういうことでしょうか?
>手首の骨です
ルールの中で、手首の正確な意味について何か指定している部分が見つかりません。「手首の骨」や図などについての言及は見当たりません。単に「手首」という単語が使われています。これは英語を母語とする人にとっては曖昧さがないのでしょうか?(グリッピー)
3月に開催される全米大学選手権では新ルールは適用されないとのことですが、2027年には適用される見込みです。彼らが正気に戻ってこの混乱を収拾してくれることを切に願っています。(Gホワイト:マサチューセッツ州)
この画像は2026年1月にスロベニアで開催されたISSF国際大会のYoutube動画からのスクリーンショットです。この角度から見ると、グリップが選手の手首を支えているように見えます。しかし、グリップが装備検査に合格し、検査シールが貼られているのも見えます。この動画は、「ルール」というものが持つ矛盾を示唆しています。グリップの寸法や角度だけを規制しても、選手が実際にピストルを握った際にグリップが機能的に手首を支えてしまうということは防げない、つまり根本的な問題は解決されないということです。
このため、銃器検査ではグリップの形状についてアレコレ指標を定めてその数字に頼るのではなく、選手が実際にピストルを握った状態での目視検査と機能検査をより重視すべきだと私は考えます。もちろん、グリップの形状と角度は依然として重要であり、その重要性を否定するつもりはありません。しかし、射手の手首とグリップの実際の相互作用を評価しなければ、この画像に見られるような状況が今後も発生し続ける可能性があります。(セイミツシューティング)
「これが、ISSFがこの新ルールを作った理由である」ということが明確に分かる、そのものズバリな情報こそありませんでしたが、なぜここまで新ルールにおいて「グリップと手首(およびそこより後ろ側)の接触」に対してやたらと厳しくなったのか、ということについては十分に想像がつくやり取りを読むことができました。
グリップ形状の変更点は(図にあるとおり)大きくわけて3つですが、その3つとも、「グリップを、あまり後ろに伸ばすな、そして後端部分がどこなのか明確にしろ」という趣旨のものに見えます。なぜそんなことになったのかというと、これまでのルールでは曖昧だった部分を突くようにして「検査時では問題ないように見せておいて、実際に握ると思いっきり手首をサポートする形になってるグリップ」を使用する射手が続出したせいだ、ということが伺えます。
ファイナルの映像がYoutubeで中継され、個々の選手が銃を手にして構えているところがアップで映されるようになって、「あれ? これ駄目じゃね?」としか思えない映像が全世界に配信されるようになりました。その映像を見た人たちは、映像からキャプチャをして共有して「これはどうなんだろう」と問題提起をしたり、またYoutube映像だけでなく報道写真などからも怪しいグリップの使用者を見つけ出して情報共有をしたりするようになりました。
※実際に私のところにも「このグリップってどうなんですか?」って(国際大会の)写真が送られてきたりしたことが何度かあったりしました。
そういった、中継映像を見て「これルール違反だろ」って文句をつける人たちのことを、記事中では「ネット警察(原文ではキーボード・ウォリアー)」なんて呼んでいました。あまり良いニュアンスの単語ではなく、どちらかというと、「安全なところからやいのやいの言うだけで自分は責任を取らない連中」みたいに軽蔑感情を込めた呼称に見えます。しかしここで大事なのはその振る舞いのあり方が美しいかどうかじゃなく、彼らが指摘している内容に検討すべき部分があるかどうかです。
「競技用ピストルのグリップが手首に触れているかどうか」は、そこまで大事なことなのか? はい、そこそこ大事なことです。ピストル射撃というのは、「片手だけで銃を保持し、狙って、トリガーを操作して発射する」というところが、最も難しいところであり、面白いところであり、魅力でもあります。グリップの形状を工夫して手首や腕で銃を支えるような構造にしてしまおう、という行為は、その大前提を破壊してしまいかねないものであり、何としてでも排除しないとならない「チート(ズル行為)」と言えます。
おそらくはチートの排除を目標として定められたと思われるこのルール変更によって、何が起きるのか? このトピック内でも大勢の人が嘆いているとおり、自分のエアピストルのグリップをかなり大胆に切断しなきゃならないという悲劇です。長年愛用していて愛着のあるグリップに手を加えなきゃならないというのも悲劇ですし、念願かなってようやく手に入れたピカピカの新品エアピストルのグリップにノコギリを入れないとならないってのも悲劇です。指導者の立場にあって何十個もグリップを所有してる人にとってはもう物理的な悲劇以外のなにものでもありません。
その悲劇は誰のせいでもたらされたのか? 「現場を知らないISSFの中の人」のせいなのか、「ルール違反っぽく見える写真をネットから探し出して糾弾する正義ヅラしたネット警察」のせいなのか、「ピストル射撃というスポーツの根幹を脅かすようなルール違反を審判からバレないように巧みに行なっていた何人ものトップ選手たち」のせいなのか。
結論めいたものはここでは書きません。そもそも誰かのせいにしたところで悲劇が悲劇じゃなくなるわけでもありません。私たちにできることは、悲劇と向き合い、それを受け入れることだけです。
ああ、仕方がない。ギコギコ(ノコギリでグリップを切る音)。