肩の位置を安定させる筋肉=ローテーターカフを鍛える

射撃競技には、基本的には筋力はそれほど必要ありません。ライフルなんかは特にクソ重いですけど、射撃姿勢を正しくとれば骨格の組み合わせだけで銃を支えることになります。筋肉の力で支えるわけじゃありません。もちろん、安定した姿勢をとるために必要な筋肉というのはありますけれど、それは目に見えてわかりやすいムキムキとした筋肉じゃなく、身体の奥の方で骨同士を繋いでる細い筋肉群です。体幹とかインナーマッスルとか(※)呼ばれています。

※正確に書くと、体幹というのは全身にあるインナーマッスルのうち、胴体(腰)周りにあるものに限定して呼ぶ言葉になります。「体幹⊂インナーマッスル」ってことです。

しかしピストルはさすがにそうはいきません。手に銃をもち、腕を身体の横に伸ばして射撃姿勢をとる以上、どうしてもある程度の筋力は必要になります。特に大事になるのは肩関節周りの筋肉です。

ただ、人間の肩関節というのは、人間の持つ関節の中でも特に不安定な構造をしています。いわゆる「肩」と呼ばれてるところにある関節、アレって身体のどこにも固定されていません。関節ごと前後上下に自由に動かせてしまいます。ちゃんとした医学知識を提供してるWebサイトにも、こんな記述があるくらいです。

肩関節は他の関節と比べて、可動域が格段に広く様々な方向に動かすことができるようになっているので、身体の中でもっとも複雑な構造をしているといっても過言ではありません。他の関節で見られるような骨格や靭帯による安定性が肩部分には欠けており、肩関節(肩甲上腕関節)の安定性は周囲の筋肉に頼る形となっていますが、本質的に不安定であるのに変わりはありません。
引用元:mcdavid

そんな不安定な肩関節をどの位置に固定するかをコントロールし、関節の安定性を高めるのが「ローテーターカフ」と呼ばれる筋肉です。肩甲骨の周囲にある小さな筋肉の総称なのですが、肩を使うスポーツでは非常に重要な役割をすることから、射撃ではないもっと競技人口の多いメジャーなスポーツ(具体的には野球など)においてもそのトレーニングは重視されていまして、ネットで検索すれば大量にトレーニング方法などの情報がヒットします。

上腕骨の一番上にある球状になってるところに片側が、もう片側は肩甲骨の表や裏にへばりつくようにしてくっついてるのがローテーターカフと呼ばれる4つの筋肉群です。イラスト引用元:melos


ローテーターカフと呼ばれる筋肉は全部で4つあります。どれも、肩甲骨から延びていて腕の骨の一番上・肩関節との接続部分にある大きな球状をした箇所(上腕骨頭)につながっています。肩甲骨の上から延びているのが棘上筋、背面から延びているのが棘下筋、下から延びているのが小円筋、肩甲骨の裏側(肋骨との間)から延びているのが肩甲下筋です。

ピストル(&腕や手)の重さをダイレクトに支えるのは棘上筋です。

そのほかの3つの筋肉は、ピストルを支える働きには直接は関与しませんが、肩の位置を安定させるという非常に重要な働きをします。肩を支点にして腕を上げ、前方に銃が浮かんだ状態にするのがピストル射撃ですが、その「支点」になる場所が不安定だったら何もかもが不安定になってしまいます。ピストルの重さを棘上筋で支えた上で、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の3つで支点となる肩関節の位置を決める形になるわけです。

ローテーターカフのトレーニング方法

ローテーターカフを鍛えるにはいくつかの方法がありますが、一般的なのは細いゴムチューブや弱めのゴムバンドを使い、その片方をなにかで固定し、もう片方を手で握って、ゆっくりと伸ばし・戻すを繰り返すというものです。「セラバンド/セラチューブ」という名前で、専用のバンドやチューブも販売されています。たかがゴム紐のくせにちゃんとしたスポーツ用品店で買うとけっこうな値段がするのですが、色によって強さが違う=負荷を調整できるなど利点も多く、愛用者はそこそこ多いです。

実は、ピストル射撃の世界では全国のトップシューターが師匠と仰ぐ木田先生も、「コレあんまり言うと回し者って思われそうだけれど面倒なんで具体的に商品名出しますね、セラバンドってあるでしょ、あれが肩関節のトレーニングするなら最適です」って講習会で仰ってたくらいなので、まあコレを選んでおけば間違いないってことなんだと思います。

セラバンドは色によって強さが違います。黒・ブルーは強い方の色で、説明書を見ると「大学生・社会人・プロアスリート向け」なんてことが書いてあります(さらにその上にシルバー・ゴールドがあります)。自分は大人だし、アスリートとして射撃の練習をするんだから強いヤツを買ったほうがいいのか……?とか思いがちですが、それは違います。ローテーターカフは最初に書いた通り小さい筋肉です。当然、そんなに大きな力を出すことはできません。強いゴムバンドを使うとローテーターカフでは引っ張れなくなり、他のもっと大きくて力の強い筋肉が自動的に手助けを始めてしまい、結果的にローテーターカフのトレーニングにはならないのです。

おすすめはイエローかレッドです。「リハビリ用・中学生用」とか書いてあるんで、これで大丈夫なのか?って思ってしまうかもしれませんが、それで大丈夫です。

4つの筋肉のトレーニング方法を以下に図示します。大事なのは、どれも使うのは肩甲骨にへばりついてる小さい筋肉だけで、大きな筋肉(僧帽筋とか上腕二頭筋とか)は脱力したままにすることです。最初はそこらへんをもう片方の手で触りながら、そこに力を入れないままにゴムを延び縮みさせるように心がけましょう。

①棘上筋

腕を横に上げる時に使われる筋肉です。

1.セラバンドの端を足で踏んで抑えます
2.もう片方の端を手で持ちます。手を下げた状態で緩みがないように調節します。
3.その状態で腕を真横に45°まで、「3秒間かけてゆっくりと」上げ、それから「3秒間かけてゆっくりと」下ろします。
4.30回繰り返します。

★注意★
まっすぐ立った状態で行います。
腕が曲がらないように。
肩をすくめないように。
親指を天井に向けるように意識。

②棘下筋

腕を背中側に動かすと時に使われる筋肉です。

1.トレーニングしたい方の脇の下にタオルを挟みます。
2.両腕とも肘を90°に曲げてセラバンドの両端を持ちます。
3.トレーニングしない側の腕は固定したまま、トレーニングする側の腕を外方向にゆっくりと曲げて、戻します。
4.30回繰り返します。

★注意★
手首は固定したまま、腕だけを動かすようにしましょう。

③肩甲下筋

腕を内側に動かす時に使われる筋肉です。

1.トレーニングしたいのと反対側の手でセラバンドの端を持ち、トレーニングしたい側の腰あたりに固定します。
2.トレーニングしたい側の手を背中に回してセラバンドを持ちます。
3.背中側の手をゆっくりと3秒かけて後ろに開き、ゆっくりと戻します。
4.30回繰り返します。

★注意★
肘から先だけを動かすのではなく、腕全体を後方に動かします。

④小円筋

腕を身体の外側に動かす時に使われる筋肉です。

1.できるだけ高い机(座った時に机面が乳首くらいの高さになるような机)に、トレーニングした側の肘を起きます。
2.もう片方の手はセラバンドの端を机に押し当てて固定します。
3.トレーニングしたい側の手でセラバンドを持ち、外側に向けてゆっくりと動かし、ゆっくりと戻します。
4.30回繰り返します。

★注意★
手首だけを動かす形になりがちです。手首は固定し、肘から先を動かすようにしてください。
前かがみになったり、逆に身体が反ったりしないように気をつけてください。

大事なこと
表に出てる大きな目立つ筋肉(僧帽筋や三角筋)に力が入らないように気をつけましょう
痛くならない範囲で少しずつ続けましょう

痛みが生じたら|ローテーターカフの故障

ピストル射手にとって大敵となる故障、それが棘上筋の炎症です。「インピンジメント症候群」なんて名前もついてたりします。棘上筋の片方は肩甲骨の一番上あたりに、もう片方は上腕骨頭にへばりついていますが、その途中で肩の骨の一番飛び出して尖ったところ(肩峰)にある小さいトンネルを通っています。棘上筋が伸縮することで、その小さいトンネル内を細い腱がヌルヌルと動き、肩関節を上方向に引き上げたり下ろしたりしています。


wikiにわかりやすいGIFアニメーションがありました。

しかしこのトンネル、他にもいくつもの筋や骨や靭帯が関わっていまして、他が固くなったり動きが悪くなったりすると腱の通りが悪くなり、そうすると炎症が起きてますますトンネルを上手く通らなくなり、引っかかって痛みを感じ、同時に炎症がますます酷くなるという悪循環が起こり、最終的には腕が上がらなくなってしまうという最悪の結果になります。

予防のためにはストレッチを丁寧に念入りにすること、痛みを感じたら無理をせずに痛みが消えるまで休むことが大事です。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ