射撃に限らずどんなスポーツでも、「練習とは、そのスポーツで行う特定の動作をぶっ倒れるまで延々と繰り返すことである」――みたいな指導方法が通じた時代は遠い過去のものとなりました。野球のピッチャーに「投げ込みをさせる」とか、陸上選手に「ひたすら長距離を走らせる」みたいな練習を強いるような指導者はもういません――とは断言できませんがおそらく絶滅危惧な存在でしょう。どんな分野でも、明確な目的をもって様々なトレーニングを行うことで総合的なパフォーマンスを向上させていくという考え方は浸透していると思います。
ところが射撃の世界では、まだまだ古いやり方が生き残っています。実際に射撃場に来て練習してるそこそこ熱心な射手(若い方もいれば、それなりにお年の方もいます)でも、その練習手順というとだいたいこんな感じになります。
・射撃場に来る
・荷物を広げて銃と用品を出す
・銃を射座に置いて用品を身に着けて撃ち始める
・終わったら片付けて帰る
ウォーミングアップもなければクールダウンもありません。基礎的な体力トレーニングをしている様子もあまり見かけません(自宅で日常的に行ってるのかもしれませんけれど)。
「上手くなりたいなら、とにかくたくさん撃って練習しろ」
というような、他スポーツだと絶滅危惧種な指導者でもなければさせないような前時代的な練習方法が、まだまだ射撃の世界では「普通のやり方」になってしまっているということです。
先日の「もっと上手くなるにはどうしたら」という投稿に経験者が寄って集って親身にアドバイスしてたTargetTalkのスレッドの最後に紹介されていたウクライナの射撃情報サイト、リンク先がちょうどそういったことに関連する内容でした。元がロシア語なので機械翻訳頼みになってしまい、「解釈にこまる場所では原文を参照」とかできないので、本当に骨組みの部分だけをさらっと紹介した上で、私個人の解釈を付け加えていく形になりますが、それでも十分に役立つ内容になってるかと思います。
※元サイトに書かれてた内容は青文字、私個人の解釈は通常の色(黒)と色分けしてあります。
サイトの中身を全部見ていこうとするとなにせ膨大な内容なので「全部紹介」なんてことしたら数年間はこのブログがその内容で埋め尽くされそうですし、それ以前に著作権的に完全にアウトです。それでも、「ここだけは紹介しておきたい」と思える箇所だけに絞ってちょくちょく紹介していきたいと思います。
引用元:shooting-ua.com “Общие практические занятия при занятии стрельбой Источник”
射撃に限定せず、「総合的な体力強化」を目的としたトレーニングを実施するためのガイドラインを示します。特に射撃スポーツに関連するトレーニングプログラムとはどういうものかを考察します。
1.ウォームアップ
ウォームアップの目的は大きく分けて3つあります。
・身体の準備
・心の準備
・社会的目標
このうち「身体の準備」はわかりやすいと思います。血流を促進し筋肉をほぐし関節の可動性を向上する。ウォームアップとは何のためにするのかって言われたら、ほとんどの人はまずそれを挙げると思います。
このサイトでは、そのほかに2つの「目的」が挙げられてます。「心の準備」というのは、集中力を向上させたり、モチベーションを高めたりといったものです。他に「環境への慣れ」なんてのものありました。射撃場の雰囲気に慣れて、「ここで、私はこれから練習をするんだ」という意識付けをはっきりとさせる、そういう意味があるんじゃないかと思います。
あともう一つの「社会的目標」というやつ。コーチやチームメンバーとコミュニケーションを取り、一緒に同じ行動を取ることで共同体意識を持つことを目的とするんだそうです。最初はなんだそれって思ったんですが、良く体育会系の部活で号令かけながら柔軟してたりランニングしてたりする、ああいったのが該当するんじゃないかと思います。一人だけで誰とも話さず孤高の立場でただ練習して帰って、試合に来て撃って終わったら帰って、それを繰り返すよりも「人生において、そのスポーツを続ける意味」がより明確になる――みたいな効果があるのかもしれません。ここばっかりは自分自身がそういう(体育会系っぽい)世界と無縁の人生を送ってきてるので完全に想像になりますが。
注: ワークアウトの開始時にはウォームアップが不可欠です。その目的は、これから行う身体的な負荷、精神的なストレス、そして必要な社会的交流に備えることです。
このページでは、特に注視すべき内容がこんな感じで強調されています。「ウォームアップは不可欠なものである」というのが、最初に強調して書かれてる内容になります。やってもいいしやらなくてもいいものではない、人によってやる必要がないといったものでもない、「絶対にやらなきゃダメ、それ抜きで練習を開始することは悪影響がある」と断言されています。
その意見が正しいか正しくない(例外があったりするのではないか)という判断は後回しにして、とにかく先を読み進めましょう。
2.ストレッチの必要性
かつてストレッチは あらゆるスポーツのアスリートのトレーニングに必須の要素でした。通常はウォームアップの後、激しい筋肉運動の前に行われていました。この種の運動は健康に有益で、怪我の予防にも役立つと考えられていましたが、この考えを裏付ける科学的根拠は見つかっていませんでした。
研究によると、ストレッチは可動性を高め、心身の健康全般を改善することが示されています。しかしながら、ストレッチと怪我の予防には直接的な関係はありません。
したがって、パフォーマンスが可動性に左右されるアスリート(体操選手、ジャンパーなど)にとっては、ウォームアップ中のストレッチが推奨されますが、他のスポーツに携わるアスリートは、ストレッチを行わない場合もあります。
ここで、ちょっと唐突感がありますが「ストレッチ不要論」めいた一節が挟まります。一般的に言われていた「怪我の予防」には役立たない(少なくても意味があるということを裏付ける明確な証拠は見つかっていない)こと、関節の可動域を広げる効果はあるが、それは「そうすることで意味がある」スポーツなら意味があるが、そうでないスポーツなら意味がないということなどが挙げられてます。
別リンクに「射撃トレーニングの前に行なうウォームアップの手順」が書かれていました。
まずは「こういうのはダメ」という要件として4つのNG要素が挙げられてます。
ウォームアップには、次の基本要件が適用されます。
・エクササイズはシンプルで実行しやすいものでなければなりません。
・なじみのない要素や実行が難しい要素をウォームアップに含めてはなりません。
・一連のエクササイズにより、運動選手の身体を最適な戦闘準備状態にする必要があります。
・ウォームアップによって運動選手が疲労してはいけません。
これを把握した上で、ウォームアップの手順としてやるべきことが書かれています。
ウォーミングアップはゆっくりとしたジョギングから始め、その後、ウェイトトレーニングを伴わない一般的なエクササイズと筋力トレーニングをいくつか行うのが最適です。特に、ウォーミングアップ後に最も負荷がかかる筋肉群には、入念なウォーミングアップを行う必要があります。
ウォーミングアップの前半は、選手の全体的なパフォーマンスを向上させることを目的としており、後半は射撃に向けての準備を整えることを目的としています。専門的なウォーミングアップには、以下の軽い運動が含まれます。
・短時間の低強度ジョギング(5~7分)
・ウエイトを使わない一般的な発達運動
・簡単な柔軟性運動
一般的な話になりますが、ウォームアップで行われるストレッチは、大きく分けて「静的ストレッチ」と「動的ストレッチ」の2種類があります。
静的ストレッチというのは、特定の筋肉を限界まで伸ばして十数秒保持するもの、昭和生まれ人間としては「柔軟」って言われたほうが馴染みが深いアレですね。目的は関節の可動域を増やすこと。だから体操など「身体が柔らかいこと」がそのスポーツにとって重要である場合は必須になりますが、そうでない場合は必ずしも必須ではない――みたいなことは最近になって良く聞くようになりました。
射撃の場合、「射撃姿勢をとることが難しい(痛みがある)」ような場合は、関節の可動域を増やすための静的ストレッチが必要になるかもしれませんが、そうでないなら無理して筋肉を伸ばすストレッチ(柔軟)は行わなくてもいい、というようなことが書かれています。ウォームアップに適しているストレッチとして紹介されることが多いのが動的ストレッチ(ダイナミックストレッチとも)です。身体全体を動かしながら関節の可動域ギリギリまで動かしていくものです。リラクゼーションをもたらすゆっくりとしたストレッチは有効だ、と書かれています。
ダイナミックストレッチとか、なんか新し目の言葉で呼ばれてるのですごく特殊なものに思えるのですが、実は私たち日本人に取ってものすごく身近な「ラジオ体操」、複数の専門家が「優れた動的ストレッチである」って太鼓判を押してたりします。射撃の練習前にウォームアップ目的で体を動かすなら、ラジオ体操をひととおりやればOKって結論付けちゃってもいいかもしれません(もちろん、元のウクライナ教本にはラジオ体操なんて一言も出てきませんけれど!)。
3.体位と筋力強化
射撃スポーツで成功を収めるには、体位の改善が特に重要です。そのためには、体幹と四肢の筋肉の総合的な筋力ポテンシャルを高めることが不可欠です。アスリートは、一定時間(特に静的競技において)、使用する銃を自信を持って保持しなければなりません。さらに、骨格系、特に脊椎への負担を軽減するために、筋肉によるサポートも必要です。良い姿勢とは、緊張と体重のバランスです。この概念は、射撃競技に携わる人にとって特に重要です。射撃競技は筋骨格系に過剰な負担をかけるからです。さらに、体幹と四肢の筋肉を強化するトレーニングは、健康全般の改善にもつながります。
射撃に必要な筋肉は「身体全体の安定性を高めるための、バランスが取れた筋肉」だってことが強調されてます。「インナーマッスルを鍛える」とか「体幹トレーニング」とか、射撃スポーツにおけるフィジカルトレーニングというと、そういうワードが良く出てきますが、概ね同じようなことが書かれているようです。
と、ここまでは思ってたのですが、この後に唐突に、「ピラティス」というトレーニングシステムについての激推しが始まります。テキスト全体の1/3くらいの分量を使ってピラティスの目的や効果、実施方法などについての紹介が延々と続いていきます。
私は全然知識が無かったのですが、このピラティスってやつ、日本でもかなり流行ってるっぽいですね!? 特に、姿勢などを補助してくれる専門の機械を使った「マシンピラティス」は大ブームといっていいほどで、検索してみただけでも近辺にピラティススタジオと称するものが複数件、ひしめくように乱立していました。ざっと調べた感じだと、「ヨガと太極拳を足して、マシントレーニング風味を加えたもの」って感じでしょうか。
ちなみに奥戸スポーツセンターで開催されてるスポーツ教室にもピラティスがありました。それも「かんたんピラティス」「ペルヴィスピラティス」「やさしい美姿勢ピラティス」と、講師が違う教室が複数あって選び放題。射撃場のすぐ隣でやってるのね……全然知らなかった……。
翻訳が怪しげなウクライナ教本ではなく、日本語Wikiから引用してみます。
現在ピラティスは体幹とインナーマッスルの強化法として広まっているが、実際には体全体を整える効果があり、体幹だけでなく四肢の筋力強化、柔軟性の向上、筋持久力の向上も期待されている。
ピラティスでおこなわれるエクササイズのほとんどは脊柱 (背骨) や骨盤の動きに焦点を当てており、ピラティス独特の呼吸法と組み合わせながら、それらのアライメントを整えることに重点がおかれている。
とまあ、かなり良い感じのことが書かれてます。ただ、このWiki項目は「大言壮語的な記述」「独自研究が含まれているおそれ」「広告・宣伝活動的であり、中立的な観点で書き直す必要」と、複数の問題点が編集者によって指摘されてたりします。まるごと鵜呑みにして「すげー、すぐに近くのスタジオに入会しよう!」みたいなことするのは流石に先走りしすぎじゃないかと思います。
間違いなく言えるのは「えらく流行ってるらしい」ってことだけですね。とりあえずYoutubeの入門動画を見つつ、入門書も参考にしながらどんなもんか調べてみたいと思います。
4.射撃に有効な体幹トレーニング
あらゆる射撃競技において、射撃選手が練習中に取る射撃姿勢は、程度の差はあれ、姿勢の悪化につながります。射撃姿勢は、猫背や脊柱の湾曲の形成にも影響を及ぼします。経験豊富な射撃選手は、ライフル射撃選手では右側弯症、ピストル射撃選手では左側弯症といった姿勢の変化を経験します。最近の研究では、たった1回のトレーニングセッションでも身体の状態に変化が生じる可能性があることが示されています。射撃手の80%で1~4°の脊椎偏位が記録され、被験者全体の8%では最大5°の偏位が見られました。これらの偏位は、1回のトレーニングセッション後1.5~2時間持続しました。しかし、トレーニングセッション直後に予防的なエクササイズを実施した場合、脊椎の自然なアライメントが回復しました。
ピラティスの広告みたいなコーナーを抜けると、いきなり真面目に「射撃スポーツを行なうことによる身体への悪影響」についての解説が始まります。落差がすごい。
射撃の練習を短時間にやたらと頑張りすぎると腰を悪くしやすい、みたいな話は以前から良く聞く話でしたし、射撃やってる方々にとっては実感としても確かにそういうのあると思います。それをふんわりした印象だけじゃなくしっかりした研究結果として示してくれているのはありがたいですね。
ここだけ見ると「射撃スポーツは身体に悪い」みたいな印象を持ってしまいそうです。実のところどんなスポーツでも、「100%身体に良い」ってわけじゃなく、頑張りすぎれば身体機能に悪影響を及ぼす要素ってのはどっかしらにあると思います。これは射撃スポーツのそういう側面について書いてある箇所だって考えるといいんじゃないかと思います。
体幹筋を十分に強化した射手は、こうした高い静的負荷にも容易に耐えることができます。射撃訓練(速射を除く)には、高いレベルの筋力持久力が必要です。
射撃ストレスが射手の身体に与える影響は甚大です。射撃姿勢の維持や銃器の重量といった静的負荷が繰り返し加わることで血行が阻害され、身体の一部の筋肉への血流が遮断されます(例えば、伏射の場合は支持腕、膝射の場合は支持腕と脚)。銃器を静止した状態で保持し、狙いを定める際に息を止めると、胸が締め付けられるような感覚と浅い呼吸につながり、肺活量が低下します。
「射撃姿勢を取ると身体の一部が強く圧迫されて血流が遮断される」って記述は、ピストル射手にとってはなにそれって感じてしまう部分ですね。ライフルの伏射や膝射、特に伏射なんかは何の拷問だってくらいに身体を締め付けるので、筆者がこの部分を書いてるときに念頭に置いてたのはピストルよりはむしろライフル射手の方でしょう。
この後には、器具を使わないで体幹を鍛えるエクササイズがいくつか紹介されてます。といってもそんなユニークなもんじゃなく、シットアップやプランクやサイドプランクといった「その手のトレーニング入門本」には必ず載ってるようなものが並んでます。こういったトレーニング(エクササイズ)をすることで、射撃の練習を行った直後に生じる脊椎の偏位の回復を早めることができる、ということのようです。
射撃場まで行って練習する場合、「蛍の光」が流れ始める終了時間ギリギリまで撃って大急ぎで片付けて帰るのではなく、早めに射撃練習そのものは切り上げて片付けてから、こういった「回復のためのエクササイズ」を行って身体を整えてから帰る、というのを習慣にしたほうが、身体を傷めずに長く射撃を続けられるということなのでしょう。
最後に、ゴムバンドを使っての筋力強化についてもさらっと触れられてます。「体幹を鍛える」とか「インナーマッスルのトレーニング」とかそういうフレーズで語られる分野では、もう定番ですね。ピストル射手の場合、細いゴムのバンドやチューブを使って、肩の奥の方の筋肉群(ローテーターカフ)などを鍛えるのは、肩の位置を安定させることにダイレクトにつながるのでスコア向上の効果が期待できます。
「セラチューブを使ったローテーターカフのトレーニング方法」の紹介は、当ブログに掲載しようと思って途中まで書いてたところで別の用事ができてほったらかしになっちゃってました……。これもいつか記事にしますね!
長々と書いてきましたが、ざっくりとまとめちゃうとこんな感じになります。
・練習でも試合でも、射撃をする前はウォームアップ、終わった後は身体の歪みを整えるためのエクササイズをしましょう。
・ウォームアップは、軽く走るくらいの運動の後にラジオ体操をするのがおすすめ。
・撃ち終わった後、身体を整えるために数十分ほどエクササイズをしましょう。
・体幹を鍛えて身体を整えるためのエクササイズとして「ピラティス」が推奨されていました。
ピラティスについては、調べれば調べるほど「意識高い系の女性だけの世界」っぽいイメージばかりが膨らんでて、もう完全にアウェイな世界なんで「ちょっと試させてください」って入っていくのは正直怖いです……。