2026ISSF新ルールについてざっとチェック

2026年1月から有効となるISSFの新ルールについて、Draft(草案)が12月7日に発表されました。草案とはいいますがこれはほぼ決定で、変更になるとしてもちょっとした文言の修正やデザインの見直し程度とのことです。

V2 ISSF Rules 2026 DRAFT.pdf

ラピッドファイアがなくなるんじゃないか

ミックスのルールはいくらなんでもわかりにくすぎる

ライフル選手の射撃ジャケットやコートは「テクニカルドーピング」である、大幅に制限するべきである

とまあ、いろんな話が事前に出てまして、いったいどんなルール変更になるのかということを(特にライフル射手の方は)戦々恐々としながら待ち構えていたわけですが、発表されてみると以外とライフルの方の変更はそれほど大きなものではなかったようです。ジャケットの厚さや硬さの計測方法や上限の数値などは変更がありましたが、事前に噂されてたみたいな「ジャージのようなものを着て撃つことになるのでは」みたいなことにはならなかったようで、とりあえずは一安心ということなのでしょうか。

PDF内では、変更になった箇所が赤字でハイライトされてるのですが、「あれ、これはどこが変わっているの?」って見るだけだとわからない部分も多く、雨の日曜日にちょっと時間をかけて従来のルール(2023版)と比較し、大きな変更があった場所をピックアップしてみました。

※なお、気にしてるのは基本的にピストル関連がメインになります。ライフルについては「いままでどうだったのか」がよくわかってないんで変更になったと言われてもどうにもよくわからず、ルール変更が一目瞭然な箇所だけに限ってます。

競技名の略称が小変更

アルファベットで表記する競技名がちょっとだけ変更になりました。
「男子競技にはMを、女子競技にはWをつける」「弾数を数字で表記するのをやめる」といったあたりが主な変更点のようです。下記は一例です。

10mエアライフル立射男子:AR60→ARM
10mエアライフル立射女子:AR60W→ARW
50mライフル3×20男子:FR3X20→R3PM
50mライフル3×20女子:R3X20→R3PW
10mエアピストル男子:AP60→APM
10mエアピストル女子:AP60W→APW
50mピストル(男子のみ):FP→FPM

スマホやスマートウォッチ等についてのルール変更

携帯電話その他の携帯通信機器(例:タブレット端末等)、電子機器または手首装着型機器(例:スマートウォッチ、フィットネストラッカー)に関するルールの変更です。

従来は「射座では使用してはならない」と書かれていましたが、新ルールでは「競技場内では通信モードにしてはならない」という表現に変わりました。

ということはつまり、「通信モードにしなければ射座に持ち込んでも良くなった」という緩和があったかわりに、「射座以外でも通信モードにしてはならない」という規制強化があったという解釈ができます。射座の後ろで順番待ちしてるときにTwitter見たり書き込んだりできなくなったってことでしょうか。

スマホは機内モードにすればOKですが、「通信モードをオフにする機能」を持ったスマートウォッチとなると、かなり機種が制限される可能性があります。少なくてもアップルウォッチにはその機能ないですよね?

ファイナルでは「ライブエイミング装置」の装着が義務化された

先日の投稿にて、「ファイナル出場選手の銃に強制的にSCATTを装着し、観客向けのディスプレイに照準軌跡を表示する」というアイデアがあること(一部ではテスト的に行われていること)をお伝えしましたが、それがどうやらルールで明文化されるようです。

※ルール内ではSCATTではなく「ライブエイミング装置」と書かれていますが、実質的にSCATT以外の選択肢がありません

しかも「推奨する」とかそういうレベルじゃなく「しなければならない」と書かれてますから、日本で行われる大会のファイナルでも出場者全員がSCATTを装着し、その照準をライブタイムで観客に見せられるという公開処刑が行われるということになるはずです。これは出場選手も大変ですが大会実行委員側も大変でしょう……。

[追記]この項目、改めて読むと「テレビ中継が行われる公式ISSF大会および選手権において、10mおよび50mライフル・ピストル種目の決勝進出者は全員、銃器にライブエイミング装置を装着しなければならない」とありますので、テレビ中継が行われない大会においてはそういう義務付けはないって解釈できます。ちょっと先走りすぎました

そんな金や人員(SCATTのデータを受信して大型ディスプレイに表示するなんてスキルを持った人)をどうやって確保すりゃいいんじゃいって途方にくれそうになりますが、この追加したルールの最後のところにはダメ押しみたいに「ISSF大会においてこのサービスの技術的実施を確保するため、あらゆる便宜を図らなければならない」とまで書かれてるので、これはもうISSFとしては「なにがなんでも全力で」実現したいと考えている施策ってことなんじゃないかと思います。

競技一覧に50mピストル女子が追加

6.11.9.8の競技一覧に、「50m Pistol Women , 50m Pistol Women Junior」なんてもんがしれっと追加になってます(これまでは男子しかなかった)。

ファイナル関連の変更

いろいろ変わってますが一部のみ。

・選手紹介のタイミング
従来はプレパが終わってから選手紹介だったのが、新ルールでは射座に入ってすぐに選手紹介、それからプレパ開始という形に変わりました(これは現行の暫定ルールでも既にそうなってたような記憶が)

・ライフル3姿勢のルールが大きく変更
従来は、「Kで5発200秒x3→7分で組み換え→Pで5発200秒x3→9分で組み換え→Sで5発250秒x2→最下位2名脱落→1発50秒→最下位1名脱落、以降最後の1人が決まるまで繰り返し・決勝の総射撃数は45発」でしたが、新ルールでは「K10発+P10発を22分(KからPへの組み換え時間およびその後に行われるSへの組み換え時間を含む)→Sで5発250秒x2→最下位2名脱落→1発50秒x2→最下位1名脱落、以降最後の1人が決まるまで繰り返し・決勝戦の総発射数は40発」と変わりました。

これはTV放送するのは最後のSだけにするつもりなんじゃないでしょうか(パリ五輪の中継見ましたけれど、K→P→Sの3つと組み換え&試射時間を全部中継してたから、さすがにちょっと長すぎでしたし)

・ラピッドファイアピストルのルールが大きく変更
従来は、「2人でかわりばんこに1つのターゲットに撃つ、ターゲットは3つ用意されるのでファイナル進出は6名」だったところが、新ルールでは「2×2の4人で入れ代わり立ち代わりで1つのターゲットに撃つ、ターゲットは2つ用意されるのでファイナル進出は8名」に変わりました。1つのターゲットに4人なのでワヤクチャにならないように撃つ順番とか待機場所をどうするかとかが、ルール内に図解入りで詳しく説明してあります。

・MIXファイナルのルールが大きく変わった
これまでの、「2人 vs 2人」で撃って0.1点でも高かった方に2ポイント入って……みたいな摩訶不思議なルールではなく、普通に撃ったスコアの合計点で勝敗を決める形になるようです。

ファイナルに進出するのは予選上位4ペア(8人)で、ファイナルでは、その4チームの全員がまず3発250秒x3、続いて1発50秒x3、その時点で累積得点が最も低いチームは4位で敗退が決定。

残った3チームでさらに1発50秒x3を撃って最下位が銅メダル決定、さらに残った2チームで1発50秒x3で金メダルと銀メダルが決定……という流れとのことです。

ライフル関係

最初に書きましたがライフル関係は「もともとどうだったか」を良く知らないので、さらっと目立つ部分だけピックアップして終わりにします。

銃そのものに関するルールの変更・追加

・グリップについて
「解剖学的形状に形成されてはならない」というルール(従来からあったもの)について、下記のような注釈がつきました。

「解剖学的形状」とは「特定の選手の手に合わせるため、メーカー提供のオリジナルグリップから素材を追加・除去すること」と解釈される。意図は、下図のようにグリップが滑らかで、個々の指や親指の形状に成形されていない状態であること。3Dプリント製法または格子構造によるグリップは、選手の手に個別にフィットするよう成形されていない場合に限り許可される。

最初、ここだけ見てエアピストル等にも適用されるルールなのだと勘違いして「なんだそりゃぁ!」ってなりましたが、よく見たらライフルだけの話でした。

・ウエイトについて
「照準器下部に追加された重量は銃身の重量とはみなされないが、ライフルの総重量が許容最大値を超えない限り許容される。」という文言が追加されてます。もしかしたら、先述のファイナルでのSCATT装着義務化にともなうものかもしれませんね。

・服装に関するルール
ジャケット&パンツに関しては、硬さ・厚さの測定方法にいろいろ追加されてるけれど形状などについての大幅な変更はないっぽいです?

従来のジャケットを「テクニカルドーピング」扱いして、ジャージみたいなものになるんじゃないかって大騒ぎしてたアレはなんだったんだ……

ピストル関係

・サイトについて
「禁止される照準器」に関する項目にいろいろ追加されてます
b) 発射機構を作動させるようプログラムされた照準装置は一切禁止する;

b) 発射機構を作動させるようプログラムされた照準装置、または射手に発射タイミングを指示する装置は禁止する(標的を照準した時のみ発射を許可する安全装置も含む);

こんな項目が追加されるってことは、こういうことを実際にやった人が現実にいるってことなんでしょうか……。

・電子トリガーについて細かい項目が追加
c) トリガーは押して発射する原理で動作し、動作シーケンスに遅延がないこと(最大遅延0.02秒)
f) 競技中、ピストルはバッテリー充電器を除き、いかなる装置にも接続してはならない。競技中またはPET中に選手がピストルを装置(電子的接続またはケーブル接続)に接続した場合、失格とする。

「遅延があっちゃダメってどういうこと」って思われるかもしれませんが、ピストルの場合、もし「トリガーをぐいって引いた0.5秒後に発射される」なんてシステムがあったら、とんでもないチートアイテムになります。トリガーを引く瞬間ってのが一番銃が動いてしまいやすいときなので、その瞬間を避けたタイミングで発射してくれるなら、そんなありがたいことはないわけです。私でも580くらい撃てるかもしれません。

トリガーを引く0.5秒前に弾が出てくれれば理想ですがそんなことは因果律的に不可能なので、現実的に実現可能なのは遅延システムってことになるんでしょう。これもルールでわざわざ書かれるってことは実際にやった人がいるんでしょうね……。

なお、振動軽減システムについての表記には変更がありませんでした。まるごと赤字になっていたので大幅変更になったのかと思いましたが、条文のナンバーが8.4.1.6から8.4.1.4に変わっただけでした。

ピストルのグリップについて

いろいろ追加されてます。

まずはグリップと手首の関係について、銃を構えた時に

従来:手首が明らかに自由な状態を保たなければならない

新ルール:手首は視認可能な状態で自由でなければならない。これは、選手の手をいかなる方法でもマーキングする必要なく、視認的に判断されなければならない

と変わってます。見ればすぐに明らかな状態である必要があるってことでしょうか。

あと、「手と銃の接触を強化するための接着剤や樹脂類の使用は禁止される。チョーク、タルカムパウダー、マグネシウムまたは類似物質の使用は許可される。」というフレーズが追加になってます。

また、グリップ素材に「圧縮性のある素材」は不可というルールが追加されました。

また従来は10m・25mとごちゃごちゃだったピストル関係の「形状に関するルール」がそれぞれ独立しました。そして10mピストルのグリップ形状についてもいろいろ追加になっているのですが、ここがどうにも解釈にこまる部分が多く、現時点では「こういうのはOK、こういうのはNG」と明確に示すのが難しいというのが実情です。

ルール発表後に解釈や運用方法などについての情報も出てくるでしょうから、現時点では様子見するしかないんじゃないかと……。

・ヒールレスト端部の形状についての規定が追加
d) 手首側において、ヒールレストの端部は、ヒールレストの端部に対して垂直に30度以上の角度で切断されていなければならない。

・ビーバーテイル部分の長さと形状についての規定が追加
e) さらに、親指と人差し指の間で手の甲に接するフレームまたはグリップの後部部分は、グリップが手の甲に最初に接触する点からグリップの最も深い部分(C)まで前方に向かって40mmを超えてはならない。グリップ後部(背面)は、その点からバレル中心線に対して45度以上上向きに傾斜して切削されなければならない。

ルールブックにあるイラストがコレなんですが、この30度とか45度ってどこを基準にどう測るのってのがどうにも確証が持てないんですね……。厳しめに解釈すると、これ自分がすでに持ってるAPをかなり大幅に(それこそグリップ内部の電子基板とかにも干渉しそうな勢いで)ざっくり切断しないと、クリアできなくなるんじゃないかっておそれがあるくらいです。

この他は、初速に関する規定(測定に使える装置が増えるなど)が追加された程度です。靴に関してはルール変更は特になかったようです。

池上ヒロシ

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池上ヒロシ